一から百まで

渡辺 佐倉

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「何って、恋愛相談というか、ずっとどんなに春秋が好きか話してた。」

まさか、春香にあの馬鹿げた告白と同じような事言ってないだろうなと思って思わずまじまじと顔を見る。
百目鬼は困ったように笑って、それから「毎日朝ランニングでちらっとでも顔を見れたとか、廊下ですれ違ったとか、目があった気がしたとかそんな話ばかりしてた。」と言う。
春香ちゃんとうちの妹が友達同士なんだよ。
百目鬼が言う。

「それで、春香ちゃんが気が付いた。」

俺がお前ばっかり見てる事に。
ずっと話してみたい。俺を見て欲しい。笑いかけて欲しい。キスをしてみたい。

そんな事ばかり考えていた。

ああ、下ネタは春香に直接は言ってないのかと安心する。

「なら、普通に話しかければいいし、告白すればよかっただろ。」

俺が言うと、百目鬼は切なそうに笑う。

「お断りされて、それでお終い。だろ?」

そりゃあそうだ。
多分普通にごめんなさいして終わってただろう。

友達として。と考えようとしてやめた。
変化が怖いのは分かる。

「で、自暴自棄になってあれか?」

百目鬼は首を振る。

「それも最初はするつもり無かった。」

「でも、春香ちゃんと部活の仲間に告白だけは絶対した方がいいって言われて。」

「絶対に忘れられない告白をすれば、少なくとも相手の気持ちに跡をつけられるかもしれない。」

って春香ちゃんに言われて。

「それなら、滅茶苦茶に振られて絶対に未来が無いって知りたかった。」

自嘲気味に百目鬼が言う。
その話は聞いた。

「だけど、諦められなくて、何度も何度も同じことを繰り返した。」

だんだん、周りが冗談だととらえ始めて、好きだって言う事自体誰も咎めなくなって。甘えた。

気持ちを伝える事自体あり得ないと思っていたから、その状況に甘えて馬鹿な事を言い続けた自覚はある。

「許してもらえないかもしれないけど。」

それが正直な気持ちだ。

「そんなに自分がゲイだっていうのが怖かったのか?」
「それもあるが、それだけならそもそもあんな告白はしない。」

隠しておきたいのなら、大切にしまっておく。

「それよりも、周りに無関心な一之瀬に、無いもの扱いされたくなかった。」

ああ、糞。
百目鬼がどこまで俺を見ていたのか分からない。

無関心って、そんな事ないって言えなかった。


まあ、不安だよな。
一歩先に踏み出す方は怖い。

俺は人より格闘技をやっている所為か、そういう恐怖心が薄いけれど、一歩踏み出すのは怖い。

どうなるか分からない不安を乗り越えられるかなんてわからない。

それこそ、相手が異性愛者だと知っていて告白をするなんて恐ろしく不安だ。


腰を前にずらして半分寝転ぶ様に肩まで風呂につかる。

「許すっていうか、別に気にしちゃいねえ。」

ただ、何だろう。湧き上がる愛おしさ。

それに、俺にもそういう恐怖心はある。
不安で一歩踏み出せない。そういう部分がある。

「だから、春香ちゃんが、一之瀬の事俺に勝手に話してたとか、そういうことはないから。」
「知ってるよ。
言ってるはずが無い。」

百目鬼は知らないから、俺と二度も勝負をした。

「恥ずかしい話をしたついでに俺の恥ずかしい話も聞いてくれるか?」

裸で風呂に入っている時にするような話でもないかもしれないけれど、こんな風に無防備な時でもない限りこんな話できない気がした。
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