獣王国の外交官~獣人族に救われた俺は、狂狼の異名を持つ最強の相棒と共に、人間至上主義に喧嘩を売る!~

新橋 薫

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戦争編

モノクロの夢

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 ――いつの間にか、目の前にモノクロの世界が広がっていた。


 森の中を歩いている。緑色では無い森がちょっと不気味だ。しかし、小鳥の囀ずりや、爽やかな風が体を撫でていく感覚で、その不安が和らぐ。

 自分の意思とは無関係に、体が勝手に動いている。……自分ではない誰かの視点で、昔の白黒テレビを見ているかのような感覚だな。

 ふと、ある光景を目にして足を止めた。

 開けた場所に、大きな動物が倒れている。その動物の体長はおそらく、二メートル以上。顔と尻尾と足に、薄い縞模様がある。胴体に縞模様が無いが、おそらく虎だろう。

 色が分からないため、どんな状態なのかはっきりしないが、この虎は大怪我を負っているらしい。モノクロでは無かったら、血の赤に染まる虎の姿が見えたはずだ。

 この視点の主は、懐から小さな杖を取り出した。……魔法師だったのか。虎の治療をするつもりかな?

 視点の主は、ゆっくりと虎に近づく。……しかし、すぐに足を止めることになった。虎が体を起こしたのだ。


「グルルルル……ッ!」
「ま、待って。起きないで! そんな大怪我をしてるのに、無理に動いたら危ないよ!」


 虎の威嚇する鳴き声と、男の声が聞こえた。また情報が増えた。この視点の主は男だったらしい。


「えーと、そうだな……よし。ちょっと待ってね。今、この距離でもすぐに傷が塞がるように、!」


 そう言って、男が杖を動かす。……早い。迷いが無いな。きっと、何度も使って練習したのだろう。

 しかし……俺が知っている回復魔法の術式よりも、かなり複雑な術式だな。見たことが無い。それなのに、術式の完成が早かった。
 書き換えに慣れた魔法師でも、同じ術式をこれほど早くに完成させることはできないと思う。

 男は完成させた魔法を、無詠唱で発動した。その魔法が、離れた場所にいる虎に当たる。


「ガル……?」
「どう? 動けるかな?」
「……ガオッ!」


 ちゃんと傷が塞がったのだろう。虎は少しふらつきながらも、立ち上がっていた。タフな奴だな。あんな怪我をしていたのに、もう動けるのか。


「良かった! ――今考えたばかりの魔法だけど、問題無かったみたいだね」


 は? 今考えたばかり? あんな複雑な術式を即興で作って、しかもそれを無詠唱で発動したのか!

 あり得ない。あの書き換えの速度は、何度も使って慣れているからこそだと思っていたのに!
 あの術式だって、本来なら即興で考えられるような物じゃない! この男の頭の中はどうなっているんだ?


「次からは、あんな大怪我をしないように気を付けてね。……それじゃあ、僕はもう行くよ」


 俺がこの男について、いろいろ考えていた時。彼は虎に別れを告げ、歩き出した。


 一度視界が暗転し、再び明るくなる。場面が切り替わったのか?
 また森の中を歩いているが、道の先に光が見えた。どうやら、森の外に出ようとしているらしい。

 しかし。視点の主が足を止め、後ろへ振り返る。……何故か、先程の虎が後をついて来ていた。


「……君は、いつまで僕について来るのかな? ほら、見てよ。もう森の外に出ちゃうよ?」
「ガルゥ、ガルル」
「うーん……困ったなぁ。僕は人間だから、動物の言葉は分からないんだよね……」


 男は虎を視界から外し、他所を見る。しばらくそのままだったが、やがて戻った。虎は変わらずそこにいる。


「――君、僕の使い魔になってくれる? ……僕と、一緒に来る?」
「ガウガウ!」
「……よし。じゃあ契約しようか!」


 その言葉に虎が頷き、男が杖を取り出した。……あれ? 今さらだが、今は俺のスキルが機能していないようだ。虎の言葉が分からない。
 多分。俺ではない、別の人間の視点で物を見ているからだと思うが……

 男は地面に、使い魔契約の術式を展開する。そして虎には、その上に乗るようにと指示を出した。虎が乗ると、魔法陣が淡く光る。


「我が名は■■■■。これより、彼の者と契約を結び、我が使い魔とする儀式を行う――」


 すると、魔法陣の光が強くなった。……ということは、契約魔法は正常に発動しているな。
 この魔法は最初に、魔法師自身の名前を告げる必要がある。男は確かに自分の名前を言って、魔法を発動させた。

