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獣王国ヴァイス編

鑑定魔法~スキル編~

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 ぼそっと、転生者らしい物言いをした獣王様が、さっそく口火を切った。


「じゃあまずは、レイモンドのスキルの鑑定からやるか。スキル名は境界を越えるクロスオーバー・親愛ディアだったか?」
「はい。……ジーナさん、よろしくお願いします」
「あぁ。そのままじっとしてな」


 ジーナが杖を軽く振り、術式を展開した。鑑定魔法の術式は、本の中でしか見たことがなかったが、実物はそれよりも複雑に見える。昔、シャノンに聞いた通りだ。

 術式を展開した時、それは使用者の前方に現れる。前世にあったルーン文字……あれが空中に浮かび、渦のように広がる半透明の紋様を作り出すのだ。
 難度の高い魔法は、それに比例して紋様も複雑になっていく。

 時空魔法ほどではないが、鑑定魔法の術式も複雑だ。当然、そのコントロールも難しくなる。術式の書き換えは、慎重にやらなければいけない。

 杖が動き、術式が書き換えられる。……慣れているのか、杖の動きに迷いは見られなかった。術式の書き換えは、俺の予想よりも早くに終わり、詠唱が始まる。


「不変の真理よ、彼の者のスキルの全てを、我に明かしたまえ――スキル・アプレイズ」


 魔法が発動され、弱い光が俺の体を包む。……やがて、その光が消えた。ジーナが口を開く。


「フィデル。何か書く物を――」
「既に準備しました」
「相変わらず仕事が早いね」


 彼女は用意された紙とペンを使い、スキルの詳細を書く。……内容はかなり長いらしい。書き終わるのに時間が掛かった。


「……書けたよ。内容は大体が報告で聞いていた通りだったが、それ以上に詳しいことが分かった」
「ありがとうございます」


 ジーナから受け取った羊皮紙を見ると……彼女の言う通り、教祖から教えられた内容以上のことが、そこに書かれていた。
 スキル名は変わっていなかったため、それを飛ばして内容だけ確認する。


 ――この世界に住まう、人間以外の種族及び動物等の生物から、強い好意を寄せられる。

 この効果は、理性を大きく失っている相手、または使用者に対して、敵意や恐れを抱く相手には通用しないが、相手が使用者を認めて受け入れた場合は、この限りではない。

 使用者が、人間以外の種族及び動物等の生物に、何らかの支援を行った場合。その効果は、人間への支援以上に増加する。

 また。使用者は、言葉が通じない人間以外の種族及び動物等の生物との意志疎通が、ある程度可能となる。

 このスキルは、人間以外の種族及び動物等の生物との交流を重ねると、徐々に成長していく。彼らの友になるのか、それとも彼らの支配者になるのか。

 スキルがどんな成長を遂げるのか。それは使用者の行い次第である。

 現在、使用者は人間以外の種族及び動物等の生物に対して、非常に好意的に接している状態だ。
 現状が維持された場合――スキルが新たな進化を遂げ、彼らの支配者になる道が、永遠に閉ざされる可能性が高い。

 進化後。使用者と彼らの絆はより強固になり、より深く心を寄せられるようになるだろう。ただし、その場合は彼らを使用者の意のままに支配することが不可能となる。


 ――使用者は、彼らの友になる道を選ぶのか?


(随分、詳しく書かれてるな。これが、鑑定魔法の術式を書き換えた結果か)


 スキルが通用しない相手に、俺に対して敵意や恐れを抱く者が加えられている。これに該当するのがヘンリーとジョニー、それからリアムなのだろう。

 アドルフ達は、俺の補助魔法が普通とは異なると言っていたが、その原因はこのスキルにあったようだ。
 動物や獣化したアドルフ達の言葉がなんとなく分かるのも、スキルのおかげだったのか。

