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二人の図書室

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「ははっ、ははは……」


泣きそうな顔をした後、少ししてオーウェンさんは声を上げて笑った。
それから俺をみて優しげな顔で笑顔を浮かべた。

◆ ◆ ◆


今日は俺のスキルである“区立第三図書館”に二人で入ることになっていた。
知識欲がとても強いところも彼が元天才と呼ばれるのに違和感がある部分だ。

オーウェンさんに手を差し出され首をかしげると「エスコート、と言いたいところだけれど、一応念のため発動者とつながっていたいから」と言われた。

エスコートというのは多分冗談か誤訳だろう。

念のための意味も分かるものだった。
差し出された手に自分の手を重ねると握りしめられた。

手が暖かい。
久しぶりの人のぬくもりだった。

彼女がいたのは大学生の一時期だけだった。ここで彼女の話を出すのはおかしいのかもしれないけれど。誰かに触れられるのは本当に久しぶりだった。

特にこの世界に来てからは本当に一人だったというのを少し思い出してしまった。

スキルで出したガラスドアの前に二人で立つと静かに自動ドアが開いた。

彼は興味深そうに「これは魔法ではないんだよね」と言った。

「俺の世界に魔法は無かったと思います。俺の知る限り……。」

それは自動ドアと呼ばれるもので電気で動いている。俺のスキルの中で電力がどういう仕組みで供給されているか分からない旨を伝えた。

それから二人で図書館に入った彼はきょろきょろとあたりを見渡した。
それからあちこち歩き回り「すごい、すごいなあ……」と言って図書館を見回った。

「ちなみにここ以外に本はあるの?」
「一般には閉架と呼ばれる書庫がある筈です」
「へえ」

オーウェンさんは近くにある本を一冊取り出そうとしている。
繋いだ手が邪魔だろう。

「手離しましょうか」
「あ、ああそうだね……」

何故名残惜しそうにしているか分からない。
けれどそんな仕草でオーウェンさんは俺から手を放した。

それから何冊か本を眺めて「すごいね。これは多分大量流通されている本だ」と言った。
この世界ではそうではないのだろうか。

「そうですね。売れてるものだと数百万部という単位で刷られてると聞きます」

家庭教師としてそう答えた。

納得するようにうなずくとそれからオーウェンさんは何か思案にふけっていた。

「これはまずこの言葉を覚えなければならないな」

オーウェンさんはそう言ったそれから「すでに二つの言葉の対応が分かっていれば、対になるものを比べるのが早いのだが……、それはないだろうから」ぐるりと見まわした。

「子供向けの本はあるかい?」

俺は子供向けの本のコーナーを案内した。
オーウェンさんはそこでそれこそ1歳児が読みそうな本を、俺に解説されながら何冊か読んだ。

「しばらく一人で確認したいけど、いいだろうか?
サカキは向こうで俺にレッスンをするために、電気についてとこの世界の神話の本を選んでくれるかい?」

と言われた。
手を放しても大丈夫だった。
彼を一人にしても大丈夫という予感もある。

俺は何冊か、これからの授業のために読む本を選んだ。
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