言霊の國

渡辺 佐倉

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傾城

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「レンさんは素敵です!!
その美しい瞳、身のこなし!なんと素晴らしい!!」


ふう、とリツがため息をつく。


「もうちょっと、感情こめて言えませんか?」


ウィリアムに向かって悪態をつく様に言うが、彼は全く動じた様子が無い。

「リツの美しさに比べることすらできないよ」

ニッコリと自分をみて言うウィリアムに、リツはもう一度ため息をつく。


どうしてこうなった。


言霊の残渣も何もないはずなのにウィリアムはあれからずっとこの調子だ。

何かそういう要素があったのか。別世界から来た御子という存在に対する憧れがこんがらがってしまったのか。

それとも最初からこの人のそういう趣味が最悪だったのかは分からない。

「でも、これって本当に必要なの?」


ウィリアムに言われてリツは頷く。

この国と、この世界が置かれている現状は理解した。
元の世界に戻れる方法もこっちの世界の人間は知らない事も。

リツに御子召喚のメカニズムを解明するような力は無い。
それであるのなら、この国で何ができるのか考えた方がまだましだと思った。

「御子様、……レンはかなり高威力の言霊の使い手です」

だから、少なくとも敵にはしたく無い。今の段階ではうまい具合にいつも通りハーレムでもなんでも作り上げて欲しい。

「彼の力はほぼ人心掌握術に特化しています。
それに、彼自身それ以外の言霊使う気無いようですし」

彼に近づいて声を聞いた時点で彼のために生きる彼の傀儡に成り下がる。

現状の自分の唯一の味方がそうなるのが嫌だった。
ただそれだけだ。

甘ったるく愛を囁くこと位造作もないはずなのに、ウィリアムのあまりのやる気の無さにリツは天をあえぐ。

言霊の力を弱める耳栓がちょうど持っていたカバンに入っていてよかった。
消耗品ではあるものの、ある程度の期間は使えるだろう。

「……兄の様子がおかしかったのもその所為だな」


ウィリアムは先ほどまでの話し方から一転して低い声で言う。

「恐らく。
王宮は今酷い事になってますよ」

レンの気分次第でどこまでハーレムが広がっているのか想像もつかない。


「傾国ってやつですか……」
「本人に自覚がありますから、国を傾けさせないようにとりあえずはそこまではしないと思います。
あいつも馬鹿じゃない」

だから問題なのだ。
馬鹿がただ、モテちゃってどうしようってやっているのとは訳が違う。

状況を見て傾城《けいせい》でもなんでもする男だ。

それは今までの経験で嫌って程知っている。

恐らく本来の職務に関する部分に影響が出るほどの言霊は使わないはずだ。

「なあ、リツ。わたしに言霊をかけてくれないか?」

ウィリアムに言われ、リツはごくりと唾を飲み込んだ。
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