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劣等感1
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正に忙殺という状況が続いて、漸く文化祭当日を迎えた。
文化祭は一般公開日と学内公開日と一日ずつ用意されていて、開会式は一般公開日に行われる。
だから、今日は羽目を外す人間もおらず、皆、きちんとしている。
とはいえ、普通ではつまらないというのが我らが会長様の談で生徒会の役員はテーマに沿った仮装をすることになっている。
当然、ペアを組むことになる俊介もそろいの恰好をする訳で、衣装の準備を依頼した親衛隊長以下数名に更衣室になっている教室に連れていかれていた。
「しばらく入ってこないでくださいね。」
そう言われたのと、実際役員の仕事は当日も山の様にあったため15分ほど後に、更衣室をのぞく。
もう仲良くなっている風に見える親衛隊と俊介を見て、嫉妬心だろうか、独占欲だろうか、が心の内に湧き上がるのを感じるがさすがに表に出す様なことはしなかった。
いつもいつも、俊介を独り占めしたい気持ちでいっぱいだったが、それを全面に出して彼の世界をぶち壊してしまうのも怖かった。
「わー、良い感じじゃんか。」
知性がテーマのため、俺がホームズ、俊介がワトソンに扮する。
といっても、アレンジが加えられた衣装で、スチームパンク風のイギリスといった恰好をした俊介は可愛かった。
俯いて顔を赤くする俊介は恥ずかしい様だったが、その仕草を含めたまらなく可愛いと思った。
「鼻の下伸びていますよ。」
隊長に言われおもわず照れ笑いをした。
俊介は俺を見ると、「本当に俺でいいんですか?」と消えそうな声で聞く。
「俊介じゃないと嫌なんですー。」
俺が答えると、俊介は唇を噛む。
彼が自分のなにに自信が無いのかは知らない。
容姿のことなのかもしれないし、男であることなのかもしれない。
他に理由があるのかもしれない。
それを知りたくないと言えば嘘になる。
けれど、暴いたところで意味があるとは思えなかった。
少しずつ、俺の気持ちを信じてもらって、それから俊介自身が自分と向き合うことなんだろう。
だから、気が付かない振りをして手を差し出した。
「行こうか?」
俊介は目を細めると、一回だけ静かに頷いた。
◆
結果から言うと、俊介はぎこちない所作だったもののパートナーとしてきちんとやり遂げた。
クイズゲームのアシスタントも、入場時のエスコートも歓声で迎えられた。
誰も、俊介を拒絶していない。
日中、お互いにクラスの出し物をやっているときも、クラスメイトと仲良くやっていたそうだ。
だから、彼は褒められこそすれ、こんなに憔悴しきる必要はないのだ。
後夜祭に向かうための衣装に着替えた、俊介は疲れた様子で、それよりも何よりもひどく落ち込んでいた。
「役立たずで、済みません。」
俊介は、うなだれて言った。
「俊介は、とっても頑張っていたし、助かったよ?」
俺が返すと、俊介は首を横に振る。
「そんなこと無いです。」
俊介は消えそうな声で言う。
「俺は最後の文化祭俊介と過ごせて良かったよ。
最高の思い出だよ。」
だから、最後まで一緒に頑張ろう。
俺が言うと、泣きそうな顔で俊介は俺を見た。
「だって、俺はっ……。」
半ば泣きかけで、俊介は唇を戦慄かせた。
それでも言葉にならない様で俊介は、直ぐに唇を噛む。
「はい、それ駄目だよ。」
丁度二人きりだった。
俊介の顔に自分の顔を近づけて、唇を舐める。
「俊介と頑張りたいから、もうちょっとだけ頑張れる?」
顔を近づけたまま、俺が訊ねると、俊介は顔をほのかに赤くしたままま
「アンタ、ホントずるいよな。」
とだけ答えた。
それが、まるで俺のことを大好きです。って言っているみたいに聞こえて、そのまま俊介を抱き上げる。
所謂お姫様抱っこの状態になって慌てる俊介に笑いかけると、そのままステージ脇まで歩いていく。
「おろしてください。
いや、今すぐ降ろして!?」
「やだよー。」
そのまま、ステージに出ると、悲鳴に近い歓声で出迎えられる。
俊介は顔を隠すように俯いたままだ。
「かわいー」という声が聞こえて眉根が寄るのが分かる。
俊介が可愛いというのは事実だが、これは誤算だった。
彼が可愛いことを知っているのは世界で自分だけで充分なのだ。
「俊介は、俺のだから、駄目だよー。」
服につけた、マイク越しにそいつらをけん制する。
落ちない為に俺の服を握っていた俊介の手の力が少しだけ強くなった気がした。
◆
滞り無く文化祭は終わった。
生徒会の打ち上げは翌日夜の予定なので早々に俊介と二人、部屋に引き上げさせてもらった。
お祭りの後のふわふわとした高揚感の中、俺の部屋に戻る。
冷蔵庫に入れておいた、ミネラルウォーターを出して一本俊介に渡す。
それを無言で受け取った俊介はうつむいたまま
「何で、あんなこと言ったんですか?」
と聞いた。
「あんなこと?」
正直いって全く心あたりは無かった。
「俺のって……。」
俊介は唇をまた、噛んでいた。
「だって、俺のだって言いたかったんだよ。」
