思い出レストラン

渡辺 佐倉

文字の大きさ
上 下
14 / 15

1-14

しおりを挟む
「……おかあさん。」
「あら、美和どこに行ってたの!心配したのよ。」

室内には美和の父と母はそれから叔父の3人が残っていた。
美和の母は葬儀屋と春田に気が付くとすぐに頭を下げる。
疲れ切った顔をしている女性だった。

「あ、あのね。」

美和はチラリと春田を見た。春田は黙ってチャーハンの皿を一皿美和に渡した。

「これ、おばあちゃんのレシピで作ったチャーハンなんだって。だから……、だからね、いつもみたいに半分こでお母さんと食べたいんだ。」
「おばあちゃんの?……そうなんだ。……おばあちゃんの。」

皿の上のチャーハンを確認すると「そうだね。一緒に食べようか。」と母親は言った。

春田はそっとスプーンを二つ手渡す。

二人は恐る恐るスプーンですくってチャーハンを口に運んだ。

「ああ、これおばあちゃんの味だ!」
「そうだね。おばあちゃんのチャーハンだね。」

ポロリ、美和の目からまた涙がこぼれた。ポロリ、美和の母親の目からも涙がこぼれた。

「美味しいね、美和。」
「うん、美味しいねおかあさん。」

二人は泣きながらチャーハンを口に運んだ。

「よろしければ、お二人も。」

葬儀屋が残ったチャーハンの内二皿を美和の父と、叔父の前に差し出した。
二人もチャーハンに口をつける。

「ああ、母さんに昔食べさせてもらった味に似ているな。」
「懐かしい味な気がするな。」

二人の双眸が優し気に、悲し気に下がる。
もう、これっきりこの味は食べられないのだ。この味を作ってくれた人とは会えないのだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方になんて出会わなければ良かった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

ちょっと昔の妙な話

ホラー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜舐める編〜♡

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:5

文明の潮流(トレンド)

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

合言葉

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ガラスの向こうのはずだった

SF / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:8

新婚バカップルの新婚旅行に着いていくくらいなら、修行の方がマシ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

処理中です...