44 / 80
44
しおりを挟む
「あー、もうっ!!
那月が困ってるじゃないか!」
宗吾さんが言う。
困ってる。ちょっと違うけれど、あまりに様子が違う宗吾さんに戸惑っているのは確かだ。
「うちの人間は、まあ人間ではあるんだけど少しだけ変わってるんだよ」
宗吾さんは何かを諦めたみたいに肩の力を抜いて、それから僕に向かってそう言った。
「何か一つのものに酷く執着して、それが無いとまともに生きていけなくなるんだ」
困った様な顔をしている宗吾さんの言っていることの意味が僕にはよく分からない。
「河原の石だったり、茶碗だったり、人によって全く違うんだけど、ある日それを見つけてしまうとそれ無しでは生きていけなくなる質《たち》なんだ」
勿論執着する対象には生き物も含まれてる。
宗吾さんはきっぱりと言い切った後、こちらを見た。
「俺にはそんなものずっとなかったから、これから一生そんなものは存在せず普通に生きていけると思ってたんだけどね」
ごめんねえ。
間延びした声で宗吾さんは僕に謝った。
何を謝られているのかよく分からなかった。
「俺の父さんは、金魚鉢を大切にしていて部屋でずっと眺めていたし、母さんは、夜店に売ってそうな指輪を肌身離さず持っていたよ」
何か一つ見つけてしまうと、それを無くさない様にただひたすらに自分のものにしてしまう。
変だなとは思っていたし、今だって思う。
思い出があるとかそういうんじゃなくて、同じものを買い直したりして代替できない執着。
自分の父母も親戚もみんなそういうものを持っている。
他人には理解してもらえないこだわりがあるため、見合い結婚だった父と母は多分お互いよりも、宝物を大切にしていた。
「君を一目見たとき、ああ、自分が執着すべきものはこれだと思ったんだよ」
だから、金で解決するのが一番早かったのでそうした。
きっぱりと宗吾さんは僕にそう言った。
「……俺、今日のところはこれで帰るわ」
ため息を付きながらハウスキーパーさんは言った。
「また来るから。
……それまでにもうちょっとお互いの事ちゃんと話合えよ」
ハウスキーパーさんは部屋を出る瞬間宗吾さんを見た。
「愛と執着は全く別物だな」
ハウスキーパーさんは囁く様にそう言ってすぐに部屋を出てしまった。
那月が困ってるじゃないか!」
宗吾さんが言う。
困ってる。ちょっと違うけれど、あまりに様子が違う宗吾さんに戸惑っているのは確かだ。
「うちの人間は、まあ人間ではあるんだけど少しだけ変わってるんだよ」
宗吾さんは何かを諦めたみたいに肩の力を抜いて、それから僕に向かってそう言った。
「何か一つのものに酷く執着して、それが無いとまともに生きていけなくなるんだ」
困った様な顔をしている宗吾さんの言っていることの意味が僕にはよく分からない。
「河原の石だったり、茶碗だったり、人によって全く違うんだけど、ある日それを見つけてしまうとそれ無しでは生きていけなくなる質《たち》なんだ」
勿論執着する対象には生き物も含まれてる。
宗吾さんはきっぱりと言い切った後、こちらを見た。
「俺にはそんなものずっとなかったから、これから一生そんなものは存在せず普通に生きていけると思ってたんだけどね」
ごめんねえ。
間延びした声で宗吾さんは僕に謝った。
何を謝られているのかよく分からなかった。
「俺の父さんは、金魚鉢を大切にしていて部屋でずっと眺めていたし、母さんは、夜店に売ってそうな指輪を肌身離さず持っていたよ」
何か一つ見つけてしまうと、それを無くさない様にただひたすらに自分のものにしてしまう。
変だなとは思っていたし、今だって思う。
思い出があるとかそういうんじゃなくて、同じものを買い直したりして代替できない執着。
自分の父母も親戚もみんなそういうものを持っている。
他人には理解してもらえないこだわりがあるため、見合い結婚だった父と母は多分お互いよりも、宝物を大切にしていた。
「君を一目見たとき、ああ、自分が執着すべきものはこれだと思ったんだよ」
だから、金で解決するのが一番早かったのでそうした。
きっぱりと宗吾さんは僕にそう言った。
「……俺、今日のところはこれで帰るわ」
ため息を付きながらハウスキーパーさんは言った。
「また来るから。
……それまでにもうちょっとお互いの事ちゃんと話合えよ」
ハウスキーパーさんは部屋を出る瞬間宗吾さんを見た。
「愛と執着は全く別物だな」
ハウスキーパーさんは囁く様にそう言ってすぐに部屋を出てしまった。
1
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜
有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)
甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。
ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。
しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。
佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて……
※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる