獣王国の外交官~獣人族に救われた俺は、狂狼の異名を持つ最強の相棒と共に、人間至上主義に喧嘩を売る!~

新橋 薫

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ルベル王国編

魂の融合

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「「――魂の融合ユニオン・ソウル!」」


 そう叫んだ刹那、目映い光に包まれた。金色の光だ。強い光が収まった後も、金色のオーラが俺の体を包んでいる。……力が漲っていた。

 敵による拘束を力尽くで解き、まずは俺の首を絞めていた男の顔面をぶん殴る。殴られた男は宙を舞い、地面に頭から着地して動かなくなった。


(おいおい! さっき兵士を殴り飛ばした時の比じゃないぞ……!)


 思わず自分の手の平を見て……金色に輝く爪が生えていることに気づいた。何だこれ?


「ウオォォォッ! 殺セェェッ!」
「異教徒ヲ殺セ!」
「おっと……!」


 飛び掛かって来た兵士の腹に拳を叩き込み、前のめりになって下りて来た頭に、踵落とし。兜が割れた。

 次に。斧を振り回した大柄の兵士の攻撃を避け、その懐に入って足にローキックを放つ。……手応えからして、おそらく骨が折れたのだろう。大柄の兵士が崩れ落ちた。

 ――口端が吊り上がる。……気がつけば、俺は笑っていた。


「ははは――っ!」


 ……いや、待て待て。落ち着け。今は笑ってる場合じゃないから! しかし、何故か気分が良い。興奮しているのだ。本能が、戦えと言っている。

 とは言え、理性が無くなる程ではない。頭の中で戦いたいという本能と、冷静さを保つ理性が同居していた。良いバランスだ。
 脳筋に見せ掛けた頭脳派であるアドルフの頭の中も、こんな感じだろうか?


(そうだ。アドルフ!)


 あいつと合流しよう。きっとあいつも、ギフトを発動させたはずだ。

 魂の融合ユニオン・ソウル……俺だけでなく、あいつの声でそう叫んだのは聞こえていた。このギフトはおそらく、アドルフと共に発動させる物だ。
 詳しい効果は不明だが、発動する前と比べて明らかに動きが良くなっているし、力も強くなっている。肉体強化系のギフトだろう。

 しかし、気になるのは先程の俺の戦い方だ。いつもなら真っ先に柔道の投げ技を仕掛けるところなのに、何故か殴ることや蹴ることを優先させた。体が勝手に、それを優先させたのだ。

 それに、俺は戦いを好むような人間ではなかったはずなのに……自然と笑ってしまい、心のどこかでこの状況を楽しんでいる。何故だ?


 そんなことを考えている間にも手足が動き、襲って来る狂戦士共を片っ端から片付けていた。

 意識して使えば、投げ技も固め技も当て身技も使える。だが、咄嗟に出るのはやはり拳と蹴りだった。それから爪。
 金色の爪で相手の顔を攻撃したり、首を狙って頸動脈を切る。……これらの戦い方が、いつの間にか頭の中に入っていた。


 この戦い方に、獣人のような爪に――先程から感じている、頭と尻辺りの違和感。……今だけは後ろを見たくない。


「――おらぁっ!」
「!」


 その時、俺の周りを囲んでいた人垣の一部が崩れた。そこから現れたのは、銀色のオーラを纏ったアドルフ。


「レイモンド! 無事――か……?」


 俺を見た途端に固まり、口をあんぐりと開けた。その後ろから、敵が棍棒を振り下ろそうとしている。
 俺は地面を蹴ってその敵に肉薄し、横面をぶん殴る。相手は周囲にいた敵を数名巻き込み、吹き飛んで行った。


「後ろ、がら空きだぞ。油断するな」
「あ、悪い――って、そうじゃねぇ! お前、その金色の耳と尻尾はどうした! いつからオオカミ族になったんだ!」
「知らねぇよ! そんなの俺の方が聞きたいわ!」


 やっぱりケモミミと尻尾だったぁぁっ! しかも狼かよ!

 道理で違和感はあるし、何かが動く感覚があるし、爪はあるし……今触ってみたら、人間の耳が無くなった代わりに、頭に生えた耳で音を拾ってるようだし!


 (テッテレー! 人間から獣人にランクアップ!)


 洒落にならねぇな。


 ……いやいやいや、マジで洒落になんねぇぞ! 何てこった。どうなってやがる!
 これ、ちゃんと元に戻るんだろうな……? というかこれは、ランクアップじゃなくてジョブチェンジ――


「レイモンド・ベイリィィィッ! 貴様ぁぁっ!」
「!」


 突然、教祖の叫び声が聞こえた。……いつの間にか処刑台の上に移動していた奴が、鬼の形相で俺を睨んでいる。


「エクレール様が生み出した人間の体を捨てたのか! 異教徒どころか、半獣にまで成り下がったのか! 人間として生まれておきながら、何てことを……!」


 俺だって自分の意思でこの姿になったわけじゃねぇよ。不可抗力だ。


「今すぐに元に戻れ! 人間の姿に! エクレール様が生み出した人間が半獣に成り下がるなど、あってはならないことだ!」
「……てめぇ、言わせて置けばさっきから獣人を散々馬鹿にしやがって……! 何が半獣だクソ野郎!」
「アドルフ、落ち着け! 教祖を相手にしている場合じゃない。来るぞ!」
「ちっ……!」


 背中合わせになり、互いに襲い掛かって来る敵を何度も倒す。
 やはりというべきか、教祖の命令通り、俺が重点的に狙われている。魔力も回復してきたところだし、そろそろ補助魔法をもう一度掛けたいのだが……


「くっ……邪魔だ! これでは補助魔法に集中できない!」


 杖は取り出せたが、魔法を発動させる暇がない! 鬱陶しい!


