一から百まで

渡辺 佐倉

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百目鬼は昨日で合宿が終わったらしい。
簡素な帰宅報告がメッセージアプリに届いていた。

朝、いつも通りの時間にランニングに向かうとそこに百目鬼がいた。

「おはよう。」

お互いに声を掛け合って走り始める。
昨日までと同じだ。

違う事は隣に百目鬼がいる事だけだ。

それがこんなにも嬉しい。

「なあ、春香と今まで何を話してきたんだ?」

走りながら聞くと百目鬼がむせたみたいに咳き込む。
少し面白いけれど、春香と二人の秘密があるみたいで嫉妬もある。

「そういえば、大会優勝したらって話、先払いしちまったけどどうする?」

セックスは自分の意思でしたいからした。
後悔なんて微塵もないし、次はもう少しうまくやる。

だから、吹っ掛けてしまった大会優勝の話は関係ないのだ。
そもそも県大会なのか、全国大会なのかさえ曖昧だった話だ。

「勝負は時の運だ。」

だけどと、走っていた百目鬼が俺の手をつかんで足を止める。

「優勝はする。
そうしたら付き合ってほしい。」

とっくに恋人同士ってやつになっていると思っていた俺は百目鬼が何を言っているのか一瞬分からなかった。
それに、百目鬼が言う通り勝負は時の運だ。負けたらこいつはどうするつもりなのだろうか。

それでも、俺は「いいよ。」とうなずいていた。

「恋人は隠し事なしだから、ちゃんと話してもらうからな。」

睨まれた百目鬼の手をもう片方の手でゆっくりと撫でながら笑う。
多分えらく挑発的な笑みを浮かべていたのだろう。

同じように百目鬼が笑う。

「……とりあえず、今日部活の練習終わったらアイスでも食おうぜ。」

俺が言うと「部活終わるの夕方だぞ?」と百目鬼が返す。
別に夕方でも充分だ。

「終わったら連絡しろ。迎えに行く。」

それだけ言うともう一度走り始めた。
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