僕の輝ける伴星

渡辺 佐倉

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本編

帰宅

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屋敷に帰ると執事が駆け寄ってきた。

「お食事はどうなさいますか?」

と聞かれたので「食べます」と答えた。

「え?」とルイスが聞くので「夜食は別腹です」と答えた。
魔法使いは一般的な人間に比べてよく食べることが多い。

魔法を使うにはエネルギーが必要なので食べても食べてもあまり太らない。


「それでしたら軽くお食事をご準備しますね」

そう言って執事は頭を下げる。

「あの執事は長くあなたに仕えているのですか?」

俺が聞くとルイスは「ああ、俺が三歳の時から仕えてくれている」と答えた。

「今日はすまなかったね。
お詫びと言ってはなんだけど、君の願いを何か一つ叶えたいんだけど」


ルイスはそう言った。
この人は何も悪いことはしていない。
今日だって、多分やらなければならない仕事だったのだろう。

それなのにこの人は詫びをすると言っているのだ。
心の中に何かもやもやとした気持ちが残る。

「それでは――」

物欲もある。適当な何かが欲しいと言っておくのがこういう時には無難なのだと知っている。
もう子供じゃないのだ。

「食事の後お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

俺が選んだのはこの人と話をする時間だった。
ルイスは一瞬きょとんと驚いた顔をしたのち「ああ。もちろん」と答えた。
この時間まで気疲れをしているはずなのに明日と言わないことにこの人の元来の性格は優しいのではないのかと思った。

呪いに蝕まれて、周りからあのような目を向けられた所為で人間というものがまるで信用できなくなってしまったのかもしれない。
それは酷い決めつけだろうか。

どちらにせよ、食事の後話をせねばならない。


この屋敷での食事は多分俺に合わせて庶民の食事に近いものになっている。
よくわからない骨付きの肉をフォークとナイフだけで食べろと言われても無理なのでありがたい。

今日はトマトソースのパスタでルイスも食卓についた。
ここで話すべきではない内容のために時間をとってもらった。

「パスタって王子様も食べるんですね」

自分と同じものを食べる王子を見て少し不思議な気持ちになる。

「俺は王子って言っても、はずれのスペアだからね」

いつかは、王宮を出る前提だったし、そんな贅沢な暮らしをしていないよ。
とルイスは笑った。

「まあ、君は贅沢暮らしを望むタイプじゃないから関係ないだろうけど」

ルイスに言われて自分でもそうだと思う。
魔法使いという仕事をこれからも続けるつもりだし、必要なものは魔法の研究で使う道具位だ。
行きたい場所も魔法にかかわる古代遺跡で、貴族の様ないわゆる贅沢な生活には興味自体があまりない。

「……今の生活が充分贅沢ですよ」

部屋も大きくなってベッドもふわふわで、家事の一切は使用人たちがやってくれる。
今までの一人暮らしに比べて明らかに贅沢な暮らしだ。

俺がそういうと王子は緩やかに淡く目を細めてほほ笑んだ。



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