上 下
3 / 34
最初の人生

一度目3

しおりを挟む
「そんなことはない!!」

ノヴァ様は叫ぶようにはっきりとそう言った。
その声の大きさに驚いてしまう。

やはり彼に貴族の常識は存在しないのだろう。
だけど、はっきりと大きな声で違うと言ってもらえたことはお腹のあたりがじんわりと暖かくなるみたいなそういう喜びがあった。

この人は多分、優しい人なのだと思った。
優しい、優しい貴族には向かない人。

それで英雄である勇者様ななのだ。


だから、僕も思わず優しい笑みがこぼれてしまう。

「どちらにせよ、僕とあなたの結婚は政略によるものです。
あなたが心から愛する人が出来たら祝福いたしますので、おっしゃってくださいね」


僕がそう言うと、ノヴァ様は何とも形容しがたい苦虫を噛んだ様な顔をしていた。

彼に心から愛する人が出来てその人と寄り添いあって幸せになって欲しいと思った。

「……共に生活をするまでに、オメガについてキチンと勉強しておく」

ノヴァ様はそう言った。
その後、ぽつぽつと魔王討伐のいきさつなどを聞いた。

彼は寒村の出身で、高い魔法の力を見出されて魔法使いになったこと。
ある日勇者の力に目覚めたこと。
その時に瞳が赤くなったこと。

紅蓮の名前はやはり瞳の色からとられたということ。

それから、悪しき魔王が復活しそれを討伐したこと。
顔の大きな傷はその時に負ったものだということ。

勇者の力については今のところまだ使ったことがないこと。
その力の詳細は誰にも明かしてはならないこと。

勇者というのは神から与えられた力を持つもののことらしい。

僕とはあまりにも違う人生に圧倒されてしまう。

僕には魔法の力はない。
通常オメガは魔法は使えない。
生まれてくる子がどんな魔法使いでも出産できるようにするためだと言われている。

「魔王討伐の旅は大変だったのでは?」

だから、僕はつまらない質問しかできない。


「勿論、苦しいことがあったし、この傷を見ると最後の戦いを思い出す。
けれど俺はこの世界が救えてうれしいんだ」

僕のつまらない質問にも、ノヴァ様は優しく答えてくれた。
彼が穏やかで優しい人だから、彼との顔合わせも穏やかで優しい時間になった。

それが僕にはとてもうれしい事だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

白熊皇帝と伝説の妃

沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜

MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね? 前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです! 後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛 ※独自のオメガバース設定有り

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

処理中です...