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逆行後
一度目の後悔 (※ノヴァ視点)
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※ノヴァ視点
自分は平民の中でもあまり裕福でない方の家に生まれた。
だから医者にかかる金も無く、目の色が変化したときも慈善事業で治療をすることのある教会に駆け込むことしかできなかった位、貧乏な家の出身だ。
運が良かったのか悪かったのか、教会で瞳の色が変わってしまった俺を一目見た教会の人間は慌てふためいて上司を呼んでいた。
そこで奇跡判定を受け俺は勇者になった。
神にその祝福を授けられる儀式で実際に俺は女神を見た。
異形のその姿は明らかに人間ではなく、畏怖というよりは完全な恐怖で固まる俺にその女神は俺に授けた権能について一方的に話した。
時間を逆行させる権能。
しかもそう何度も使えるものではないらしい。
完全に“失敗”したときにやり直すためのものだと思った。
この人ならざるものは俺が失敗するという前提で俺に力を与えたのかと少しばかり嫌な気分になった。
この奇跡は魔王を倒すためのものらしい。
しかもそれ以外は少し上方修正される程度で特になんの能力も与えられてないらしい。
幸い俺には魔法の適性があったけれど、無かったらどうなっていたのだろうと思う。
魔王討伐は厳しい道のりだったけれどすべてを捨てて時を遡らねばならない様な失敗は無かったと思う。
俺が戦闘不能になるような怪我も負わなかったし、俺の所為で近しい人が亡くなるようなことも無かった。
実家は教会が保護してくれていると聞いているし、何も憂いは無かった。
時間はかかってしまったが魔王を倒すことはできた。
褒美を与えると王様が言っていると伝えられた。
てっきりお金がもらえるものだと思ったけれど、与えられるのは爵位と配偶者らしい。
教会の人曰く、貴族というものはそういうものらしい。
貴族のことはよくわからないとその時思った。
そういえば、貴族は御伽噺で語られる様な第二の性別があるらしい。何もかも違うのだなと思った。
平民はほぼベータしかいないため第二の性別について考えることは全くと言ってなかった。
実際たまにオメガの人間が生まれることがあっても、周りのベータとは生きていけないという事で娼館に売られていく位しか関わりが無かった。
だから、アルファだとかオメガだとか。そういう事について人生で考えたことはまるでなかったのだ。
自分とは違う世界の話だった。
だから、あんなことになるとは思わなかった。
◆
俺の伴侶になる人として紹介されたのはとても美しい人だった。
透き通る様な白い肌とつややかな髪の毛をしていて、薄い唇はピンク色に色づいて見える。
男だという驚きよりもまずその美しさに目を奪われた。
聞くと彼はオメガなので子を成すことが出来るらしい。
困ったように笑う彼は、平民と伴侶になることにきっと引っかかりがあるのだろう。
その時はそう思っていた。
控えめに話す彼の言葉はどこか上品で、けれど勇者である俺への敬意が感じられて、彼がたとえ困っていたとしても、とさえその時には思った。
柄にもなく、丁寧な言葉で話す自分が若干滑稽にも感じられたが、このままこの人と一生を歩んでいくのも悪くないと思った。
この人が他の人間と幸せになるところは見たくないと思ってしまった。
だから、困ったように笑うことには気が付かないふりをした。
それが、いけなかったのだろうか。
それが、俺の罪だったのだろうか。
女神はどこまでわかっていたのだろうか。
目の前で血まみれになりながら、なお俺のことを気にしている美しい人を見て思った。
貴族についてもっと知っておくべきだった。
アルファだのオメガだのが御伽噺の別世界の話だと思わなければよかった。
そうすれば目の前のこの人がこんな風に惨めな最期を迎えることは無かったのかもしれない。
許せなかった。
目の前の俺を蔑む様な眼で見る王侯貴族たちも。
そして、目の間でかばわれる様な醜態を見せた自分自身も。
だって、俺との結婚を困っていたのではないのか。
そんな簡単に自分の命を俺のために差し出せる様な関係なんて作れていなかったではないか。
なんで……。
あなたの様な人こそ守られて、幸せになるべき人なのではないのか。
頭の中で女神の不思議な声がする。
今こそやり直すときなのではないか。
俺も、そう思った。
この人を救うことが出来るのなら、もう一度あの苦しく辛い魔王討伐をやり直してもいいとさえ思った。
切り裂かれた腹の所為で血を吐く彼の唇をそっと撫でる。
魔力がどっと周囲に流れるのを感じる。
それだけで大概の貴族が膝をついているのが視線の端に映った。
けれど、それはもうどうでもいい事だった。