 そして現状……人間以外の種族や動物に対して、好意的に接している状態を維持すれば、彼らの支配者になる道は消える、と。

 好都合だな。もしもこの先、俺がまた教祖のスキルによって支配されたとしても、その時点で俺のスキルが進化していれば、教祖にとっての利用価値がなくなる。

 支配者になる道が消えれば、俺のスキルで獣人族と魔族を支配するという、教祖の企みが潰えるのだ。


 あとは、このスキルがいつ進化するのかだが――


「おい、レイモンド。そろそろ、俺達にもお前のスキルのことを教えてくれ」
「!」


 アドルフに声を掛けられ、はっと顔を上げた。そうだった。考えるのは後にしよう。

 アドルフ達に俺のスキルの詳細を教えると、それぞれの反応を見せた。


「ほう……以前パーヴェルに頼み、ヒュドールにいる同胞達に、レイモンドの補助魔法を受けた感想を聞いてもらったのだが……彼らもアドルフと同様に、いつも以上の力を発揮していたようだ」
「それに、レイモンドが盗賊に襲われた時に、トレスにも補助魔法を掛けてくれましたよね? そのことについて、トレスが普段よりも調子が良かったと話していました」
「カァー! カカァ、カァカァ」
「……『主が補助魔法を使った時よりも、戦いやすかった』だそうです。失礼な使い魔ですよね」
「プラシノスでの戦闘についても、後にカルロスを通して聞き取りを行ったが……人間達は普通の補助魔法と変わらないと証言し、獣人達は普通の補助魔法を掛けられた時よりも、力が漲るのを感じたと証言した。スキルの内容と合致しておる」


 まず、ヴェーラ、エヴァン、トレス、ロッコが発言した。とりあえず、エヴァンは何というか……うん、すまない。
 そして、いつの間に聞き取りをしていたんだか……本人は何も知らなかったぞ。


「……イルミナルで共に戦った部下達も、レイモンドの補助魔法に助けられた……」
「そうだな。レイの補助魔法に頼らずに、ジジイとの合流を優先していたら……最悪の場合、ミュースを含めた諜報部隊の精鋭達が、死んでいたかもしれない。やっぱりお前には感謝しねぇとな」


 次に、ミュースとアドルフがそう言った。……いやいや。最終的にあの状況をひっくり返したのは、人狼になったアドルフだろう?


「…………」
「……リアム。若造が言っていたことは本当さ。鑑定したあたし自身がそれを認めるだけじゃ、信用できないのかい?」
「……いいや。ジーナさんに免じて、そいつのスキルが信用できるものであることは認める。だが、そいつ自身のことはまだ信用しない!」
「リアム殿……お願いですから、揉め事は起こさないでください。『獣王国の近衛旅団団長と新たな同胞が揉めている』なんて話が広まったら、王都中にどんな影響が出るのか、全く予想できないんですよ……」


 ジーナ、リアム、フィデルのそんな会話が聞こえた。フィデルは苦労人のようだな……今も胃のあたりを片手で摩っている。

 リアムは俺のスキルについては認めるが、俺自身のことは信用できないという。……そう、

 彼は気づいていないようだが、無意識にそう言っている時点で、そのうち俺自身を認めるつもりだと発言しているようなものだろう。

 使用者に対して、敵意や恐れを抱く相手には通用しないが、相手が使用者を認めて受け入れた場合は、この限りではない……いずれ、この効果が現れる時が来るのかもしれない。


「なるほど……スキルの進化、か」


 獣王様がそう呟くと、全員が静かになった。王の言葉を待っているのだ。
 ちょっと言葉を口にするだけで、空気が変わる。子供っぽいところがあるものの、やはり一国の王だな。一般人とは存在感が違う。


「アドルフ。お前のスキルも昔、進化したよな?」
「あぁ」
「進化後、スキルの能力は高くなったよな」
「そうだな。……それと引き換えに、デメリットもあった」
「うん」
「デメリット?」
「あぁ。……能力が強化される代わりに、スキルの欠点も追加されたんだ」


 軽く説明されて、納得した。それはそうだよな……強力な力が、何の対価も無しに使えるようになるはずがない。


「お前のスキルも、進化した後は何らかの欠点が追加される可能性が高い。それを頭に入れておけ」
「分かった」


 進化後のデメリット。それを考えるとちょっと怖くなってきた。大丈夫かな、俺のスキル……



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