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続々編2
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「アルファはね、お前みたいなのを選ばないんだよ。」
ガツンと頭を殴られた様な気分になった。
数秒おいてようやくそれが安藤との仲について言われているのだと気が付く。
あの人との事を言われたんじゃないのは分かっているのに怒りがこみあげてくる。
それがオメガとしての本能なのか、それとも別の何かなのかすら分からないのだから欠陥品なことに違いは無い。
「こんなもの、お前にはいらないだろ。」
そう言って、抑制剤を取られてしまう。
「返せ!」
自分で思ったよりも大きな声が出た。
「は?何なの?」
怒ったのがいけなかったのだろうか。それとも安藤の言った通りオメガ同士で関わり合ったのがいけなかったのだろうか。
息が苦しい。本格的に発情期が始まってしまった様だった。
「都竹さん……。」
何かあったら必ず連絡をする様にと言っていたあの人の顔を思い出すともう駄目だった。
思わずしゃがみ込む。
「なんだよ急に……。」
タスクが俺を見て息を飲むのが分かった。
「ちょっと待てよ。何でお前からこんな匂いがするんだよ!」
何か怒っている声がするのにもう、良く聞こえない。
「正弘っ。」
オメガの叫び声が聞こえた気がした。
安藤ともう一人アルファが来たのが分かった。
「ちょっ!?アルファ用の抑制剤は副作用が酷いんだよ!?」
「それが?今のところ確実にオメガのフェロモンに反応しない方法なんだから別にいいだろ。」
妙に安藤に険がある気がした。
「大丈夫じゃなさそうだね。番に連絡は出来る?」
安藤に話しかけられて唇を戦慄かせる。
「……都竹さん。……でもあの人は今仕事中で。」
「そんな事、アルファにとっては些事だろ?喜びこそすれ、迷惑に思う事なんて無いだろ。」
安藤の声にはやや呆れが混ざっている気がする。
「分かった。」
スマートフォンを取り出して都竹さんに電話をかけると、2コール目で都竹さんが出た。
「済みません。発情期が早まってしまって……。」
電話の向こうからため息が聞こえずそれでようやく安堵した。
発熱の様な症状は徐々に酷くなっていて、これはもう自力で帰るのは無理だと諦めた。
◆
都竹さんは思っていたより直ぐに来た。
安藤が兎に角場所を変えない方が良いといって聞かなかったのでその通りにする。
多分、俺の発情フェロモンの匂いの所為なのだろう。
そんな事よりも慌てた様子の都竹さんを見て申し訳ない気持ちになる。
予防措置すら取れなかったのだ。
ぼんやりとした意識だったが、自分が今大学内のどこにいるか説明出来ていたかを思い出せない。
もしかしたらかなり探させてしまった可能性があったことにようやく思い至る。
でも、、都竹さんがこちらを見た瞬間にそんな思考もすべて吹っ飛んだ。
それが、オメガ特有のものだと知っているけれど、どうにもならない。
都竹さんが俺のところまで来て、俺の事を抱きあげる。
実際、もう足に力が入らない事は事実だけれど、申し訳なさすぎた。
都竹さんは俺を抱きかかえたまま、器用に髪の毛に口づける。
思わず目を細めてすり寄ってしまってからここに安藤他人がいることを思い出した。
安藤を見ると驚愕を瞳に宿しているのが見て取れる。
普段の自分からは想像できない姿だった自覚はあるのでどうしようもない。
「……まさか、“運命”なのか?」
ぼんやりと安藤の声が聞こえる。
都竹さんが言っていた、遺伝上の相性の話を何故今する必要があるのだろうか。
というか、あてずっぽうという感じすらしていないのではないだろうか。
熱に浮かされた様になって、判断力が鈍っている自分にでさえその位分かる。
「だって、そんな匂いそいつからしてないじゃないか!」
相変わらずオメガの声がうるさい。
「……それも、特異体質由来か。」
「ああ。運命の番の匂いも分からなければ、アルファのフェロモンを感じるための受容体のほぼすべてが機能していない筈だ。
本人が運命を判別できなかったのは誤算だったが、俺以外のアルファ全てをアルファとして正しく認識出来ていないのは最高だろう。」
ベータの様に言われなければアルファだと気が付けないし、こいつにとってアルファというのはブルジョア層に多い人種程度の認識だ。
都竹さんの声に甘さが増えた気がした。
その声を聞いてしまったらもう限界だった。
「……都竹さん。」
彼の腕の中で呼びかけると「ああ、悪い。」と言われる。
もう、周りの音も匂いも何も感じられなかった。
「そこのお前が、安藤か。その匂い、抑制剤を使ったのか。」
「まあ、避けられる事故はさけたいので。」
運命の番持ちに手を出さなくて済んだのでどうでもいいですけど。
安藤は面倒そうに言う。
「この状況を作ったのはお前か。この落とし前はいずれまた。」
