言霊の國

渡辺 佐倉

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驚愕3

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ふふ、ふふふふ。アラタが笑い声をあげる。

「この世界でもすでに革命はなされてるんやないか」


その変容をこの術者は隠し通したってことかな。そうアラタは言う。


「この本は今見えている文章と違う術がかけられている」

言葉以外の意味を術に込められると知っている同郷の人間に宛てたメッセージ。
いや、そんな大層なもんとちがうか。

「発現させても特に役に立つようなもんやないけど、恐らく術を実行できるのは一回だけ。
それに、今回公に召喚されている御子は皆声で術を発現させる人間ばっかりやから、多分この術を形にできるのはおれだけ」

で、俺は公の行事に参加をするつもりは無い。

「でも、今ここでこれを見て終わりにしてしまうのも少しだけ勿体ない気がするやんか」
「お前、そういう事言うタイプじゃなかったよな」
「まあ、機材はセットして録画はさせてもらいますけど」

アラタはてきぱきと、いくつかの箱カバンから取り出す。

「俺の予想が当たってたら、これは外で見る方が綺麗や」

今、術を使ってしまっていいのか暗に聞いているのだろう。

リツはウィリアムをちらりと確認した。
それから「革命というのは文字渦の事か?」とアラタに聞いた。


「ああ、少なくともこの世界で前回御子を召喚した時代は文字渦よりも後や」
「テクノロジーと言霊が共に歩き出した時代の人間がいたっていうのに、この世界はこの有様って事か?」


本を持ったアラタが笑みを浮かべる。

「だから、この世界はおかしいんよ」

独立して文化を、それから技術を形成していない。
技術や文化が川の上流から下流に流れていくような、木が伸びて枝を付けていくような流れが見えない。

モールスがいないからそれがモールス信号と呼ばれていない。というような次元ではなく、突然そこにその世界が現れたかのように、同じ言葉を使っているのにも関わらず技術体系が違う。

この世界に来た来訪者が自分たちだけであれば、偶然の一致もあり得たかもしれない。

けれど、この世界ではある程度の周期で御子を呼びよせているという。

その前の世代の御子の手記はアラタの知っている言霊の技術の潮流と一致していた。
それも大きな変化がもたらされた後のものだ。

「これが本物かどうか確かめてみましょか」

口外厳禁の言霊を解いてやるつもりはないけれど、あなたも見ますか?
そう騎士団長にアラタは聞いた。

別に想い人と綺麗なものを見たかった訳ではない。
ただ、何となく声をかけてしまっただけだ。
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