繋がる指先

渡辺 佐倉

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2016バレンタイン

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--バレンタイン--

バレンタインの、あの甘ったるい空気は好きではない。

クラスの人気者が照れながらチョコレートを受け取る姿を眺め、溜息をついた。

「会計様、今年はチョコ全部受け取るの断ってるんだってさ。」

前の席に座った友人がこちらを向くと言った。
その後、ニヤニヤと笑われて、居心地が悪い。

自然と視線をそらすと「恋人のいるやつはいいよな。」と笑われた。

多分、恋人がいるとかいないとかは関係ない。
去年、あの人がそれこそ山の様にもらっていたチョコレートが全くなくなるそれだけの違いだ。

嬉しい、なんて多分言えないし、思えない。

重い足取りで日課になっている、あの人の部屋へと向かった。
俺が、部屋に入ってから程なくして、あの人も帰ってきた。

定位置になっている俺の隣に座ると「ただいま」と声をかけられた。
それに「お帰りなさい」と返した。

普通の日と変わらない。

ただ、周りが浮足だっているってだけの日だ。

「あ、そうだ。」

上機嫌で立ち上がるとダイニングに向かい、置いてあった無地の紙袋から綺麗にラッピングされた包みを取り出した。

「はい、どうぞ。」

ニコリと人好きのする笑顔で小西先輩が笑った。

そっと受け取った箱の中身は見なくても分かる。

「別に、プレゼントするのに女の子からって決まった日でもないしね。
どうせ、貰えないなら俺からプレゼントしようかなっ……。」

不自然なところで言葉が止まった。
それから、ざっと顔色が変わるのを見て、察しがいいというのは大変だなと思った。
舌打ちでもしてしまいたい。

「……ゴメン。」
「何がですか?」

しらを切りたかった。
でも、俺の返した言葉にくしゃりと顔をゆがめると、小西先輩はそれでもはっきりともう一度言った。

「酷い事言ってごめんなさい。俊介のチョコ欲しいです。」

いつにない丁寧な物言いで言われる。

だって、大したものではないのだ。
実家に帰った時だって、買い物には行ったのだがあの女の子だらけの人ごみに入っていく気持ちにはなれなかったのだ。

糸を見たくない。それだけのために覚えた料理が少しできるだけだ。

冬に入ったばかりの頃買ったココアと小麦粉後は部屋にあったもので作ったごくごく普通のクッキーしかもっていないのだ。

睨みつけると、眉を下げて困ったように笑う小西先輩と目が合う。

「許して欲しい。」

いつもなら、許してくれる?って計算ずくの表情で言うのに、なんでこういった時だけこの人は取り繕うことをしないのだろう。


本当に、渡してしまっていいか、少し考えた。
でも、その間せかすでもなくただ、静かにあの人は俺のことを待っていてくれた。

鞄から紙袋を出した。
専用のラッピング等持っていないのでシンプルなパンでも入ってそうな茶色い紙袋に入ったそれを差し出した。

明らかに、適当な雰囲気の漂うそれに、小西先輩は破顔して喜んだ。
終始、双眸を下げて、ただの丸い形をしたそれを、今食べていい?と聞いて口に運んでいた。

手持無沙汰と恥ずかしさで、あの人の方を見れなかったので、貰ったチョコレートの包みを開けると、いかにも高級そうなチョコレートが綺麗に並んでいた。
一粒食べると木苺の香りがして、ふわりと口の中で溶けた。

味見をした自分のクッキーとあまりに違って、逆に申し訳ない気持ちになった。

「ホワイトデー楽しみにしてて。」

小西先輩があまりにも幸せそうに笑うので、やっぱり返してくださいとは言えなかった。

END
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