それを恋とは呼ばないから

１７

「この家は自由に使っていい」

日用品と服は買ってこさせる。
簡潔に宗吾さんは言う。

「何か希望のものはあるか？」
「いえ……」

よく分かりません。と答えると、宗吾さんは目を細めると週末は仕事を休みにできるから買い物に行こうと言った。

「眼鏡も、作り直した方がいいだろう」

随分古そうだと言われたメガネは正直自分でもいつ作ったのものなのか覚えてもいないし、度も微妙にあっていない。

「どちらにせよ、外に出かけるのは携帯端末の準備をしてからにして欲しい」

外に出られるのかという驚きがあった。
外に出たいと考えたこともそれほどない。

「分かりました」

どちらにせよそれほど興味が無かった事なのでそれだけ答える。

「本は読めるか？」
「……はい」

意図がつかめずとりあえず肯定すると、「奥の部屋が書斎になっている」と言われる。

「とりあえず今日のところは本を読むくらいしか時間の潰し方が無いがそれでいいか？」

宗吾さんに言われて「問題ないです」と答える。
別に普段何かをして過ごしたことが無い。

それとも知識のあるタイプの妓女の様な相手を、宗吾さんは望んでいるのだろうか。

今日何をしようか、とか、何がしたいか、とか、そんなことを考えて暮らした記憶はあまりない。

人用の食事を終えて、食器を片付ける。

「手伝います」

そう伝えて、食洗器の使い方を説明される。

淫魔に家事労働をさせることを好む人間と、嫌がる人間がいるらしいという話は耳にしたことがある。

宗吾さんがどちらの人間なのかはよくわからなかった。

宗吾さんは「疲れているのなら、昼寝をしてもいいから」そう言いながらスーツに着替えて出かけて行った。

◆

昨日あまり眠れなかったのもあってベッドに戻って眠る。
本は少し休んだら読もうと思った。

教養のある会話を楽しみたいのであれば、捨てられないためにも頑張らなくてはならない。
僕がそんな話ができるのかもよく分からない。

けれど、僕は見た目が美しい訳ではない。
その位の事は自分でも分かっている。

けれど、あの人が教養を求めているのかは分からなかった。

週末買い物に行こうと言われたこともどう受け止めたらいいのか分からなかった。

結局その日はうつらうつらしながら過ごして、夕方になって少しだけ本を読んだ。