思い出レストラン

渡辺 佐倉

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◆ 

「お届けに上がりました。」
「あー、春田さん。申し訳ないけど藤の間に運んでおいて!」

斎場にあらわれた春田に従業員の女性は慣れた口調で言う。
本来はここへ運び込めば後はお任せなのであるが、忙しい日はセッティングまで春田自身が行うこともあった。

別に大した時間がかかることでもない。春田は藤の間に向かう。

通夜ぶるまいの食事を置いていると、親族用の控室から顔だけひょっこりと覗く顔と目があう。

「おじちゃん、だあれ?」

小学校に上がりたて位だろうか、少女に聞かれて春田は笑顔を浮かべる。

「おじちゃんは、ご飯屋さんだよ」

春田が笑うと少女も笑顔を浮かべた。

(子供がいるなら、それ用のメニューを注文っていつも言ってるだろうが!)

春田は心の中で無表情な幼馴染への悪態をつく。斎場で出す料理のほとんどは子供好みでは無い。
美味いものを食べてもらうために作っているのにそれでは意味が無いのだ。

横で、少し疲れた表情をしている母親らしき女性が頭を下げたので春田もお辞儀をする。
それから、上着のポケットに手を突っ込む。

大体いつもポケットの中には手作りの飴が入っていた。
青いセロファンに包まれたそれを少女に渡す。

「おじちゃんの手作りだよ。良かったら食べてね。」

少女は春田と母親の顔を交互に見る。

「ちゃんと『ありがとう』っていうのよ。」

母親に言われた少女は「おじちゃん、ありがとう!」と言って飴を口に入れた。

「美味しい!すごいねおじちゃん。もっとないの?」
「ちょっと、芽依!」

少女に言われ春田はもう少し沢山持ってくるんだったと反省する。

「だって、お母さんにも食べさせたかったんだもん」

芽依と呼ばれた少女はそう言った。
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