一から百まで

渡辺 佐倉

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「満足できなかったか?」

彼が眠らない理由をほかには思い浮かばなかった。
したい事していいって言ったのに、俺の方が先に音《ね》をあげてしまった。

百目鬼だけ、まだ悶々としていてもおかしくはないのだ。

「いや。噛みしめてただけだ。」

あり得ない様な幸せだったから。と百目鬼が言う。

「別に今日が最後って訳じゃないだろうに。」

何だよ噛みしめるって気恥ずかしい。
そう思いながらも、少し嬉しい。

綺麗な方の布団の脇をちょっと開けて、トントンと指さす。

「噛みしめるならここでもいいだろ?」

それに俺が百目鬼の近くでまどろんでいたいのだ。
百目鬼は静かに俺の隣に横になる。

もう、体が重くて、眠くてぼんやりとした頭で百目鬼の後頭部を撫でる。

眠れないときは撫でてやるのが一番だと思う。
そんなことをするのもされるのも、子供の頃の記憶しかないのに、半分寝かけた頭ではよく考えられない。

「ほら、いいこいいこ。」

徐々に、瞼が重くなって、眠ってしまう。
汗のにおいに混ざる百目鬼の体臭が心地よくて、思わず顔を寄せてしまう。

ただ、横にいる、百目鬼があったかくて、いつもよりよく眠れたことだけは確かだった。
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