 だが、俺には男の名前が聞こえなかった。その部分だけ、ノイズが掛かったのだ。


「我と契約を結ぶ者よ、汝は我が使い魔となることを誓うか?」
「ガウ」


 虎が頷くと、男も頷きを返した。


「我が魔力よ、彼の者を■■と名付け、契約を結びたまえ――マジック・コントラクト」


 最後に使い魔の名付けを行い、魔法を発動。……名付けの時に、またノイズが掛かったな。この虎の名前も分からない。

 その後、虎の首に首輪が現れる。これは使い魔の証だ。契約魔法を発動すると、使い魔の体の何処かに、その証となる装身具が現れる。

 そして契約が終了した直後、虎に変化が起きた。


「ガオオォォォォッ!」


 虎が勇ましく吠えると、その背中から翼が生えたのだ! 何だこれ、カッコいいな! よく似合っている。
 そういえば前世の神話の中で、翼が生えた虎が出てくる話があった気がする。確か、中国の神話だったかな?


「おっ……おおー! 真っ白な翼! 凄いぞ■■! 体も真っ白だし、まるでおとぎ話の天使みたいだ!」
「天使? 俺が?」
「喋った! ……いや、違う。契約を結んだから、■■の言葉が分かるようになったのか」


 おぉ。虎の言葉が分かる。男が言うように、契約を結んだおかげだろう。俺のスキルで聞こえる言葉よりも、はっきりと聞こえる。

 境界を越えるクロスオーバー・親愛ディアの場合。動物の鳴き声と同時に、それを簡単に翻訳した言葉が聞こえてくる。
 前世のテレビに例えると、鳴き声が主音声、翻訳が副音声で聞こえる感じだな。

 対して、使い魔が相手になると鳴き声がほとんど聞こえず、普段人と話している時のように会話が成立するのだ。


「……俺は天使なんて、神聖なものじゃない。化け物だ。俺の同族は皆、普通の虎とは違う俺を見て、そう呼ぶんだ」
「それって、毛が白くて目が赤いことを言ってるの?」
「そうだ。親も兄弟も普通の虎なのに、俺だけが違った。……ついには、こんな翼まで生えてしまった。やはり、俺は普通じゃなかったんだ……」


 虎は耳と尻尾を下げ、俯いている。

 白毛に赤い目。モノクロの世界しか見えていない俺に、その色は見えないが……もしかして、アルビノか?
 よく誤解されるが、あれはただの遺伝性の疾患だ。化け物扱いされる謂れは無い。


「君のどこが化け物なんだ? 綺麗じゃないか」
「……綺麗?」


 男がそう言うと、虎はきょとんとした表情を見せる。


「白い毛並みも、赤い目も綺麗だ。翼だって、それを使えば僕を乗せて空を飛ぶことができるはず。凄いことだよ! 普通の虎と見た目が違っても関係ない!」
「でも……」
「自分を卑下する必要は無い。だって、君の主であるこの僕が認めている。君は綺麗だ。翼もカッコいい。……使い魔は使い魔らしく、主の言葉を認めなさい! いいね?」
「…………」


 今度は口を開けて、ぽかんとしている。最初は怖かったが、意外に可愛いぞこの虎。


「ほらほら、■■! 返事は?」
「…………随分と、偉そうな人間だ」
「心の声が漏れてるよ」
「すまない。つい本音を言ってしまった」
「あれ? ある意味いい性格してるね、君。主人に喧嘩売るつもり?」
「場合によっては、喧嘩を売るかもしれないな」
「ちょっ、真面目に返さないでよ。契約して早々に下剋上の予告? それで、結局返事は?」


 打てば響くような掛け合いをする中、虎が黙り込んだ。……虎の困ったような表情が、誰かに似ている気がする。


「……俺は」
「ん?」
「俺は、その……白い毛並みも赤い目も綺麗で、翼もカッコいい……と、認める」
「……うーん、まだ自信無さそうなところが惜しいけど、可愛いから許す!」
「か、可愛い……?」
「じゃあさっそく、僕を乗せて飛んでみてよ! そのカッコいい翼でさ!」
「わ、分かった」


 唐突にそう言った男に対して、虎は戸惑いながらも、少し嬉しそうにしていた。


 そこで、急速に意識が遠退いていく――




*****




「――ギャアッ! ギャウギャウ!」
「うおっ!」


 目覚めた俺が最初に目にしたのは、黒いドラゴンのどアップ顔。


「おや? 起きたのかい?」


 そして聞こえてきたのは、知らない男の声だった。



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