一から百まで

渡辺 佐倉

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電車は思ったより少なくて一時間半に一本しかなかった。

スマホで調べておけばよかったと思いつつ電車を人のいないホームで待つ。
思い返すとひどく恥ずかしい事を言ってしまった気がする。

これじゃあ、百目鬼の事をとやかく言えない。

でも、気分はとても壮快だった。



家に帰ると、妹が俺の部屋に来る。

「お兄ちゃん、百目鬼先輩には会えた?」

おずおずと聞かれる。

「会えたよ。」

普通に答えると、春香は少し驚いた様に「別に先輩に会いに行ったわけじゃない。」って怒られるかと思ったと言う。

ああ、確かに。
少し前のおれであればそう答えたかもしれない。

開き直ったとか百目鬼の様に自暴自棄になったとか、そういう訳でもない。


ただ、ちゃんと自分の気持ちが認められる様になっただけだ。

「百目鬼と話をすることがあったんだっけ?」
「うん。」
「俺の話?」

妹が視線を彷徨わせる。

分かりやすい反応なのに、妹は何も答えない。
多分きっと百目鬼の事を気遣っているのだろう。

「ありがとうな。」

春香は自分の所為で百目鬼が俺にバカげた告白をしたと思っている。
それから自分の所為で俺と百目鬼が勝負をしたと思っている。

実際原因がどうだったのか、という部分はそれほど興味はない。
だけど、妹のおかげで今の俺の気持ちがあることも事実だった。

だから、ありがとう。
春香はきょとんとした後、ふわりと笑う。

「何を話してたかは直接百目鬼に聞くよ。」

そう言うと、妹は「多分お兄ちゃんびっくりしちゃうよ。」と言ってかわいらしい笑顔を浮かべた。
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