だから、冷え切った声で正弘と呼ばれたアルファに都竹さんが声をかけて、安藤が深い深い溜息をついたことを俺は知らない。
ガツンと頭を殴られた様な気分になった。
数秒おいてようやくそれが安藤との仲について言われているのだと気が付く。
あの人との事を言われたんじゃないのは分かっているのに怒りがこみあげてくる。
それがオメガとしての本能なのか、それとも別の何かなのかすら分からないのだから欠陥品なことに違いは無い。
「こんなもの、お前にはいらないだろ。」
そう言って、抑制剤を取られてしまう。
「返せ!」
自分で思ったよりも大きな声が出た。
「は?何なの?」
怒ったのがいけなかったのだろうか。それとも安藤の言った通りオメガ同士で関わり合ったのがいけなかったのだろうか。
息が苦しい。本格的に発情期が始まってしまった様だった。
「都竹さん……。」
何かあったら必ず連絡をする様にと言っていたあの人の顔を思い出すともう駄目だった。
思わずしゃがみ込む。
「なんだよ急に……。」
タスクが俺を見て息を飲むのが分かった。
「ちょっと待てよ。何でお前からこんな匂いがするんだよ!」
何か怒っている声がするのにもう、良く聞こえない。
「正弘っ。」
オメガの叫び声が聞こえた気がした。
安藤ともう一人アルファが来たのが分かった。
「ちょっ!?アルファ用の抑制剤は副作用が酷いんだよ!?」
「それが?今のところ確実にオメガのフェロモンに反応しない方法なんだから別にいいだろ。」
妙に安藤に険がある気がした。
「大丈夫じゃなさそうだね。番に連絡は出来る?」
安藤に話しかけられて唇を戦慄かせる。
「……都竹さん。……でもあの人は今仕事中で。」
「そんな事、アルファにとっては些事だろ?喜びこそすれ、迷惑に思う事なんて無いだろ。」
安藤の声にはやや呆れが混ざっている気がする。
「分かった。」
スマートフォンを取り出して都竹さんに電話をかけると、2コール目で都竹さんが出た。
「済みません。発情期が早まってしまって……。」
電話の向こうからため息が聞こえずそれでようやく安堵した。
発熱の様な症状は徐々に酷くなっていて、これはもう自力で帰るのは無理だと諦めた。
◆
都竹さんは思っていたより直ぐに来た。
安藤が兎に角場所を変えない方が良いといって聞かなかったのでその通りにする。
多分、俺の発情フェロモンの匂いの所為なのだろう。
そんな事よりも慌てた様子の都竹さんを見て申し訳ない気持ちになる。
予防措置すら取れなかったのだ。
ぼんやりとした意識だったが、自分が今大学内のどこにいるか説明出来ていたかを思い出せない。
もしかしたらかなり探させてしまった可能性があったことにようやく思い至る。
でも、、都竹さんがこちらを見た瞬間にそんな思考もすべて吹っ飛んだ。
それが、オメガ特有のものだと知っているけれど、どうにもならない。
都竹さんが俺のところまで来て、俺の事を抱きあげる。
実際、もう足に力が入らない事は事実だけれど、申し訳なさすぎた。
都竹さんは俺を抱きかかえたまま、器用に髪の毛に口づける。
思わず目を細めてすり寄ってしまってからここに安藤他人がいることを思い出した。
安藤を見ると驚愕を瞳に宿しているのが見て取れる。
普段の自分からは想像できない姿だった自覚はあるのでどうしようもない。
「……まさか、“運命”なのか?」
ぼんやりと安藤の声が聞こえる。
都竹さんが言っていた、遺伝上の相性の話を何故今する必要があるのだろうか。
というか、あてずっぽうという感じすらしていないのではないだろうか。
熱に浮かされた様になって、判断力が鈍っている自分にでさえその位分かる。
「だって、そんな匂いそいつからしてないじゃないか!」
相変わらずオメガの声がうるさい。
「……それも、特異体質由来か。」
「ああ。運命の番の匂いも分からなければ、アルファのフェロモンを感じるための受容体のほぼすべてが機能していない筈だ。
本人が運命を判別できなかったのは誤算だったが、俺以外のアルファ全てをアルファとして正しく認識出来ていないのは最高だろう。」
ベータの様に言われなければアルファだと気が付けないし、こいつにとってアルファというのはブルジョア層に多い人種程度の認識だ。
都竹さんの声に甘さが増えた気がした。
その声を聞いてしまったらもう限界だった。
「……都竹さん。」
彼の腕の中で呼びかけると「ああ、悪い。」と言われる。
もう、周りの音も匂いも何も感じられなかった。
「そこのお前が、安藤か。その匂い、抑制剤を使ったのか。」
「まあ、避けられる事故はさけたいので。」
運命の番持ちに手を出さなくて済んだのでどうでもいいですけど。
安藤は面倒そうに言う。
「この状況を作ったのはお前か。この落とし前はいずれまた。」
だから、冷え切った声で正弘と呼ばれたアルファに都竹さんが声をかけて、安藤が深い深い溜息をついたことを俺は知らない。
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