獣王国の外交官~獣人族に救われた俺は、狂狼の異名を持つ最強の相棒と共に、人間至上主義に喧嘩を売る!~

新橋 薫

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獣王国ヴァイス編

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 魚人族との交渉を終えて、ヒュドールに戻って来た。

 次の目的地は、カルム森林の先にあるアネモス山。今日はもう日が暮れているから行動はできないが、明日以降にプラシノスへ向かわなければ。

 だが、その前に。領主の館に行って、パーヴェルに交渉が成立したことを報告しよう。……交渉と言える程のものでは無かったがな。あちらが予知能力で、事情を理解してくれたおかげだ。


「かなり早くに戻って来たので、交渉が失敗して追い出されたのかと思ってましたけど……まさか、そんなことがあったなんて……」
「あぁ。俺達も、こんなに早くに戻れるとは思って無かった」


 なぁ? と、護衛隊の皆に視線で同意を求める。全員が深く頷いた。


 現在。俺達は港からさっそく領主の館へ向かい、パーヴェルと面会している。
 レヴィアタンと出会ったことや、ラルゴ島での出来事を報告すると、最初は目を白黒させていた彼も、次第に驚くことに疲れたらしい。最後は苦笑いを浮かべていた。

 昨日の流れを説明すると、俺達がいかに珍しい体験をしたのかがよく分かる。
 神獣と出会い、未来予知をする巫女様とも出会い、交渉はあっさり解決し、最後には俺とアドルフが神獣から祝福を授かった。

 前世のドラマや映画、アニメのような怒涛の展開だ。……まぁ、それを言ったらルベル王国で生まれ、獣王軍に所属するまでの俺の人生も似たようなものか。


「これからテレパスで、獣王様に報告する予定ですけど……驚きますよ、絶対」
「全くだ。あいつの驚いた顔が目に浮かぶ。レイがいたからこうなったんだろうな」
「俺か?」
「お前だよ! あの神獣と魚人族は何も言わなかったがな、おそらく例のスキルも関係しているはず」


 アドルフに言われて思い出した。境界を越えるクロスオーバー・親愛ディアか。
 あまりにもスムーズに事が進んだものだから、つい忘れていた。人間以外の種族に強い好意を寄せられるという、あのスキルの効果を。


「いや、しかし。魚人族はともかく、神獣様にまでその効果が及ぶのか?」
「そこは、ほら。獣神様の加護」
「あ、そっちか」
「……まぁ、俺の勘だが。加護よりもスキルの影響の方が強いと思うぜ」
「それだと神よりも、俺の方が神獣に影響を与えているかのように聞こえるぞ。無いだろ」
「お前ならあり得る」
「いやいや」


 アドルフは俺を買い被り過ぎだ。さすがにそれは無い。


「僕も副団長に賛成だニャ!」
「そうねぇ……副団長もそうだけど、普通は出会ってたった一日で祝福まで授かるなんて、あり得ないわ」
「異種族たらしのレイモンドなら、神獣様だって虜にしちゃいそうだよな。あの巫女様も落とされてたし?」
「……うむ」
「あんた達までそんなことを……」


 俺を何だと思ってるんだ。何処からどう見てもただの人間だぞ? 取るに足りない小さな存在だぞ?
 確かに俺は普通の人間とは違って、転生者だしスキル持ってるし加護持ってるし祝福授かっちゃったけど。


「あ、あのぉ……とりあえず獣王様に報告してもいいですか?」
「おう、そうだったな。頼む」


 一旦その話題は取り下げて、パーヴェルからアルベルトへ報告してもらった。


「……えーっと。獣王様より、お言葉があります。『レイモンド。お前が優秀過ぎて、俺は今非常に困惑している』……とのことです」
「それはお前だけじゃないぜ、アル……」
「俺達、こんなに簡単な護衛任務で本当にいいのかなぁって思ってまーす!」
「以下同文ですニャ!」


