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本編6
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◆
国境近くへの遠征の話しが出た時、俺は僅かな体調不良に悩まされていた。
騎士団付きの医師にに診てもらうと、妊娠しているという事だった。
妊娠……。
んなバカなというのが最初の感想だった。
「何かの間違いじゃ?」
医師に確認をするが間違いが無いらしい。
男の体の為、妊娠出産にはリスクがあるらしい、父親とよく話し合う様にと医師には言われた。
話合うだって?無理だ。ただでさえ重圧に耐えかねて俺の所に来るあいつに、ぶちまける訳にはいかないだろう。
堕ろすのか、と言う選択肢は直ぐに消えた。
ならば、ここを離れて一人で生み育てるしかないだろう。
俺が自分の気持ちを整理して騎士団を辞めるという選択をしようと言う時、副長に選ばれたアルフレートの幼馴染みが俺のところを訪ねてきた。
どうやら、医師から報告を受けたらしい。
俺よりも5歳ほど年上のその男は言った。
「子供を産むつもりか?アルフレートの子を。」
俺が驚きに目を見開くと、皮肉を含んだ笑みを副長は浮かべた。
「おれが知らないとでも思ったのか?あいつの執務室でサカっておいて。」
馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「……生みますよ。」
「それを、アルフレートは許可したのか?」
「あいつに言うつもりは無いですね。」
今度は、副長がぽかんと驚いた表情をした。
「帝都を出て一人で生みますよ。ご心配には及びません。」
だからこの話はお終い。
貴族のごたごたがあるのであろうことはよく分かった。
だからこれで本当にお終いだ。
「ちょっ!?ちょっと待ってください。」
話を切り上げようとした俺の腕を副長が掴んだ。
「あれには言わないんですか?」
「無かった事は言えないですよ。」
「は!?」
「あいつ覚えてませんよ。」
ひゅっと息を飲む音が聞こえた。
もしかすると心当たりがあるのかも知れない。
それから副長は直ぐに平静を取り戻し、住むところは手配するから帝都で出産をするようにと言われた。
固辞したが、それでもと押し通された。
最終的に、俺がアルフレートの子を悪用しないための監視が必要と言う事で街の外れの家を宛がわれた。
今にして思えば、あの人なりの優しさだったのだと分かる。
無事出産し、毎日我が子と過ごす。
それがとても幸せで、色々な人に支えられて生きている事がやっと分かった。
だけど、遠征からアルフレートが帰ってくるらしい。
これ以上ここに居てはいけないだろう。
最後に凱旋パレードをするあいつを一目、ただ一目見てそれで娘と二人帝都を離れようと思った。
◆
その日も、娘が寝入った後、俺は薬の調合をしていた。
騎士団として戦う以外に唯一に近い俺の特技は俺と娘の生きる糧になっていた。
夜半に近い時刻になって、そっとドアをノックする音が聞こえる。
こんな時間に何の用だ?
警戒をしながらそっとドアを開けると、そこには居るはずの無い男の姿が合った。
驚きで目を見開いた。
騎士団はまだ凱旋していないはずだった。
脳裏にはおせっかいな副長と後輩の顔がよぎる。
恐らく、二人のどちらかがこの場所を教えたのだろう。
「野営の最中だったんじゃねーのか?」
呆れたように言うとアルフレートは「スコットとか言うあんたの友人に任せてきた。」と答えた。
言葉が出てこない。もし、替え玉がばれたらスコットはただでは済まされないのではないのか。
「今すぐ戻れ。」
低い、地を這う様な声が出た。
「嫌に決まってるでしょ!?」
「何故?」
悪びれないアルフレートの様子イライラする。指に苛立ちが伝わった様にカツカツと腕を叩いてしまう。
「俺の子どもを産んだんだろ!?」
アルフレートは怒鳴った。それはまるで獣の咆哮の様だった。
「誰がお前の子だって言った?
