一から百まで

渡辺 佐倉

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先走りをぬぐうみたいに指で触られただけで、快楽に震えるとは自分でも思わなかった。

そのまま、百目鬼の指が尻を撫でる。

期待しているのだろうか。俺が?

百目鬼が彼の旅行バッグをあさって、中からローションとコンドームの箱を取り出す。
それをみて少し笑う。

「準備万端だなあ。」

百目鬼に言うと「ずうっと、もう一度触れたくてたまらなかった。」と返される。

「服の下の肌がどんなふうに色づくのかずっと考えていた。」

太ももを撫でられる。
傷跡の上を指でなぞられて笑みを深めた百目鬼を見上げる。

「電気つけっぱなしで見放題見れてる感想は?」

俺が聞くと、無言で尻を撫でてそれから後孔の淵を指の腹で押される。

「ふ、あ……はっ……。」

それだけで声が漏れてしまう。
体が作り替えられてしまったみたいだ。

そのままローションを手に取った百目鬼は、自分の手にそれを出す。

温感ローションなのだろう。
妙に塗りこめられたところが熱い。

内壁に沿って、百目鬼の指がローションを塗り込める。

ぬぷぬぷという粘着質な音がする。

中が柔らかくなっているのが自分でも分かる。
百目鬼が昂りの裏側あたりを撫でる。

知られている。

たった一回のセックスで、百目鬼は色々見抜いている。
勝負の時にも感じた感覚が、既視感になってわき上がる。

訳わかんなくなってた俺と違って、ちゃんと百目鬼は覚えている。
覚えていて今日またセックスしようとしている。

「百目鬼、ちょ、ちょっと……。」
「信夫《しのぶ》って、今回は呼ばないのか?」

そう言われて、次の言葉が口から出ない。

はあ、という熱いため息が出る。
体が、百目鬼の昂りを受け入れたときのことを思い出す。

「あー、糞。お前ホント質《たち》わりいな。」

俺が言うと百目鬼は「春秋《ひととせ》よりは、悪くないからな。」と言い返した。
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