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◆
アラタは帰宅してから、スマートフォン型端末を立ち上げる。
ガジェットおたくというやつでよかった。
大して言霊の力が強い訳ではないが、言霊が動力源の筐体を使っているから今まだこの端末は動いている。
端末の上で人差し指で電力となぞると、じわりと目の前が一瞬ぶれる。
元いた世界では摩耗した魂をあるべき姿にするための技術が確立されていたけれど、この世界で同じことができるかは現段階では未知数だ。
だからといって使わないという選択肢はアラタには無かった。
他の国の“御子様”の噂を聞いた。
各国が、増えてしまった蜘蛛の対策で御子を呼んだという事だった。
届くかもしれない他の御子の端末が生きている間。協調できるかもしれない人間にメッセージを送る。
基地局なんてものはこの世界に存在しないから、言霊の力を使って、同じ言霊の力を使ったデバイスに飛ばす。
この世界は地球よりもとても小さい。
それが、自分の想像力の無さからきている妄想の世界なのか、それとも別の何かなのか。
アラタは確かめたかった。
自分以外の同じ世界の常識を持った人間に会って、できれば自分の知らない知識を教えてもらって、それで自分が狂ってしまってない事を確認したい。
暗い室内には端末の灯りだけが付いている。
ふう、とアラタはため息を付いてそれから古ぼけた屋根を見上げた。
アラタは召喚された際、運よく他人から自分自身を認識しづらくするための言霊を身にまとっていた。
突然変わった視界、見知らぬ恰好をした人々。
認識をされる前に逃げ出した後、この世界を知るごとにわいてくる疑問がある。
ここはどこで、自分は何のために召喚されたのか。
蜘蛛を退治するための暴力装置としてよばれたことはもう知っている。
蜘蛛を何匹も捕らえて言霊の効きを実験もした。
ここで暮すにせよ、元の世界に戻ることを模索するにせよ、道具が圧倒的に足りない。
昔ながらの筆で文字を書いて、肉声に言霊をのせて、そんな非効率なものに人生をかけるのはあり得ない。
だけど――
アラタは一人きりの部屋で瞼を閉じた。
「好きになってもうたんは、しゃーないやろ」
真っ暗な室内で、アラタの声は妙に響いて、それが少しだけ気恥ずかしくてアラタは立ち上がる。
室内の灯りを付けてばらばらとテーブルの上に並べられた紙を見下ろす。
インクで書きなぐられている文字はおびただしい量に及んでいる。
その上に金属で作られた部品が並んでいる。
旋盤で削り出された丸みを帯びた部品には極小の文字が書かれている。
アラタ自身によって削り出され言霊を書き込まれた部品は必要な分にまだ足りてはいない。
それに、大学院まで工学を学んでいたとはいえ、一人で何もかもやっていた訳ではない。
「でもまあ、楽しいやんなあ」
だからこそ、これが自分の頭の中の世界ではないのかと怖い。
出し続けていたメッセージは、次の日ようやく二人から返事があった。
その中の一人がアラタの知り合いで、やっぱりこれは自分の頭の中の世界じゃないかとアラタは本格的に考え始めてしまった。
アラタは帰宅してから、スマートフォン型端末を立ち上げる。
ガジェットおたくというやつでよかった。
大して言霊の力が強い訳ではないが、言霊が動力源の筐体を使っているから今まだこの端末は動いている。
端末の上で人差し指で電力となぞると、じわりと目の前が一瞬ぶれる。
元いた世界では摩耗した魂をあるべき姿にするための技術が確立されていたけれど、この世界で同じことができるかは現段階では未知数だ。
だからといって使わないという選択肢はアラタには無かった。
他の国の“御子様”の噂を聞いた。
各国が、増えてしまった蜘蛛の対策で御子を呼んだという事だった。
届くかもしれない他の御子の端末が生きている間。協調できるかもしれない人間にメッセージを送る。
基地局なんてものはこの世界に存在しないから、言霊の力を使って、同じ言霊の力を使ったデバイスに飛ばす。
この世界は地球よりもとても小さい。
それが、自分の想像力の無さからきている妄想の世界なのか、それとも別の何かなのか。
アラタは確かめたかった。
自分以外の同じ世界の常識を持った人間に会って、できれば自分の知らない知識を教えてもらって、それで自分が狂ってしまってない事を確認したい。
暗い室内には端末の灯りだけが付いている。
ふう、とアラタはため息を付いてそれから古ぼけた屋根を見上げた。
アラタは召喚された際、運よく他人から自分自身を認識しづらくするための言霊を身にまとっていた。
突然変わった視界、見知らぬ恰好をした人々。
認識をされる前に逃げ出した後、この世界を知るごとにわいてくる疑問がある。
ここはどこで、自分は何のために召喚されたのか。
蜘蛛を退治するための暴力装置としてよばれたことはもう知っている。
蜘蛛を何匹も捕らえて言霊の効きを実験もした。
ここで暮すにせよ、元の世界に戻ることを模索するにせよ、道具が圧倒的に足りない。
昔ながらの筆で文字を書いて、肉声に言霊をのせて、そんな非効率なものに人生をかけるのはあり得ない。
だけど――
アラタは一人きりの部屋で瞼を閉じた。
「好きになってもうたんは、しゃーないやろ」
真っ暗な室内で、アラタの声は妙に響いて、それが少しだけ気恥ずかしくてアラタは立ち上がる。
室内の灯りを付けてばらばらとテーブルの上に並べられた紙を見下ろす。
インクで書きなぐられている文字はおびただしい量に及んでいる。
その上に金属で作られた部品が並んでいる。
旋盤で削り出された丸みを帯びた部品には極小の文字が書かれている。
アラタ自身によって削り出され言霊を書き込まれた部品は必要な分にまだ足りてはいない。
それに、大学院まで工学を学んでいたとはいえ、一人で何もかもやっていた訳ではない。
「でもまあ、楽しいやんなあ」
だからこそ、これが自分の頭の中の世界ではないのかと怖い。
出し続けていたメッセージは、次の日ようやく二人から返事があった。
その中の一人がアラタの知り合いで、やっぱりこれは自分の頭の中の世界じゃないかとアラタは本格的に考え始めてしまった。
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