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メリット

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この人と信頼関係等はなから無かったのだろうか。

冷徹に見える瞳を眺めながら思う。

「私《わたくし》がやったのであれば、名前を残す筈が無いでしょう」

なんで態々私が犯人だと名乗ってやる必要があるのだろう。

そんな事も分からない位、聖女様に心酔している事実に驚く。


美しい花の様な人だ。
守りたくなるのだろう。

周りから聞こえるのはヒソヒソという囁き声だけ。

誰も仲裁すらしようとしない。

私を助けるメリットが誰にも無いのだ。


悔しくて泣いてしまいそうだったけれど、何とかこらえる。
それはあまりにも惨めだから、我慢したい。

そもそも、何故聖女様がここにいないの?

言いたいことは沢山あるのに上手く言葉にできない。

ガタン。

一際大きな音がした。
気が付くと、私とアンリ様の間に人が立っている。

着ている白衣は少し薄汚れていて、薬草の匂いがする。
私はこの人の事を良く知っている。

「間に合ったかな?」

アンリ様をにらんでいるのだろう、彼が一瞬たじろいだのが私からも見える。

「こんな衆目の中、彼女を貶めるは?」
「だから、聖女が受け取った菓子に名前が書いてあったと言ってるだろう」
「はっはー、さてはお前馬鹿だな」

貴族らしからぬ言葉遣いだ。
私の幼馴染である彼も、一応貴族に名を連ねている。

変人だ。
そう言われている彼リヒトは、よれよれの白衣を着ていてもそれでも彼に密かに思いを寄せる令嬢が絶えない位、容姿が整っている。

今だって、一瞬見とれてしまっていた女の子が何人もいた。

変人といっても、ある時期を境に幼馴染は言動の一部が突飛になってしまっただけだ。

けれど、これは突飛では片づけられない。
よく分からない魔法の研究をひたすらしているとか、貴族の社交を一切していないとか、いまだに許嫁すらいないとか、そういう話とは全く違う。

この国の第二王子に向かって馬鹿呼ばわりをしてしまったのだ。

取り返しがつかない事態の筈なのに、リヒトはこちらを振り向いてニッコリと甘やかな笑みを浮かべた。
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