「アドルフ! 諜報部隊がこの場に来てくれる可能性は?」
「低い! あいつらも足止めされているから、この人垣を抜けてここに来るには、まだ時間が掛かるはずだ! 俺がギフトを発動させて、ようやくお前のもとまで辿り着けたぐらいだからな!」


 第一旅団最強の男がそう言うってことは、諜報部隊の助けは望めないだろう。
 どうする? 補助魔法のバフが消えたら、アドルフはともかく、諜報部隊の獣人達がどうなるか分からない!


「補助魔法で何がやりたいんだ?」
「マジック・エイド・スプレッドで、全員の攻撃力と防御力を上げたい! そろそろさっき掛けた魔法の効果が切れてしまう!」
「なるほどな……よし、レイモンド。少しの間でいい! 囮になってくれ!」
「はっ?」
「それから、杖を貸してくれ!」
「はぁ? お前が補助魔法を使う気か? そもそも使えないはずだろ! それに術式の書き換えだって――」
使えるんだよ! 魔法の使い方が頭に浮かんできた!」
「何だって?」


 それは、もしや……今の俺の頭の中に獣人の戦い方がインプットされていることと、同じか? だが、本当にそうなのか――


(いや。アドルフが言っていることは本当だ!)


 何故か、俺にはアドルフが嘘をついていないことが分かった。


「頼む! 俺を信じて杖を貸してくれ!」
「……あぁ、もう! 分かったよ、ほら!」
「ありがとな!」
「さっさと済ませろ! ずっと囮になるのはご免だからな!」


 結局。アドルフの懇願に負けて杖を渡し、彼の前に出た。そして、わざと大きな声を出して敵の注目を集める。


「そぉら、狂った信者共! 俺を殺せるものなら殺してみやがれ!」


 その瞬間。奴らは一斉に俺に攻撃を仕掛ける。それらを無理に受けようとはせず、回避に集中した。

 奴らの動きは単調で、ギフトを発動している今の俺なら回避も容易い。
 魔法や弓矢でも攻撃されるが、獣人の優れた聴覚のおかげで、魔法を詠唱する声や、弓矢の矢が飛来する音などが聞こえるため、直撃する前に対処することができる。

 やがて、待ちわびていた声が聞こえた。


「我が魔力よ、勇敢なる戦士達へ、大いなる力と強靭な肉体を与えたまえ――マジック・エイド・スプレッド!」


 ――刹那。今まで以上に力が漲るのを感じ、思わず雄叫びを上げていた。

 その高揚感に引きずられ、周囲にいる狂戦士共を殴り、蹴り、そして爪を振り下ろし……ふと、背中に気配を感じた。頼れる心の友の気配だ。


「ありがとう、アドルフ!」
「おう! 杖返すぜ」
「ん……そうだ。お前にも掛けないとな」


 一人だけなら、術式の展開も詠唱も必要ない。隙を見てアドルフに補助魔法を掛け直した。


「おぉ! やっぱりお前がやると、効果が段違いだな!」
「いや……お前の補助魔法も、普通の補助魔法とは違う! いつも以上に肉体が強化されている!」
「何……?」


 そう。アドルフが掛けた補助魔法の効果は、予想以上だった。明らかに普通の補助魔法とは異なっている。いろいろと謎が増えたな……


「とりあえず、考えるのは後回しだな。ところで相棒!」
「どうした相棒!」
「教祖、だったか? ――あいつに一泡吹かせてやりたい! 協力してくれ!」




「アドルフ! レイモン――ド……?」
「ご無事で――えっ?」
「おいおいおいレイモンドさん? その耳と尻尾は……! なんか金色に輝いてるし!」
「悪いが説明している暇はない。というか説明できない!」


 するとそこへ、ミュースを始めとした諜報部隊が、それぞれ敵を打ち倒しながらやって来た。足止めを振り切って来たらしい。
 俺の姿を見た彼らは驚いていたが、この獣耳と尻尾については説明の仕様がない。

 最初より敵の数は減っているが……全員、疲労の色が濃い。そろそろ決着を着けないとな。


「ちょうどいい時に来たな! てめぇらも力を貸せ!」
「一泡吹かせてやりたいって言ってたな? 俺達は何をすればいい?」
「時間を稼いでくれ! ――もう一度、俺の奥の手を使う」


 アドルフの、奥の手。

 俺は今までその存在を知らなかったが、急に奥の手の内容が頭に浮かんできた。なんとなく、このギフトの効果が分かってきたぞ。しかし……


(アドルフは獣人……の、はずだ。それが何故――)


 を……?



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