異世界転移しました。元天才魔術師との優雅なお茶会が仕事です。

引っ越し

「すみません。騒がしくって」

叔父さんは来た時と同じようにバタバタと帰って行った後、オーウェンさんは俺にそういった。

別に彼が謝ることは何もない。
彼はあの叔父が帰る前に何枚かの書類に署名をさせていた。

「あの、研究って……」


形だけ今の権利保持関連の雑務をと言っていたけれど、先ほどはまた何かをするような言い方をオーウェンさんはしていた。
叔父さんにむけての方便だろうか。

「まあ、たとえ一生遊んでいける金があるとしても、サカキ、君そういうの気にしそうだしね」


それにあそこの本は、本当にいいアイデアになりそうだし。
そう言った。


俺はこの家に引っ越してくることになった。
使用人棟のような建物があると思ったけれど通いの人が多いらしく同じ建物内になってしまうそうだ。
俺のために新たな建物をというのも違う気がして居候をさせてもらうことにした。
引っ越しは簡単なものだった。

この世界に転移してしまった際には仕事帰りでカバン一つ、それ以外に最低限の着替えを最初に支給されてという位しか持ち物が無い。
アパルトメントの引き払い手続きもオーウェンさんがやってくれるらしい。
簡単に荷物をまとめたらそれで引っ越し準備は完了になってしまった。

オーウェンさんは屋敷の使用人を手伝いに向かわせようとしていたけれどそんな大層なものになりようがない。
荷物が大変というのも図書館のカウンターのすみを間借りさせてもらえば別に問題は無かった。


だからすぐに引っ越しは終わった。


契約の職種は変わったけれど、それ以外はあまり変わったところは無かった。
食事は支給されるし通勤時間は無し、賃金は桁が変わった。


元天才なんて言う不名誉な噂が立つくらい事故の後彼は何もしていなかっただろうに、彼の研究室は普通に屋敷の中に整備されていた。
それは誰かに用意されたものというよりも、オーウェンさんは普通に使いやすそうに使っているので彼自身が主体になって準備したものなのだろう。
本当に何故彼は元天才と言われるまでになってしまったのか分からなかった。

それから、毎日オーウェンさんの研究を手伝って三日に一度ガゼボやサロンで話をした。

最初は簡単な童話、神話の話をした国によって信じている宗教が複数あることも話した。
祭日のこと、その過ごし方、四季について、花火、それから遺伝について。

何か有名な作家の話を読み聞かせて欲しいと言われ、有名だからと選んだ作品が思いのほかベッドシーンが多く諦めたこともあった。さすがに仕事中には無理だ。

無難に、宮沢賢治を読んで、それから装飾品の図鑑を二人で見た。
地層について彼が知りたいと言った。
魔石という俺の世界に無い石がこの世界にはあって、それも鉱脈になっていることを知った。

二人で本を見た後必ずお茶会をした。
二人で色々な話をした。

宝石は普段からつけている庶民は特に男性だと俺の国では少ない事。
けれど結婚指輪というものがあってそれをしている人はそれなりにいること。

それが彼の助けになっているかは分からないけれど色々話した。