思い出レストラン

渡辺 佐倉

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本日の通夜も終わって葬儀場は閑散としている。
いま斎場に残っているのは、線香を絶やさない様ここに宿泊をする親族とわずかな従業員だけだ。

灯りも殆ど落としてある。
だから、

「どうしましたか?」

ロビーの隅っこでうずくまっている少女を見て葬儀屋が聞く。
地元の中学校の制服を着た少女は葬儀屋の声に顔だけ上げる。

「ひっ……。」

少女は葬儀屋を見ると喉の奥で悲鳴の様な声を上げた。

「あの、私、こちらの従業員で紫藤義孝と申します。」
「あ!ああ、そうなんですね……。」

真っ白い無表情の人間が薄暗がりに突然現れたのだ。びっくりするに決まっている。
ある程度自分が他者からどう見られるのかを葬儀屋は知っていた。

それにこの少女はあの藤の間の老婆の孫の一人だ。

「暖かいココアでも入れましょうか?」
「……いえ、お気遣い無く。」

答える少女の声は暗い。近親者が亡くなっているのだ当たり前といえば当たり前なのだが、通夜で見た時にも比べ一段と疲れている様に見えた。

「お戻りになりますか?」

葬儀屋が聞くと少女は体をギクリと固める。

「ココア一杯だけ貰ってもいいですか?」

少女に恐る恐る言われ、葬儀屋は頷いた。
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