78 / 129
獣王国ヴァイス編
次の目的地へ
しおりを挟む魚人族との交渉を終えて、ヒュドールに戻って来た。
次の目的地は、カルム森林の先にあるアネモス山。今日はもう日が暮れているから行動はできないが、明日以降にプラシノスへ向かわなければ。
だが、その前に。領主の館に行って、パーヴェルに交渉が成立したことを報告しよう。……交渉と言える程のものでは無かったがな。あちらが予知能力で、事情を理解してくれたおかげだ。
「かなり早くに戻って来たので、交渉が失敗して追い出されたのかと思ってましたけど……まさか、そんなことがあったなんて……」
「あぁ。俺達も、こんなに早くに戻れるとは思って無かった」
なぁ? と、護衛隊の皆に視線で同意を求める。全員が深く頷いた。
現在。俺達は港からさっそく領主の館へ向かい、パーヴェルと面会している。
レヴィアタンと出会ったことや、ラルゴ島での出来事を報告すると、最初は目を白黒させていた彼も、次第に驚くことに疲れたらしい。最後は苦笑いを浮かべていた。
昨日の流れを説明すると、俺達がいかに珍しい体験をしたのかがよく分かる。
神獣と出会い、未来予知をする巫女様とも出会い、交渉はあっさり解決し、最後には俺とアドルフが神獣から祝福を授かった。
前世のドラマや映画、アニメのような怒涛の展開だ。……まぁ、それを言ったらルベル王国で生まれ、獣王軍に所属するまでの俺の人生も似たようなものか。
「これからテレパスで、獣王様に報告する予定ですけど……驚きますよ、絶対」
「全くだ。あいつの驚いた顔が目に浮かぶ。レイがいたからこうなったんだろうな」
「俺か?」
「お前だよ! あの神獣と魚人族は何も言わなかったがな、おそらく例のスキルも関係しているはず」
アドルフに言われて思い出した。境界を越える親愛か。
あまりにもスムーズに事が進んだものだから、つい忘れていた。人間以外の種族に強い好意を寄せられるという、あのスキルの効果を。
「いや、しかし。魚人族はともかく、神獣様にまでその効果が及ぶのか?」
「そこは、ほら。獣神様の加護」
「あ、そっちか」
「……まぁ、俺の勘だが。加護よりもスキルの影響の方が強いと思うぜ」
「それだと神よりも、俺の方が神獣に影響を与えているかのように聞こえるぞ。無いだろ」
「お前ならあり得る」
「いやいや」
アドルフは俺を買い被り過ぎだ。さすがにそれは無い。
「僕も副団長に賛成だニャ!」
「そうねぇ……副団長もそうだけど、普通は出会ってたった一日で祝福まで授かるなんて、あり得ないわ」
「異種族たらしのレイモンドなら、神獣様だって虜にしちゃいそうだよな。あの巫女様も落とされてたし?」
「……うむ」
「あんた達までそんなことを……」
俺を何だと思ってるんだ。何処からどう見てもただの人間だぞ? 取るに足りない小さな存在だぞ?
確かに俺は普通の人間とは違って、転生者だしスキル持ってるし加護持ってるし祝福授かっちゃったけど。
「あ、あのぉ……とりあえず獣王様に報告してもいいですか?」
「おう、そうだったな。頼む」
一旦その話題は取り下げて、パーヴェルからアルベルトへ報告してもらった。
「……えーっと。獣王様より、お言葉があります。『レイモンド。お前が優秀過ぎて、俺は今非常に困惑している』……とのことです」
「それはお前だけじゃないぜ、アル……」
「俺達、こんなに簡単な護衛任務で本当にいいのかなぁって思ってまーす!」
「以下同文ですニャ!」
上からパーヴェル、アドルフ、レンツ、レベッカの言である。そして、同意するように何度も頷くクラウディアとオリバー。……疎外感を感じて、ちょっと悲しくなった。
*****
それから二日後。少しの休息と旅の準備を済ませた俺達六人は、ヒュドールから出発した。
元ルベル王国の領地では人間が多く、獣化して堂々と走り抜けることはできそうにないため、幌馬車を借りて目的地を目指すことになる。
索敵については、アドルフ達が魔物や盗賊が接近する前に察知してくれるから、問題ない。それから、馬車の操縦は交代制となったのだが……
「すまない。俺は今まで、馬車を操縦した経験が一度もないんだ」
「……そういや、お前って元は貴族のお坊ちゃんだったな。忘れてた」
