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獣王国ヴァイス編
任務完了
しおりを挟む「いやー、ご苦労様! やっぱりレイモンドに頼んで正解だったな!」
王都レーヴェに戻った俺達は、さっそくアルベルトの執務室へ通されて、任務が完了したことを報告。全て話し終えると、彼はご機嫌な様子でそう言った。
王都に戻る前、カルロスに交渉が成功したことを報告した。その時、彼がテレパスの魔法玉を使ってアルベルトにも報告していたため、大体の事情は国も把握している。
そのおかげで、俺達がどういった経緯で魚人族と鳥人族との交渉を成立させたのかを、さらっと報告するだけで済んだ。
「護衛の皆もよくやってくれた。報酬は奮発したから楽しみにしておけ! もちろん、交渉役だったレイモンドは特に期待していいぞ!」
すると、レンツとレベッカがハイタッチして喜び、オリバーとクラウディアがお礼を言う。俺も二人に続いた。アドルフは……欠伸をしている。興味が無さそうだ。
「それにしても、レイモンドお前……」
「何だ?」
「パーヴェルからテレパスが来た時にも言ったけどさー……俺、お前が優秀過ぎて、超びっくりしてるんだけど。魚人族の予言はともかく、神獣様に気に入られるわ、鳥人族丸ごと心酔させるわ……この任務は間違いなく、お前がいなかったらどっかで躓いていただろうな。本当によくやってくれたよ」
「いや、俺は大したことはしてない。労いの言葉なら、俺を護衛してくれたアドルフ達に言ってやってくれ」
「いやいや。もちろんアドルフ達のことはちゃんと労うつもりだけど、レイモンドがやり遂げたことは、お前にしかできなかった任務なんだ。その分、アドルフ達よりもお前を労うのは当然だろ?」
「それは俺というか……俺のスキルと、加護があったおかげだと思う。アドルフ達に助けられて、スキルと加護に助けられて、ようやく成功したんだぞ? 俺にしかできなかった任務とは言えない」
「…………むー」
先程までご機嫌だったアルベルトが、何故か不満そうにしている。
「謙遜は美徳とも言えるけど、お前のそれはちょっとやり過ぎだな」
「え?」
「一国の王として、責任を持って言わせてもらう。今さっき俺が言ったのは、お前に対する正当な評価だ! もっと素直に受け取れよ!」
「……正当な評価? 素直に、受け取る……?」
「あっ、駄目だこいつ。本気で分かってない!」
人をポンコツのように扱った彼は、そのまま両手で頭を抱えた。何だ? 俺は馬鹿にされているのか?
「あのー……獣王様?」
「どうした? レベッカ」
「今のレイモンドの状態なんですけど、諜報部隊の者としては、原因についてなんとなく予想がつくので……えっと、その予想で良ければ、聞きますかニャ?」
「聞かせてくれ」
「了解ですニャ。……えっとですね、とりあえずレイモンドが元いた職場が、本当にクソみたいな場所だったということを念頭に――」
そんな言葉から始まったレベッカの話を聞いて、俺はようやく、自分の中の価値観がいつの間にか歪んでいたことに気がついた。
レベッカ曰く、クソみたいな職場……元ルベル王国の王城では、出る杭は打たれるというのが当たり前だった。
そんな職場で、上司から出る杭として打たれまくり、さらに同僚や部下達のやっかみのせいで足を引っ張られた俺は……そのうち、周囲からの心無い言葉の数々が、自分の正当な評価だと思い込むようになってしまったようだ。
加えて俺は、自分がエクレール教の信者では無いことを周囲に悟られないようにしようと、神経を使い過ぎていた。そんな精神的疲労も、原因の一つだったかもしれない。
最初は目立たないようにするために、謙遜していたつもりが……やがてそれが癖になり、誰かに褒められると反射的に謙遜するようになってしまった。
どんなに褒められても、それが正当な評価であると、素直に思えなくなってしまった。
「……心当たりしか、無い」
今度は俺が両手で頭を抱えた。まさか、ルベル王国というブラック企業に勤めていた弊害が、こんな形で現れるとは……
アルベルトから、同情の視線を向けられた。そうだな。俺と同じく、日本で生きていた前世があるあんたなら、俺の気持ちが分かるよな。
気がつかないうちに社畜根性が染み付いて、それから抜け出せなくなってしまった、俺の複雑な心境が。
