言霊の國

渡辺 佐倉

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王弟殿下

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戦っていた兵士から唸りの様な歓声が上がった。

リツは肌がビリビリと震える様な感覚がした。
兵士たちにウィリアムが近づいていく。

「王弟殿下!!」

兵士の一人が大声で叫ぶ。
一瞬どういう意味の単語かリツは分からなくなって、目をぱしぱし瞬いてしまった。

王弟の事だと分かった瞬間、思わずまじまじとウィリアムを見る。

「そんなに、熱い目で見つめてどうしたんだい?」

相変わらずウィリアムはどこか高揚したようにリツに話かける。


国を挙げて擁立しようとしている御子かもしれない人間の行動を一任される人物。
きらびやかな王様に比べて地味な印象の見た目ではあるけれど、権力者だってことは最初から予想はできていた。

けれど、思ったよりも偉い人なのではないかとリツはぽかんとした表情でウィリアムを見てしまう。

「王族なんですか……?」

リツの言葉にウィリアムはニコリと瞳まで細めて笑う。

「御子も王族と同じ地位を保証されていますから」

そういう問題ではない。それを気にしているわけではない。

多分ウィリアムもそこには気が付いている。
それなのにニコニコとしながら言われて言い返せない。

いっそのこと言霊で跪かせてしまおうかと思ったけれど、御子という言葉にざわめく兵士を見て、それもできないと悟る。
余計に面倒なことになりそうだ。

「王族となりたいのでしたら、私と婚姻するという方法もありますゆえ」

双眸をドロリととろける様に下げてウィリアムは、リツに向かってそう付け加えた。


「そういうのは、本当に大丈夫なので」

先ほども彼に話した筈だが、リツの力は弱い。
他で御子召喚が成功したら、確実にその人間の方が力が強いと確信できる位弱いのだ。

困った顔をするリツに、「力の多寡の問題ではありません。あなたがいて下さって、こうやって蟲を打ち祓ってくださってどれだけ兵士が鼓舞されるか、あなたには分からないかもしれませんが……」


貴方はわが国の希望なんです。

ウィリアムはリツから視線をそらさずそう言った。

リツは唇を二度ほど戦慄かせた後、何も言い返せず「まずはこの世界の事をきちんと教えてください」とだけ答えた。

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