17 / 34
逆行後
一度目の後悔 (※ノヴァ視点)
しおりを挟む
※ノヴァ視点
自分は平民の中でもあまり裕福でない方の家に生まれた。
だから医者にかかる金も無く、目の色が変化したときも慈善事業で治療をすることのある教会に駆け込むことしかできなかった位、貧乏な家の出身だ。
運が良かったのか悪かったのか、教会で瞳の色が変わってしまった俺を一目見た教会の人間は慌てふためいて上司を呼んでいた。
そこで奇跡判定を受け俺は勇者になった。
神にその祝福を授けられる儀式で実際に俺は女神を見た。
異形のその姿は明らかに人間ではなく、畏怖というよりは完全な恐怖で固まる俺にその女神は俺に授けた権能について一方的に話した。
時間を逆行させる権能。
しかもそう何度も使えるものではないらしい。
完全に“失敗”したときにやり直すためのものだと思った。
この人ならざるものは俺が失敗するという前提で俺に力を与えたのかと少しばかり嫌な気分になった。
この奇跡は魔王を倒すためのものらしい。
しかもそれ以外は少し上方修正される程度で特になんの能力も与えられてないらしい。
幸い俺には魔法の適性があったけれど、無かったらどうなっていたのだろうと思う。
魔王討伐は厳しい道のりだったけれどすべてを捨てて時を遡らねばならない様な失敗は無かったと思う。
俺が戦闘不能になるような怪我も負わなかったし、俺の所為で近しい人が亡くなるようなことも無かった。
実家は教会が保護してくれていると聞いているし、何も憂いは無かった。
時間はかかってしまったが魔王を倒すことはできた。
褒美を与えると王様が言っていると伝えられた。
てっきりお金がもらえるものだと思ったけれど、与えられるのは爵位と配偶者らしい。
教会の人曰く、貴族というものはそういうものらしい。
貴族のことはよくわからないとその時思った。
そういえば、貴族は御伽噺で語られる様な第二の性別があるらしい。何もかも違うのだなと思った。
平民はほぼベータしかいないため第二の性別について考えることは全くと言ってなかった。
実際たまにオメガの人間が生まれることがあっても、周りのベータとは生きていけないという事で娼館に売られていく位しか関わりが無かった。
だから、アルファだとかオメガだとか。そういう事について人生で考えたことはまるでなかったのだ。
自分とは違う世界の話だった。
だから、あんなことになるとは思わなかった。
◆
俺の伴侶になる人として紹介されたのはとても美しい人だった。
透き通る様な白い肌とつややかな髪の毛をしていて、薄い唇はピンク色に色づいて見える。
男だという驚きよりもまずその美しさに目を奪われた。
聞くと彼はオメガなので子を成すことが出来るらしい。
困ったように笑う彼は、平民と伴侶になることにきっと引っかかりがあるのだろう。
その時はそう思っていた。
控えめに話す彼の言葉はどこか上品で、けれど勇者である俺への敬意が感じられて、彼がたとえ困っていたとしても、とさえその時には思った。
柄にもなく、丁寧な言葉で話す自分が若干滑稽にも感じられたが、このままこの人と一生を歩んでいくのも悪くないと思った。
この人が他の人間と幸せになるところは見たくないと思ってしまった。
だから、困ったように笑うことには気が付かないふりをした。
それが、いけなかったのだろうか。
それが、俺の罪だったのだろうか。
女神はどこまでわかっていたのだろうか。
目の前で血まみれになりながら、なお俺のことを気にしている美しい人を見て思った。
貴族についてもっと知っておくべきだった。
アルファだのオメガだのが御伽噺の別世界の話だと思わなければよかった。
そうすれば目の前のこの人がこんな風に惨めな最期を迎えることは無かったのかもしれない。
許せなかった。
目の前の俺を蔑む様な眼で見る王侯貴族たちも。
そして、目の間でかばわれる様な醜態を見せた自分自身も。
だって、俺との結婚を困っていたのではないのか。
そんな簡単に自分の命を俺のために差し出せる様な関係なんて作れていなかったではないか。
なんで……。
あなたの様な人こそ守られて、幸せになるべき人なのではないのか。
頭の中で女神の不思議な声がする。
今こそやり直すときなのではないか。
俺も、そう思った。
この人を救うことが出来るのなら、もう一度あの苦しく辛い魔王討伐をやり直してもいいとさえ思った。
切り裂かれた腹の所為で血を吐く彼の唇をそっと撫でる。
魔力がどっと周囲に流れるのを感じる。
それだけで大概の貴族が膝をついているのが視線の端に映った。
けれど、それはもうどうでもいい事だった。
俺は女神からもらった権能を発動した。
俺はこの時のためにこの力を授かったのかもしれないと思った。
自分は平民の中でもあまり裕福でない方の家に生まれた。
だから医者にかかる金も無く、目の色が変化したときも慈善事業で治療をすることのある教会に駆け込むことしかできなかった位、貧乏な家の出身だ。
