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目を覚ますと、隣で宗吾さんが僕の事を見ていた。
とても、とても優しげな顔で。

「おはようございます」

僕が声をかけると宗吾さんは「おはよう」と返してくれて、それからくしゃりと僕の頭を撫でる。
朝の淡い日差しに微笑む宗吾さんの顔に何か含む部分は無いように見える。

「シャワーを浴びるか? それとも一緒に朝食にするか?」

朝食の意味が一瞬分からなかったけれど、朝食が人間用の朝ごはんの事だと気が付く。

お腹はまだ減っていない。
だから、シャワーを浴びて体を綺麗にしようかと思った。

自分が何かをしようと思えるのが、久しぶりだという事に気が付く。

「シャワー使わせてもらってもいいですか?」

僕が言うと、宗吾さんは「とりあえずは俺の服着てて」と言って服を貸してくれた。

「今日、服が届く筈だから。
いくつか持ってきてくれる筈だからその中から好きな物選んで」

そう言われて、思わずぽかんと宗吾さんを見る。
僕のための服が届くという事だろうか。

「後……」

ベッドサイドに置かれた僕の眼鏡を手渡しながら、宗吾さんが「これは家でって訳にいかないから、買い物にも行こうか」と言った。

眼鏡の度はあっていない。フレームも古くて傷んでいる。
だけど、そんな風にものを買ってもらっていいものなのかも分からない。

後で何かを返せるとも思わない。
困って宗吾さんを見ると、また頭を撫でられる。

「別に見返りは求めていない」

はっきりと宗吾さんが言う。

なんだろう。どういう事だろう。

「シャワー浴びるんだろ?」

宗吾さんに言われて「はい」と答える。
宗吾さんのパジャマは少し大きくて立ち上がるとズボンがずり落ちそうになって、手で押さえながら浴室へ向かう。

どういう事なのか今の自分の置かれた状況がよく分からない。
僕に何かを買い与えて、彼に利益があるとは思えない。

身ぎれいな人間を抱きたいという好みの人なんだろうか。
なら、昨日途中で行為をやめてしまった理由が分からない。

僕はあの人とセックスをするために買われた。

ここに来た日、あの人と性行為をしたのだから、そこだけは多分確かだ。

買い物に行こうと言っていた。今日彼に仕事は無いのかもしれない。

そもそも、彼がどういう一日を過ごすのが普通なのかも僕は知らない。

ボディソープとシャンプーを使うか悩んで、それから「臭い」と言われる方がよくない気がして体を洗った。

浴室にある鏡で自分の背中を映す。
今まで気が付いていなかった紋様が尻の上のあたりにあるのが振り向くと分かる。

赤に近い色で刻まれたそれが自分たち淫魔にどういう意味のあるものなのかさえもよく知らない。
誰かに聞けば教えてもらえるものなのだろうか。

そもそもこの紋様は生まれつきあったものなのかさえもよく思い出せない。
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