上 下
2 / 10

聖女様

しおりを挟む
◇◆◇


 学園に通う生徒の中に聖女の力を発現した娘が出たと聞いた。

 聖女様は世界を歪みから救う存在。伝説とさえ言われたおとぎ話の中だけの話だと思っていた。


 聖女様は祈りを捧げ、この歪《ひず》みを正されたそうだ。
 実際に何人もの人が目にしたらしい。


 聖女様は同い年だと聞いた。
 貴族ではない少女は私の目から見てもとても愛らしく、何人もの人が恋に落ちるのも分かる。


 世界に愛された人というのはこういう人をいうのだろう。
 キラキラと光るピンクがかったブロンドの髪の毛と、濃い海の様な瞳を見てそう思った。

 世界の歪みから人々を救った聖女様。
 美しく可憐な少女は貴族ではない。しがらみが無く手に入れられる最高のカードだ。


 国内の政治にも外交にも最も最適で圧倒的に力がある最強の手札。その上、かわいらしい姿とその真摯な言葉は国民からの支持もすさまじい。


 国内における貴族同士の駆け引きに使えるという人間よりもずっと、国にとって必要なものなのだろう。


 聖女様の近くに私の婚約者がいることも知っていた。
 まるで聖女様の騎士の様に近くに寄り添っている姿を、何度も何度も本当は見ていた。


 聖女様は素敵な人だ。
 一度も言葉を交わしたことのない私でも分かる。


 だからこれは仕方がない事なのだ。



 父が苦虫をかみつぶしたような顔で私を見ている。
 目の前には婚約破棄を申し出る書面。

「せめて、直接伝えて下されば」


 皆の前で、婚約破棄を宣言されても実際困るのだ。
 貴族には貴族の体面がある。


 けれど、せめて一度位話をしてくれても良かったのに。

 母が静かに泣いている。


 明日から、聖女様に八つ当たりだけはするまいと誓う。


 あの人にはあの人の都合があっただけなのだ。
 聖女様には何も関係のない事だ。

 
 アンリ様自身が望んだのか、それとも国としての決定なのかは私には分からない。
 けれど、婚約破棄自体を覆す力は私にも私の父にもない。

 これは決定してしまったことなのだろう。


 こんなことになる位なら。
 一瞬子供の頃の思い出が頭をよぎる。


 結婚する相手を選べるような立場にいないのは私が一番よく分かっている。
 家のために決められた人生を歩むしかないのだ。

 けれど、これはあんまりじゃないかしら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

政略結婚のハズが門前払いをされまして

紫月 由良
恋愛
伯爵令嬢のキャスリンは政略結婚のために隣国であるガスティエン王国に赴いた。しかしお相手の家に到着すると使用人から門前払いを食らわされた。母国であるレイエ王国は小国で、大人と子供くらい国力の差があるとはいえ、ガスティエン王国から請われて着たのにあんまりではないかと思う。 同行した外交官であるダルトリー侯爵は「この国で1年間だけ我慢してくれ」と言われるが……。 ※小説家になろうでも公開しています。

濡れ衣を着せてきた公爵令嬢は私の婚約者が欲しかったみたいですが、その人は婚約者ではありません……

もるだ
恋愛
パトリシア公爵令嬢はみんなから慕われる人気者。その裏の顔はとんでもないものだった。ブランシュの評価を落とすために周りを巻き込み、ついには流血騒ぎに……。そんなパトリシアの目的はブランシュの婚約者だった。だが、パトリシアが想いを寄せている男はブランシュの婚約者ではなく、同姓同名の別人で──。

悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです

白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」 国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。 目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。 ※2話完結。

処理中です...