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獣王国ヴァイス編
魚人族との交渉~イージーモード~
しおりを挟む「俺達がラルゴ島に来ることを、予知能力で知ったのであれば……巫女様は、俺達の目的もご存知なのか?」
「それは、これから本人に聞けばいい。……二人分の足音が、ここに近づいて来るぞ。片方があの爺の足音だから、おそらくもう片方が巫女様とやらの足音だろう」
と、アドルフが言った。……えっ? いや、待て待てそこの狼、お前……!
「お前もアルみたいに、足音だけで誰か判別できるのかよ! まさか、レンツ達も――」
「いやいやいや! 俺達を副団長達と一緒にしないで!」
「そうよ、レイモンド君。獣人族は離れた場所の物音は聞こえるし、気配も感じ取れるけど、普通はそれで個人を聞き分けるなんて、無理があるわ」
やっぱり、そうだよな。レンツとクラウディアの言う通り、それが普通だよな! 覚えておこう。アドルフとアルベルトが異常なんだ、うん。
そこへ、ドランと共に一人の魚人がやってきた。
ドランやソランよりも小柄で、肌の色も袖のない服の色も白い、真っ白な魚人だった。
頭には角のような物が二本生えており、腕にはヒラヒラとした物がついている。前世のクリオネの部位で言う、翼足の部分だろう。
「初めまして、獣王国の皆様。わたしは魚人族の巫女、クリオネ族のシエルです。……あなた方の来訪を、心待ちにしておりました」
その可憐な声を聞いたことで、シエルが女性であることが分かった。彼女の名乗りに対して、俺達も自己紹介を行う。
それから、既に予知能力で知っているかもしれないが、念のために俺達がここにやって来た理由を説明した。彼女達は皆、黙って俺の話を聞いている。
「――ということで、我々は戦力確保のためにここにやって来ました。もちろん、無償で協力して欲しいとは言いません。できる限り、魚人族の皆様の要望にお応えいたします。そして我々は、戦上では共に戦うと同時に、あなた方のことを全力でお守りします。ですからどうか、我々に力を貸していただきたい。……お願いいたします」
そう言って、俺は頭を下げた。俺に合わせて、アドルフ達護衛隊の皆も頭を下げる。
「はい。いいですよ」
「そうですよね。やはりそう簡単には――ん?」
「ドラン。いいですよね?」
「はい! もちろんです。……魚人族は、獣人族と共に戦うことを約束する。これは我々の総意じゃ」
いや、えっ? ……あれ?
「本当、ですか? 我々と共に、戦ってくれると?」
「はい。……実は、皆様がいらっしゃる数日前に、既に結論が出ていたのです。魚人族の中で戦える者達は皆、その時がくれば獣人族と共に戦うと」
「何故?」
「――巫女様から『金の人間が銀の狼とその仲間を従え、この地にやって来る。いずれ訪れる災いに対抗するために、まずは彼らと共に戦うことを約束しなさい。我々が生き延びるための鍵は、彼らの手の中にあります』という予言が下ったからじゃ」
と、ドランが言う。……魚人族は皆、クリオネ族の予言によって今まで助けられてきた。今回もそれを信じて、俺達に協力することを決めたという。
「ですが、我々のことを疑わないのですか? もしかしたら、その予言の人物と我々は別人かもしれないのに……」
「それについては心配ありません。わたしは未来予知によって、レイモンド様とアドルフ様の顔を見ました。少なくとも、お二人は別人ではありません。それに、あなた方は獣神デファンス様の加護をお持ちでしょう?」
「……何故、それを?」
「未来をこの目で見た時に、それを知ったのです。エクレール神以外の神の加護をお持ちの方は、それだけでも信用に値します」
エクレール神が除外された。……まぁ、そうだよな。あれを崇める宗教は、人間以外を差別するものだし。
そして、俺とアドルフが獣神様の加護を持っていることは、獣人族の中でも一部の者しか知らない。レヴィアタンとの一件で、俺達が加護を持っていることを知った者達には、しっかり口止めをしている。
よって、シエルがこのことを事前に知るのは、本来なら不可能のはずだ。ということは……彼女の予知能力は、本物なのだろう。
「レヴィ様にはお会いしましたか?」
「レヴィ様……?」
「神獣である、レヴィアタン様のことです。大変恐れ多いことに、以前あの方からそう呼ぶことを許すと言われました」
へぇ。シエルとレヴィアタンは、それほど親しい仲なのか。
「あの方とクリオネ族のご先祖様は、とても仲の良い友人同士だったらしく、そのよしみでわたし達のことを守って下さるのです。……レヴィ様に今回の予言と、あなた方が獣神様の加護を持つ方々であることを伝えたら、島へ入る前に自分が見定めるとおっしゃって……あなた方がこの島にやって来たということは、レヴィ様の許可が下りたのでは?」
「えぇ。その通りです。海で神獣様と出会い、『ここを通ることを許す』というお言葉をいただきました」
あの時、レヴィアタンが『目的の交渉が失敗に終わることは無い』と言ったのは、これが理由だったんだな。
「それでしたら、尚更わたし達に否やはありません。獣神様の加護を持ち、この島の守り神であるレヴィアタン様に認められた方々……わたし達は喜んで、あなた方と共に戦います」
「……ありがとうございます。魚人族の皆様に、心からの敬意と感謝を」
俺と護衛隊の面々は、彼らに向けて再び頭を下げた。
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