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獣王国ヴァイス編
外交官VS近衛旅団団長
しおりを挟むヴェーラ達やジーナ、フィデルにも反対されたが、それを押し切って模擬戦を行うことになった。
俺とリアムがどうしても譲らなかったせいか、獣王様……じゃない。アルベルトが折れて、俺が立会人になる、と言った。
「勝利条件は相手に『参った』と言わせること。殺傷は無し! それから、レイモンドはギフトの使用禁止。リアムはスキルの使用禁止!」
「リアムさんはスキルを持っているんですか?」
「……効果は聞くな」
「聞きませんよ」
リアムが険しい表情を見せた。……別に、無理やり聞き出そうとか思ってないから、そんな顔をしないでくれ。
どうも調子が狂うというか、ぶっちゃけ面倒臭いなぁ、この熊。ずっとピリピリしていて、接しづらい。そんなに気を張っていたら、疲れるんじゃないか?
すると、アルベルトが俺を見て口を開く。
「そういえばお前、剣は使えるのか?」
「いや。そっちの才能は無い。俺が戦闘で使えるのは、補助魔法と体術だけだ」
「そうか。じゃあ、リアムも武器無しで――」
「それは駄目だ。今からやるのは模擬戦だからな。実戦を想定した一騎討ちでなければ、リアムさんも納得してくれないだろう。スキルの使用禁止だけで充分だ。……そうですよね?」
「……何なら、貴様のギフトも俺のスキルも、使用可能な状態でやってやろうか?」
「それも駄目です。俺達がやるのは一騎討ちですよ? ギフトを使ったら、俺はアドルフと能力を共有することになる。それだと実質、二対一になってしまう。それに、いいんですか? 模擬戦ごときでスキルを使い、俺に自分の手の内を明かしてしまっても。……あんた、それを分かっていながら聞いていますよね?」
「……ちっ!」
えっ、舌打ち? 俺は何もしてないんですけど? 全く、扱いにくい熊だな。
その後。俺達は全員で、王城の外にある訓練場へ向かうことにした。普段、近衛兵達や一般の兵士達が、訓練のために使っている場所だという。
訓練場へ向かう途中、俺はちらりとアドルフを見た。……先程から黙ったままだ。彼は最初に反対しただけで、あとは俺を止めようとしなかった。
説得の手間が省けて助かったが、今のアドルフは何を考えているのだろう?
訓練場に到着すると、兵士達がそれぞれ素振りなどの訓練を行っていた。彼らは俺達を見てぎょっとしている。それから、慌てて跪いた。……あぁ、アルベルトがいるからか。
「あ、いいよ。楽にしてくれ。それと、ちょっと場所を空けてもらってもいいか?」
「は、はっ! ……あの、これから何を?」
「レイモンドとリアムが模擬戦をやるんだよ」
「えっ?」
「近衛団長が、人間と?」
兵士達が、ざわざわと騒ぎ出す。無謀だとか瞬殺だとか……いろいろと声が聞こえてきた。分かってはいたが、嘗められているな。ちょっとムカついた。
彼らは訓練場の端に移動したが、立ち去ろうとはしない。見物するつもりのようだ。
「……おい、人間」
「何ですか?」
「貴様、自分に補助魔法は使わないのか?」
「ついさっき、使いましたよ」
「……ならいい」
「もしや、心配してくれたんですか?」
「ほざけ。誰が心配などするか」
「それは残念です」
そんな会話をした後に、リアムと共に訓練場の中心に向かう。……やれやれ、冗談も通じないのか。堅物め。
それから、訓練場の中心でリアムと向かい合った。俺は柔道の構えを取り、リアムは兵士の一人から借りた大剣を構える。
この大剣は、国から一般の兵士に支給される、ごく普通の大剣だ。
アルベルトが俺とリアムの間に立ち、俺を見て首を傾げた。……すると次の瞬間、カッと目を見開く。
「その構えは――!」
「……どうした? アル。何か気になることでも?」
「なっ……! あの人間、獣王陛下になんて口を!」
「無礼な!」
「あぁ、気にすんな! 俺がレイモンドにそうしろって言ったんだ」
「し、しかし――」
「いいから」
俺がアルベルトに生意気な口を利いたことに、兵士達が腹を立てた。そんな彼らを宥めた後、アルベルトは首を横に振る。
「えーっと、ごめん。何でもない。水を差して悪かったな」
「いや……構わない」
勘付かれた、か? 俺の構えを見て、前世の柔道と結び付けたのかもしれない。まぁ、それならそれで、後々何らかの反応を見せてくれるだろう。
「じゃあ、さっそく始めるか! さっきも言ったように、勝利条件は相手に『参った』と言わせること。殺傷は無し。レイモンドはギフトの使用禁止。リアムはスキルの使用禁止。……二人共、準備はいいか?」
「……あぁ」
「いつでもいいぞ」
「よーし。――始め!」
アルベルトの合図と共に、俺はリアムに迫った。いきなり接近して来るとは思わなかったのか、彼は目を見開く。
しかしすぐに立ち直り、大剣を水平にして大きく振った。
俺は大剣の下にスライディングし、身を反らせてそれを避ける。その時、リアムの体に手を伸ばした。
「――っ、何!」
俺がリアムの体に触れた瞬間、彼の動きが鈍くなった。補助魔法によるデバフだ。今回は、身体能力を全体的に下げる魔法を使った。
部分的にやるよりも効果は下がるが、相手を少しでも動揺させることができれば、それで充分だ。
スライディングした状態から身を翻し、再びリアムに接近した。拳を握り、狙った場所は……相手の顎だ。
彼の意識を一瞬飛ばして、その隙に組み敷く……それが、俺の考えだった。長期戦になれば、主に体力面で不利になるだろう。そうなる前に、けりを付ける!
しかし。やはりと言うべきか、相手は甘くなかった。
「はぁっ!」
「ぐっ……!」
「レイ!」
「レイモンド!」
リアムは俺の拳を片手で受け止め、もう片方の手で大剣を振る。大剣の横腹が、俺の脇腹に命中した。俺はその勢いのまま飛ばされてしまい、地面を転がる。アドルフ達の悲鳴が聞こえた。
すぐに体勢を立て直し、立ち上がって追撃に備えようとしたが……予想に反して、追撃は来なかった。リアムはその場を動かず、大剣を構えながら俺を見据えている。
「かなり力を入れて剣を振ったつもりだったが……意外にも頑丈だな、人間」
「……それは、どうも」
頑丈だって? そんなわけあるか。今も脇腹が痛くて泣きそうだぞ、この野郎。さりげなく脇腹に補助魔法を使い、痛みを軽減させた。
補助魔法は自分に使うと効果が弱まるから、気休め程度だけどな。
「……貴様のことを、見くびっていたようだ」
「え?」
「先程の一撃で仕留められなかったことを、後悔するがいい。俺は今から貴様を、一人の敵として認める」
瞬間。リアムの纏う空気が一変した。その威圧感に、鳥肌が立つ。……怖じ気付いてしまいそうだ。しかし、今の俺には負けられない理由がある。
こんな俺でも第一旅団の一員なのだと、絶対に認めさせてやる! 俺は、ただ守られるだけの男じゃない。俺だって、アドルフ達と共に戦えるんだ!
「――行くぞ!」
そう気を引き締めた時。覇気のある声と共に地を蹴ったリアムが、俺に肉薄して来た!
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