何事も経験、というわけで。俺は最初にアドルフと共に御者台に乗り、馬車の操縦方法を教えてもらうことになった。残りの四人は馬車の中から俺達の様子を見ている。
アドルフが馬二頭の手綱を握り、馬車を走らせる。その様子を見ながら、口頭でコツを学んだ。
「そろそろ、お前もやってみるか?」
しばらく道を走り続けたところで、アドルフがそう言った。それに頷いて御者役を交代する。今度は実際に操縦しながら、アドルフの助言を聞いて調整していく。
だが、助言をしてくれたのはアドルフだけではなかった。馬車を引いている馬達が、話し掛けてきたのだ。
『ここの道は注意!』とか『もう少し力抜いてー』とか。そして上達すると『上手!』『その調子!』とか言ってくるから、こっちはとてもやり易かった。
「初めてにしては、上達が早いじゃねぇか。これなら充分だろ」
「お前と馬達が教えてくれたからな」
「はっ? 馬?」
「さっきからいろいろ教えてくれてたんだよ、この子達が」
「……道理でやけに鳴いてたわけだ。良い先生達がいて良かったなぁ、レイモンド君? 俺達先生様に感謝しろよ?」
「おう。ありがとな、アドルフ先生。馬先生方もありがとうございました」
お礼を言うと、馬達が嬉しそうに鳴いた。尻尾が振られ、足取りも軽やかになっている。……アドルフは何故か、静かになっていたが。
「……冗談のつもりだったのに」
「アドルフ?」
「何も言ってねぇよ!」
「はぁ?」
何で逆ギレされたんだ? それに、レンツ達も何故後ろで笑いを堪えている?
「くく、ふふ……! アドルフ、先生……!」
「やっぱ、こいつら面白い……ぶふっ!」
「おい、笑うな!」
「先生様の顔っ! か、お……っにゃはは……!」
「ふっ……赤い、な」
「てめぇら全員、後で覚えてろぉっ!」
よく分からんが、レンツ達が楽しそうで何よりだな。
と、このように。馬車旅を楽しんだり、たまにやってくる魔物や盗賊を蹴散らしたりしながら進むこと、数日。その日の朝に、ようやくプラシノスに到着した。
馬車から降りて、カルロスと会うために領主の館へ向かう途中。寄ってくる小動物達に挨拶しながら周りを見ると……以前来た時よりも、人間と獣人の距離が近い気がする。どうやら、彼らの関係が改善しつつあるらしい。
やがて、領主の館の前に到着した。門番は以前と同じく、あの双子の兄弟だった。
「おっ?」
「来た来た。アドルフの兄貴、カルロスさんから話は聞いてます!」
「どうぞ、中に! ……と、その前に」
ヘンリーとジョニーは俺に近づき、匂いを嗅いでいる。な、何だ?
「……本当だ。ユートさんの匂い!」
「カルロスさんから聞いてはいたけど、本当に見た目が全然違う!」
「ユートさん、じゃなくて名前何だっけ? 確かレ……レ、なんとか」
「……えっと、俺はレイモンドだが」
「そう、それ! レイモンドさん!」
「レイモンドさん!」
「お、おう」
「この間は生意気言ってすみませんでした!」
「ごめんなさい!」
俺とユートが同一人物であることを確かめた二人は、勢いよく頭を下げた。綺麗な直角だ。……で、何故謝罪された?
「オレ達はあの日、人間だからっていう理由だけで暴言吐いて……本当に、悪かったと思ってる」
「レイモンドさんの補助魔法のおかげで助かったし、あの後人間の兵士達から聞いたけど、あいつらに戦えって発破をかけたのも、あんたなんだろ?」
「そのおかげで、人間達のこと見直した!」
「アドルフの兄貴もカルロスさんも、あんたには一目置いてるみたいだし……オレ達、あんたがすげぇ人なんだって分かったんだ」
「だから、すみませんでした!」
「失礼な態度取ってごめんなさい!」
なるほど、それで謝罪か。とりあえず、謝罪を受け取って頭を上げさせた。
「俺自身は別に大した人間じゃない。俺よりも、自分達でちゃんと考えて、謝罪しようと決めて、それを実行したヘンリーとジョニーの方が凄いのさ。あんた達は、胸を張っていいと思う」
そう言うと彼らは顔を見合わせて、次に緑目を輝かせて俺を見つめる。……おや?
「「――兄貴と呼ばせてください!」」
「いや、何でだよ」
0
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
※2026年半ば過ぎ完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる