思い出レストラン

渡辺 佐倉

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「さてと、婆さんやるか。」

春田は早めの店じまいをして、明日の為に本日臨時休業の張り紙をした。
それから老婆に向かってそう言った。

「で、あたしはどうすればいいのかねえ。」
「はあ、だから説明しただろ。俺は霊感があるとはいえ他の超能力がある訳じゃない。
ちょっとばかりイタコみてえなことができるってだけだから俺の体を使ってアンタが作るんだ。」

人間は死んでしまうと忘れっぽくなるらしい。

「手の大きさも視点のの高さも使っている道具も全然違うだろうから完璧にいつもの通りって訳にはいかないかもしれないがそこは俺が協力するから。」
「はい、ありがとうねえ。」

老婆は頷きながら言う。それからこんな感じかねえと言いながら春田に重なった。

「こんなもんかしらねえ。」

そう言いながら春田は自分の手を確認する。
春田では無く老婆なのだろう。手をニ、三度握って開いてした後「あらあら、まあまあ。」と嬉しそうな声を出した。

(婆さん、言われた材料は冷蔵庫に入ってるから適当にな。)

頭の中で春田の声がして老婆は「分かってますよ。」と声を出して返事をした。

「卵とハムと長ネギと……。」

老婆は歌う様に材料をそろえてそれからそれを細かく切る。
炒め料理用の業務用の大きなコンロでは無く、汁物用の小さなコンロでフライパンをあたためてごま油を回す。
ごま油のいい匂いがふわりとした。

そこにまず溶き卵をいれて少しだけ火を通す。それからそれを皿にあけておいてハムと長ネギをさっと炒める。
そこに暖かいご飯をたして塩コショウ醤油とそれから隠し味の昆布茶を少し。最後にたまごをフライパンに戻して仕上げだ。

どこの家でも出てくるような普通のチャーハンだと春田は思った。
火力が足りないからご飯は少しダマになっているし味付けも特になんの変哲もない。

それでも老婆は嬉しそうにそのチャーハンを皿に盛りつけた。

「はい、完成。おばあちゃん特製チャーハンよ。」

老婆は春田から抜け出してそれから満足気に言った。
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