俺は女神からもらった権能を発動した。
俺はこの時のためにこの力を授かったのかもしれないと思った。
自分は平民の中でもあまり裕福でない方の家に生まれた。
だから医者にかかる金も無く、目の色が変化したときも慈善事業で治療をすることのある教会に駆け込むことしかできなかった位、貧乏な家の出身だ。
運が良かったのか悪かったのか、教会で瞳の色が変わってしまった俺を一目見た教会の人間は慌てふためいて上司を呼んでいた。
そこで奇跡判定を受け俺は勇者になった。
神にその祝福を授けられる儀式で実際に俺は女神を見た。
異形のその姿は明らかに人間ではなく、畏怖というよりは完全な恐怖で固まる俺にその女神は俺に授けた権能について一方的に話した。
時間を逆行させる権能。
しかもそう何度も使えるものではないらしい。
完全に“失敗”したときにやり直すためのものだと思った。
この人ならざるものは俺が失敗するという前提で俺に力を与えたのかと少しばかり嫌な気分になった。
この奇跡は魔王を倒すためのものらしい。
しかもそれ以外は少し上方修正される程度で特になんの能力も与えられてないらしい。
幸い俺には魔法の適性があったけれど、無かったらどうなっていたのだろうと思う。
魔王討伐は厳しい道のりだったけれどすべてを捨てて時を遡らねばならない様な失敗は無かったと思う。
俺が戦闘不能になるような怪我も負わなかったし、俺の所為で近しい人が亡くなるようなことも無かった。
実家は教会が保護してくれていると聞いているし、何も憂いは無かった。
時間はかかってしまったが魔王を倒すことはできた。
褒美を与えると王様が言っていると伝えられた。
てっきりお金がもらえるものだと思ったけれど、与えられるのは爵位と配偶者らしい。
教会の人曰く、貴族というものはそういうものらしい。
貴族のことはよくわからないとその時思った。
そういえば、貴族は御伽噺で語られる様な第二の性別があるらしい。何もかも違うのだなと思った。
平民はほぼベータしかいないため第二の性別について考えることは全くと言ってなかった。
実際たまにオメガの人間が生まれることがあっても、周りのベータとは生きていけないという事で娼館に売られていく位しか関わりが無かった。
だから、アルファだとかオメガだとか。そういう事について人生で考えたことはまるでなかったのだ。
自分とは違う世界の話だった。
だから、あんなことになるとは思わなかった。
◆
俺の伴侶になる人として紹介されたのはとても美しい人だった。
透き通る様な白い肌とつややかな髪の毛をしていて、薄い唇はピンク色に色づいて見える。
男だという驚きよりもまずその美しさに目を奪われた。
聞くと彼はオメガなので子を成すことが出来るらしい。
困ったように笑う彼は、平民と伴侶になることにきっと引っかかりがあるのだろう。
その時はそう思っていた。
控えめに話す彼の言葉はどこか上品で、けれど勇者である俺への敬意が感じられて、彼がたとえ困っていたとしても、とさえその時には思った。
柄にもなく、丁寧な言葉で話す自分が若干滑稽にも感じられたが、このままこの人と一生を歩んでいくのも悪くないと思った。
この人が他の人間と幸せになるところは見たくないと思ってしまった。
だから、困ったように笑うことには気が付かないふりをした。
それが、いけなかったのだろうか。
それが、俺の罪だったのだろうか。
女神はどこまでわかっていたのだろうか。
目の前で血まみれになりながら、なお俺のことを気にしている美しい人を見て思った。
貴族についてもっと知っておくべきだった。
アルファだのオメガだのが御伽噺の別世界の話だと思わなければよかった。
そうすれば目の前のこの人がこんな風に惨めな最期を迎えることは無かったのかもしれない。
許せなかった。
目の前の俺を蔑む様な眼で見る王侯貴族たちも。
そして、目の間でかばわれる様な醜態を見せた自分自身も。
だって、俺との結婚を困っていたのではないのか。
そんな簡単に自分の命を俺のために差し出せる様な関係なんて作れていなかったではないか。
なんで……。
あなたの様な人こそ守られて、幸せになるべき人なのではないのか。
頭の中で女神の不思議な声がする。
今こそやり直すときなのではないか。
俺も、そう思った。
この人を救うことが出来るのなら、もう一度あの苦しく辛い魔王討伐をやり直してもいいとさえ思った。
切り裂かれた腹の所為で血を吐く彼の唇をそっと撫でる。
魔力がどっと周囲に流れるのを感じる。
それだけで大概の貴族が膝をついているのが視線の端に映った。
けれど、それはもうどうでもいい事だった。
俺は女神からもらった権能を発動した。
俺はこの時のためにこの力を授かったのかもしれないと思った。
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