彼が何を気にしているのかは知らないけれど、それを全部取っ払って俺のことしか考えられない様にしてしまいたかった。
文化祭は一般公開日と学内公開日と一日ずつ用意されていて、開会式は一般公開日に行われる。
だから、今日は羽目を外す人間もおらず、皆、きちんとしている。
とはいえ、普通ではつまらないというのが我らが会長様の談で生徒会の役員はテーマに沿った仮装をすることになっている。
当然、ペアを組むことになる俊介もそろいの恰好をする訳で、衣装の準備を依頼した親衛隊長以下数名に更衣室になっている教室に連れていかれていた。
「しばらく入ってこないでくださいね。」
そう言われたのと、実際役員の仕事は当日も山の様にあったため15分ほど後に、更衣室をのぞく。
もう仲良くなっている風に見える親衛隊と俊介を見て、嫉妬心だろうか、独占欲だろうか、が心の内に湧き上がるのを感じるがさすがに表に出す様なことはしなかった。
いつもいつも、俊介を独り占めしたい気持ちでいっぱいだったが、それを全面に出して彼の世界をぶち壊してしまうのも怖かった。
「わー、良い感じじゃんか。」
知性がテーマのため、俺がホームズ、俊介がワトソンに扮する。
といっても、アレンジが加えられた衣装で、スチームパンク風のイギリスといった恰好をした俊介は可愛かった。
俯いて顔を赤くする俊介は恥ずかしい様だったが、その仕草を含めたまらなく可愛いと思った。
「鼻の下伸びていますよ。」
隊長に言われおもわず照れ笑いをした。
俊介は俺を見ると、「本当に俺でいいんですか?」と消えそうな声で聞く。
「俊介じゃないと嫌なんですー。」
俺が答えると、俊介は唇を噛む。
彼が自分のなにに自信が無いのかは知らない。
容姿のことなのかもしれないし、男であることなのかもしれない。
他に理由があるのかもしれない。
それを知りたくないと言えば嘘になる。
けれど、暴いたところで意味があるとは思えなかった。
少しずつ、俺の気持ちを信じてもらって、それから俊介自身が自分と向き合うことなんだろう。
だから、気が付かない振りをして手を差し出した。
「行こうか?」
俊介は目を細めると、一回だけ静かに頷いた。
◆
結果から言うと、俊介はぎこちない所作だったもののパートナーとしてきちんとやり遂げた。
クイズゲームのアシスタントも、入場時のエスコートも歓声で迎えられた。
誰も、俊介を拒絶していない。
日中、お互いにクラスの出し物をやっているときも、クラスメイトと仲良くやっていたそうだ。
だから、彼は褒められこそすれ、こんなに憔悴しきる必要はないのだ。
後夜祭に向かうための衣装に着替えた、俊介は疲れた様子で、それよりも何よりもひどく落ち込んでいた。
「役立たずで、済みません。」
俊介は、うなだれて言った。
「俊介は、とっても頑張っていたし、助かったよ?」
俺が返すと、俊介は首を横に振る。
「そんなこと無いです。」
俊介は消えそうな声で言う。
「俺は最後の文化祭俊介と過ごせて良かったよ。
最高の思い出だよ。」
だから、最後まで一緒に頑張ろう。
俺が言うと、泣きそうな顔で俊介は俺を見た。
「だって、俺はっ……。」
半ば泣きかけで、俊介は唇を戦慄かせた。
それでも言葉にならない様で俊介は、直ぐに唇を噛む。
「はい、それ駄目だよ。」
丁度二人きりだった。
俊介の顔に自分の顔を近づけて、唇を舐める。
「俊介と頑張りたいから、もうちょっとだけ頑張れる?」
顔を近づけたまま、俺が訊ねると、俊介は顔をほのかに赤くしたままま
「アンタ、ホントずるいよな。」
とだけ答えた。
それが、まるで俺のことを大好きです。って言っているみたいに聞こえて、そのまま俊介を抱き上げる。
所謂お姫様抱っこの状態になって慌てる俊介に笑いかけると、そのままステージ脇まで歩いていく。
「おろしてください。
いや、今すぐ降ろして!?」
「やだよー。」
そのまま、ステージに出ると、悲鳴に近い歓声で出迎えられる。
俊介は顔を隠すように俯いたままだ。
「かわいー」という声が聞こえて眉根が寄るのが分かる。
俊介が可愛いというのは事実だが、これは誤算だった。
彼が可愛いことを知っているのは世界で自分だけで充分なのだ。
「俊介は、俺のだから、駄目だよー。」
服につけた、マイク越しにそいつらをけん制する。
落ちない為に俺の服を握っていた俊介の手の力が少しだけ強くなった気がした。
◆
滞り無く文化祭は終わった。
生徒会の打ち上げは翌日夜の予定なので早々に俊介と二人、部屋に引き上げさせてもらった。
お祭りの後のふわふわとした高揚感の中、俺の部屋に戻る。
冷蔵庫に入れておいた、ミネラルウォーターを出して一本俊介に渡す。
それを無言で受け取った俊介はうつむいたまま
「何で、あんなこと言ったんですか?」
と聞いた。
「あんなこと?」
正直いって全く心あたりは無かった。
「俺のって……。」
俊介は唇をまた、噛んでいた。
「だって、俺のだって言いたかったんだよ。」
彼が何を気にしているのかは知らないけれど、それを全部取っ払って俺のことしか考えられない様にしてしまいたかった。
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