死に戻りオメガと紅蓮の勇者

渡辺 佐倉

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逆行後

二度目13

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* * *

その日は月の無い真っ暗な日だった。

性別判定の儀式のために神殿の外は明々と松明が燃えている。
まばゆいほどに燃え上がる松明が点々と置かれている中僕と同じ年ごろの貴族たちが一家族ずつ神殿の奥に進んでいく。

中は大きなホールになっておりその中心に一抱えもありそうな宝玉が置かれている。
そこに手をかざすと自分がアルファなのかベータなのかオメガなのか分かる。
ベータだと何も反応せず、アルファであれば宝玉は金色に光るらしい。

時々、金色に光ったのであろう、その貴族と派閥の者たちがわっと歓声ををあげるのが聞こえる。

初めての夜。僕はこうやって並びながらドキドキしていた。
自分の人生がこの先どんなものになるのか期待を膨らませていた。
なんなら、もしかしたらアルファかもしれないなんて思ってさえいた。

今はもう未来をちゃんと知っている。
静かに順番を待つ僕に両親は、緊張しているのだろうと勘違いしているようだった。

その心配する仕草ももう少しで見れなくなることを知っている。


彼は今日迎えに来てくれると言っていた。

必ず彼は来てくれるという確信があった。
少しだけしか話したことは無いけれど、彼はあらゆる手段を使って約束を守ってくれるだろう。

持ち出す荷物については昨日までに考えていた。
けれど、結局必要なものはあまり思い浮かばず、換金するための宝石や金をいくつかポケットに忍ばせるだけにした。

僕が直接雇用している使用人はいない。

これで僕が消えてもきっと何も変わらない日々が続くのだろう。


儀式は次々と進んでいよいよ僕の番になった。
宝玉に手をかざす僕を両親が並んでみている。

結果はもう知っている。

宝玉は白く光った。

オメガである証の色だった。


両親の悲鳴が聞こえるのとほぼ同時だったように思う。
最初、鳥が沢山羽ばたいているのだと思った。
けれど、その一つ一つが魔法で作られた宝石でできた蝶なのだと気が付いた。

それが僕を取り囲む。

宝石の蝶はまばゆく光っていた。
ああ、彼が迎えに来てくれたのだと思った。

「約束を守ってくださってありがとうございます」

姿の見えない彼に言うと、宝石の蝶は一際まばゆく輝いた。
目を開いているのも辛い明るさで思わず目を閉じる。

しばらくすると光は穏やかになった様だった。
目を開くとそこはもう神殿ではなかった。
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