そもそも、俺とおまえは、んな関係じゃねーだろ。」
眉根が寄るのが分かる。覚えて無いだろ。今まで全く覚えて無かっただろ。
国境近くへの遠征の話しが出た時、俺は僅かな体調不良に悩まされていた。
騎士団付きの医師にに診てもらうと、妊娠しているという事だった。
妊娠……。
んなバカなというのが最初の感想だった。
「何かの間違いじゃ?」
医師に確認をするが間違いが無いらしい。
男の体の為、妊娠出産にはリスクがあるらしい、父親とよく話し合う様にと医師には言われた。
話合うだって?無理だ。ただでさえ重圧に耐えかねて俺の所に来るあいつに、ぶちまける訳にはいかないだろう。
堕ろすのか、と言う選択肢は直ぐに消えた。
ならば、ここを離れて一人で生み育てるしかないだろう。
俺が自分の気持ちを整理して騎士団を辞めるという選択をしようと言う時、副長に選ばれたアルフレートの幼馴染みが俺のところを訪ねてきた。
どうやら、医師から報告を受けたらしい。
俺よりも5歳ほど年上のその男は言った。
「子供を産むつもりか?アルフレートの子を。」
俺が驚きに目を見開くと、皮肉を含んだ笑みを副長は浮かべた。
「おれが知らないとでも思ったのか?あいつの執務室でサカっておいて。」
馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「……生みますよ。」
「それを、アルフレートは許可したのか?」
「あいつに言うつもりは無いですね。」
今度は、副長がぽかんと驚いた表情をした。
「帝都を出て一人で生みますよ。ご心配には及びません。」
だからこの話はお終い。
貴族のごたごたがあるのであろうことはよく分かった。
だからこれで本当にお終いだ。
「ちょっ!?ちょっと待ってください。」
話を切り上げようとした俺の腕を副長が掴んだ。
「あれには言わないんですか?」
「無かった事は言えないですよ。」
「は!?」
「あいつ覚えてませんよ。」
ひゅっと息を飲む音が聞こえた。
もしかすると心当たりがあるのかも知れない。
それから副長は直ぐに平静を取り戻し、住むところは手配するから帝都で出産をするようにと言われた。
固辞したが、それでもと押し通された。
最終的に、俺がアルフレートの子を悪用しないための監視が必要と言う事で街の外れの家を宛がわれた。
今にして思えば、あの人なりの優しさだったのだと分かる。
無事出産し、毎日我が子と過ごす。
それがとても幸せで、色々な人に支えられて生きている事がやっと分かった。
だけど、遠征からアルフレートが帰ってくるらしい。
これ以上ここに居てはいけないだろう。
最後に凱旋パレードをするあいつを一目、ただ一目見てそれで娘と二人帝都を離れようと思った。
◆
その日も、娘が寝入った後、俺は薬の調合をしていた。
騎士団として戦う以外に唯一に近い俺の特技は俺と娘の生きる糧になっていた。
夜半に近い時刻になって、そっとドアをノックする音が聞こえる。
こんな時間に何の用だ?
警戒をしながらそっとドアを開けると、そこには居るはずの無い男の姿が合った。
驚きで目を見開いた。
騎士団はまだ凱旋していないはずだった。
脳裏にはおせっかいな副長と後輩の顔がよぎる。
恐らく、二人のどちらかがこの場所を教えたのだろう。
「野営の最中だったんじゃねーのか?」
呆れたように言うとアルフレートは「スコットとか言うあんたの友人に任せてきた。」と答えた。
言葉が出てこない。もし、替え玉がばれたらスコットはただでは済まされないのではないのか。
「今すぐ戻れ。」
低い、地を這う様な声が出た。
「嫌に決まってるでしょ!?」
「何故?」
悪びれないアルフレートの様子イライラする。指に苛立ちが伝わった様にカツカツと腕を叩いてしまう。
「俺の子どもを産んだんだろ!?」
アルフレートは怒鳴った。それはまるで獣の咆哮の様だった。
「誰がお前の子だって言った?
そもそも、俺とおまえは、んな関係じゃねーだろ。」
眉根が寄るのが分かる。覚えて無いだろ。今まで全く覚えて無かっただろ。
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