言霊の國

渡辺 佐倉

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(自分の頭の中での事ならまだマシか……)

戻ってきたメッセージを見てアラタは思い直す。
自分の頭の中で起きている妄想なら、事態はそんなに悪くない。

問題はそうではなかった場合だ。
返事をよこしたのが本当に知り合いのリツであればいい。

だけどそうでなかった場合、待っているのは騙し合いか争いだ。

言霊は語句の通りの力を発するものと、一見関係ない文章に言霊をこめる場合がある。

普通の返信に見える文章に力が込められていないかアラタは注意深く探る。
それは戦争さえ引き起こした力だ。

何気ない文章が人々の憎悪を掻き立てて、アラタ達の世界では大戦となった。
文章で書かれている言葉も、口に出された言葉も何も信用できない。

そういう世界から来た。
連絡を取ろうとしている人間も、多分同じ世界から来ている。

アラタが最初に出したメッセージを同じように見極めて返事をしてきたのだろう。

スマートフォン型端末に元々インストールしてあったアプリで言霊を仕込まれていないか確認してから目を通した。
眼鏡にはきちんと言霊を書いて自分で防げる言霊はすべてはじく様にしてある。

リツは偶然隣の国に召喚されていた。

「偶然、か……」

できすぎている気がしたが、まずは彼と会うべきだろう。
リツ・カスガがアラタの知っている医者の卵と同一人物であれば、真っ先に協調すると取り決めたい。

【俺が、そちらの国に行った方がいいか?】

簡素なメッセージがリツから送られてきていた。
けれど、隣国の御子様の話はこの国にまで聞こえてきている。

アラタは、自分が御子としての扱いを受けるつもりは無い。
だから、御子様が自分の元を訪れるということが知られるのは本意ではない。

【こっちから伺いしますわ】

アラタはリツにそうメッセージを送った。

もう一人、返信をしてきたのは、アラタとは面識のない人間だった。

けれど、もしかしたら名前は見たことがあったのかもしれない。
元の世界でプロ棋士だったという男は【将棋、指せますか?】というメッセージを送ってきていた。

この世界の情勢に何も興味はなく、将棋というゲームがこの世界に存在しない事だけを嘆いていた男の本心が送られてきたメッセージの通りなのかはアラタには分からない。

そもそも、プロが楽しめる様な実力がある人間が元の世界でだってどれだけいるのかという話だ。

【アマ二段でした。】

そうメッセージを送ると、返信は【2六歩】とだけ返ってきた。
本当にただ将棋が好きな人なのかもしれない。

アラタは【3四歩】とだけ返してから、どうやって仕事を休むかについて考えを巡らせた。
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