前世はホワイト企業にいたのに、転生先でブラック企業の社畜になってた俺って……もう、何なんだろう……
「がるる……! イルミナルで大暴れした時に、レイの元上司と同僚と部下を探し出して、直接殺してやればよかった!」
「俺もそう思った」
「うむ」
「ライトアローで蜂の巣にしたかったわ」
「あの時は余裕が無かったからできなかったけど、僕も奴らを探し出して、爪で八つ裂きにしてやりたかった……!」
「もし俺も参加できてたら、獣化した上で頭丸かじりにしてやったのに。王様の仕事って、融通が利かなくて困っちゃうなぁ、はっはっは」
獣人達の殺意の高さに驚いた。特に、歯を剥き出しにして唸るアドルフと、棒読みで笑いながらも、表情が抜け落ちているアルベルトが怖い。言ってることも怖い。
「レイモンド!」
「は、はい!」
「お前は本当に優秀なんだぞ!」
「はい?」
「そうだな、自信を持っていい。レイは俺とアルが認める程の凄い奴だ」
「えっ?」
すると、表情を元に戻したアルベルトは、豪華な椅子から立ち上がり、ソファーに座っていた俺の後ろに回って、両肩を掴む。
さらに、隣に座っていたアドルフには頭を撫でられた。……何か始まったぞ。
「どれだけ凄いのかと言うと……魚人族との交渉を成立させるだけでなく、予言の巫女に友人だと認められた!」
「これは俺もそうだが、神獣に気に入られて祝福まで授かった!」
「スキルを使って、魔物と仲良くなって、誰も発見できなかった鳥人族の村を見つけ出して!」
「不治の病の原因を見抜き、それをただ教えるのではなく、交渉のために上手く利用した!」
「さらには医者でもないのに、自分の時間を削ってまで、朝から晩まで患者一人ひとりに寄り添って!」
「鳥人族の心をがっちり掴んで、あっさりと交渉を成立させた! それをこんな短期間で終わらせるなんて、本当に凄いんだぜ! お前にしかできなかったことなんだ!」
「そうだそうだ!」
「――あぁ、もういい! 分かったから口を閉じろ!」
ついに耐えられず、両耳を手で塞いで叫んだ。何が始まるかと思ったら褒め殺しかよ!
それにこいつら、褒めることで俺をからかって遊んでたんだ! このクソ犬とクソ猫め、ニヤニヤするな!
「ははははっ! これに懲りたら、次からは正当な評価を素直に受けとれよ!」
「お前、顔真っ赤だし、実は褒め殺しに弱いんだろ? じゃあ、また変に謙遜した時は褒め殺しの刑な」
「なっ、何だと?」
「お前らも分かったな? 他の団員にもこの話を伝えとけ。こいつの弱点は褒め殺しだから、レイが謙遜し過ぎるようなら、褒めて褒めて褒めまくって、こいつの価値観を修正してやれって」
「了解……」
「諜報部隊に掛かれば、すぐに広まるのニャ!」
生真面目に頷くオリバーと、元気に敬礼するレベッカ。黙ってニヤニヤ笑っている、レンツとクラウディア。……早々に諦めるしかなかった。
きっとオリソンテに帰る頃には、第一旅団全体に周知されているだろう。褒め殺しを回避するためにも、発言には気をつけなければ。
「……あ、そうだ。もう一つ言っておく。お前が持つスキルも加護もギフトも、補助魔法も交渉能力も、いつの間にか周りに慕われているという性質や、その他諸々――全部引っ括めてレイモンド自身の力で、強みだからな。それをちゃんと理解しとけ」
「俺の、力?」
「あぁ。それが全部自分の力だと、普段からそう考えろ。……そうすれば、多少は自尊心も回復するだろ」
本人は何でもないように言っていたが、褒め殺しにされるよりも、アドルフの言葉の方が心に刺さった気がする。……仲間達皆に褒められるよりも、唯一の心友に肯定されることの方が嬉しい。
(全部引っ括めて、俺自身の力……か)
今までスキルも加護もギフトも、自分の力だと意識することはなかった。
スキルを持っていることは、あの教祖に言われるまで知らなかったし、加護とギフトは神から与えられた物であって、俺の力とは言い切れなかった。
だが、他でもないアドルフが、俺の力だと認めてくれる。……それなら、俺自身もそう思って良いかもしれない。
「アドルフ」
「ん?」
「――ありがとう」
「……んん? 何のお礼だ?」
「さぁな」
その理由は、俺だけが知っていればいい。
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