 上からパーヴェル、アドルフ、レンツ、レベッカの言である。そして、同意するように何度も頷くクラウディアとオリバー。……疎外感を感じて、ちょっと悲しくなった。




*****




 それから二日後。少しの休息と旅の準備を済ませた俺達六人は、ヒュドールから出発した。

 元ルベル王国の領地では人間が多く、獣化して堂々と走り抜けることはできそうにないため、幌馬車を借りて目的地を目指すことになる。

 索敵については、アドルフ達が魔物や盗賊が接近する前に察知してくれるから、問題ない。それから、馬車の操縦は交代制となったのだが……


「すまない。俺は今まで、馬車を操縦した経験が一度もないんだ」
「……そういや、お前って元は貴族のお坊ちゃんだったな。忘れてた」


 何事も経験、というわけで。俺は最初にアドルフと共に御者台に乗り、馬車の操縦方法を教えてもらうことになった。残りの四人は馬車の中から俺達の様子を見ている。

 アドルフが馬二頭の手綱を握り、馬車を走らせる。その様子を見ながら、口頭でコツを学んだ。


「そろそろ、お前もやってみるか?」


 しばらく道を走り続けたところで、アドルフがそう言った。それに頷いて御者役を交代する。今度は実際に操縦しながら、アドルフの助言を聞いて調整していく。

 だが、助言をしてくれたのはアドルフだけではなかった。馬車を引いている馬達が、話し掛けてきたのだ。
 『ここの道は注意!』とか『もう少し力抜いてー』とか。そして上達すると『上手!』『その調子!』とか言ってくるから、こっちはとてもやり易かった。


「初めてにしては、上達が早いじゃねぇか。これなら充分だろ」
「お前と馬達が教えてくれたからな」
「はっ? 馬?」
「さっきからいろいろ教えてくれてたんだよ、この子達が」
「……道理でやけに鳴いてたわけだ。良い先生達がいて良かったなぁ、レイモンド君? 俺達先生様に感謝しろよ?」
「おう。ありがとな、アドルフ先生。馬先生方もありがとうございました」


 お礼を言うと、馬達が嬉しそうに鳴いた。尻尾が振られ、足取りも軽やかになっている。……アドルフは何故か、静かになっていたが。


「……冗談のつもりだったのに」
「アドルフ?」
「何も言ってねぇよ!」
「はぁ?」


 何で逆ギレされたんだ? それに、レンツ達も何故後ろで笑いを堪えている?


「くく、ふふ……! アドルフ、先生……!」
「やっぱ、こいつら面白い……ぶふっ!」
「おい、笑うな!」
「先生様の顔っ! か、お……っにゃはは……!」
「ふっ……赤い、な」
「てめぇら全員、後で覚えてろぉっ!」


 よく分からんが、レンツ達が楽しそうで何よりだな。


 と、このように。馬車旅を楽しんだり、たまにやってくる魔物や盗賊を蹴散らしたりしながら進むこと、数日。その日の朝に、ようやくプラシノスに到着した。

 馬車から降りて、カルロスと会うために領主の館へ向かう途中。寄ってくる小動物達に挨拶しながら周りを見ると……以前来た時よりも、人間と獣人の距離が近い気がする。どうやら、彼らの関係が改善しつつあるらしい。

 やがて、領主の館の前に到着した。門番は以前と同じく、あの双子の兄弟だった。


「おっ?」
「来た来た。アドルフの兄貴、カルロスさんから話は聞いてます!」
「どうぞ、中に! ……と、その前に」


 ヘンリーとジョニーは俺に近づき、匂いを嗅いでいる。な、何だ?


「……本当だ。ユートさんの匂い!」
「カルロスさんから聞いてはいたけど、本当に見た目が全然違う!」
「ユートさん、じゃなくて名前何だっけ? 確かレ……レ、なんとか」
「……えっと、俺はレイモンドだが」
「そう、それ! レイモンドさん!」
「レイモンドさん!」
「お、おう」
「この間は生意気言ってすみませんでした!」
「ごめんなさい!」


 俺とユートが同一人物であることを確かめた二人は、勢いよく頭を下げた。綺麗な直角だ。……で、何故謝罪された?


「オレ達はあの日、人間だからっていう理由だけで暴言吐いて……本当に、悪かったと思ってる」
「レイモンドさんの補助魔法のおかげで助かったし、あの後人間の兵士達から聞いたけど、あいつらに戦えって発破をかけたのも、あんたなんだろ?」
「そのおかげで、人間達のこと見直した!」
「アドルフの兄貴もカルロスさんも、あんたには一目置いてるみたいだし……オレ達、あんたがすげぇ人なんだって分かったんだ」
「だから、すみませんでした!」
「失礼な態度取ってごめんなさい!」


 なるほど、それで謝罪か。とりあえず、謝罪を受け取って頭を上げさせた。


「俺自身は別に大した人間じゃない。俺よりも、自分達でちゃんと考えて、謝罪しようと決めて、それを実行したヘンリーとジョニーの方が凄いのさ。あんた達は、胸を張っていいと思う」


 そう言うと彼らは顔を見合わせて、次に緑目を輝かせて俺を見つめる。……おや?


「「――兄貴と呼ばせてください!」」
「いや、何でだよ」



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