運が良かったのか悪かったのか、教会で瞳の色が変わってしまった俺を一目見た教会の人間は慌てふためいて上司を呼んでいた。
そこで奇跡判定を受け俺は勇者になった。
神にその祝福を授けられる儀式で実際に俺は女神を見た。
異形のその姿は明らかに人間ではなく、畏怖というよりは完全な恐怖で固まる俺にその女神は俺に授けた権能について一方的に話した。
時間を逆行させる権能。
しかもそう何度も使えるものではないらしい。
完全に“失敗”したときにやり直すためのものだと思った。
この人ならざるものは俺が失敗するという前提で俺に力を与えたのかと少しばかり嫌な気分になった。
この奇跡は魔王を倒すためのものらしい。
しかもそれ以外は少し上方修正される程度で特になんの能力も与えられてないらしい。
幸い俺には魔法の適性があったけれど、無かったらどうなっていたのだろうと思う。
魔王討伐は厳しい道のりだったけれどすべてを捨てて時を遡らねばならない様な失敗は無かったと思う。
俺が戦闘不能になるような怪我も負わなかったし、俺の所為で近しい人が亡くなるようなことも無かった。
実家は教会が保護してくれていると聞いているし、何も憂いは無かった。
時間はかかってしまったが魔王を倒すことはできた。
褒美を与えると王様が言っていると伝えられた。
てっきりお金がもらえるものだと思ったけれど、与えられるのは爵位と配偶者らしい。
教会の人曰く、貴族というものはそういうものらしい。
貴族のことはよくわからないとその時思った。
そういえば、貴族は御伽噺で語られる様な第二の性別があるらしい。何もかも違うのだなと思った。
平民はほぼベータしかいないため第二の性別について考えることは全くと言ってなかった。
実際たまにオメガの人間が生まれることがあっても、周りのベータとは生きていけないという事で娼館に売られていく位しか関わりが無かった。
だから、アルファだとかオメガだとか。そういう事について人生で考えたことはまるでなかったのだ。
自分とは違う世界の話だった。
だから、あんなことになるとは思わなかった。
◆
俺の伴侶になる人として紹介されたのはとても美しい人だった。
透き通る様な白い肌とつややかな髪の毛をしていて、薄い唇はピンク色に色づいて見える。
男だという驚きよりもまずその美しさに目を奪われた。
聞くと彼はオメガなので子を成すことが出来るらしい。
困ったように笑う彼は、平民と伴侶になることにきっと引っかかりがあるのだろう。
その時はそう思っていた。
控えめに話す彼の言葉はどこか上品で、けれど勇者である俺への敬意が感じられて、彼がたとえ困っていたとしても、とさえその時には思った。
柄にもなく、丁寧な言葉で話す自分が若干滑稽にも感じられたが、このままこの人と一生を歩んでいくのも悪くないと思った。
この人が他の人間と幸せになるところは見たくないと思ってしまった。
だから、困ったように笑うことには気が付かないふりをした。
それが、いけなかったのだろうか。
それが、俺の罪だったのだろうか。
女神はどこまでわかっていたのだろうか。
目の前で血まみれになりながら、なお俺のことを気にしている美しい人を見て思った。
貴族についてもっと知っておくべきだった。
アルファだのオメガだのが御伽噺の別世界の話だと思わなければよかった。
そうすれば目の前のこの人がこんな風に惨めな最期を迎えることは無かったのかもしれない。
許せなかった。
目の前の俺を蔑む様な眼で見る王侯貴族たちも。
そして、目の間でかばわれる様な醜態を見せた自分自身も。
だって、俺との結婚を困っていたのではないのか。
そんな簡単に自分の命を俺のために差し出せる様な関係なんて作れていなかったではないか。
なんで……。
あなたの様な人こそ守られて、幸せになるべき人なのではないのか。
頭の中で女神の不思議な声がする。
今こそやり直すときなのではないか。
俺も、そう思った。
この人を救うことが出来るのなら、もう一度あの苦しく辛い魔王討伐をやり直してもいいとさえ思った。
切り裂かれた腹の所為で血を吐く彼の唇をそっと撫でる。
魔力がどっと周囲に流れるのを感じる。
それだけで大概の貴族が膝をついているのが視線の端に映った。
けれど、それはもうどうでもいい事だった。
俺は女神からもらった権能を発動した。
俺はこの時のためにこの力を授かったのかもしれないと思った。
44
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


溺愛オメガバース
暁 紅蓮
BL
Ωである呉羽皐月(クレハサツキ)とαである新垣翔(アラガキショウ)の運命の番の出会い物語。
高校1年入学式の時に運命の番である翔と目が合い、発情してしまう。それから番となり、αである翔はΩの皐月を溺愛していく。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる