48 / 129
ルベル王国編
魂の融合
しおりを挟む「「――魂の融合!」」
そう叫んだ刹那、目映い光に包まれた。金色の光だ。強い光が収まった後も、金色のオーラが俺の体を包んでいる。……力が漲っていた。
敵による拘束を力尽くで解き、まずは俺の首を絞めていた男の顔面をぶん殴る。殴られた男は宙を舞い、地面に頭から着地して動かなくなった。
(おいおい! さっき兵士を殴り飛ばした時の比じゃないぞ……!)
思わず自分の手の平を見て……金色に輝く爪が生えていることに気づいた。何だこれ?
「ウオォォォッ! 殺セェェッ!」
「異教徒ヲ殺セ!」
「おっと……!」
飛び掛かって来た兵士の腹に拳を叩き込み、前のめりになって下りて来た頭に、踵落とし。兜が割れた。
次に。斧を振り回した大柄の兵士の攻撃を避け、その懐に入って足にローキックを放つ。……手応えからして、おそらく骨が折れたのだろう。大柄の兵士が崩れ落ちた。
――口端が吊り上がる。……気がつけば、俺は笑っていた。
「ははは――っ!」
……いや、待て待て。落ち着け。今は笑ってる場合じゃないから! しかし、何故か気分が良い。興奮しているのだ。本能が、戦えと言っている。
とは言え、理性が無くなる程ではない。頭の中で戦いたいという本能と、冷静さを保つ理性が同居していた。良いバランスだ。
脳筋に見せ掛けた頭脳派であるアドルフの頭の中も、こんな感じだろうか?
(そうだ。アドルフ!)
あいつと合流しよう。きっとあいつも、ギフトを発動させたはずだ。
魂の融合……俺だけでなく、あいつの声でそう叫んだのは聞こえていた。このギフトはおそらく、アドルフと共に発動させる物だ。
詳しい効果は不明だが、発動する前と比べて明らかに動きが良くなっているし、力も強くなっている。肉体強化系のギフトだろう。
しかし、気になるのは先程の俺の戦い方だ。いつもなら真っ先に柔道の投げ技を仕掛けるところなのに、何故か殴ることや蹴ることを優先させた。体が勝手に、それを優先させたのだ。
それに、俺は戦いを好むような人間ではなかったはずなのに……自然と笑ってしまい、心のどこかでこの状況を楽しんでいる。何故だ?
そんなことを考えている間にも手足が動き、襲って来る狂戦士共を片っ端から片付けていた。
意識して使えば、投げ技も固め技も当て身技も使える。だが、咄嗟に出るのはやはり拳と蹴りだった。それから爪。
金色の爪で相手の顔を攻撃したり、首を狙って頸動脈を切る。……これらの戦い方が、いつの間にか頭の中に入っていた。
この戦い方に、獣人のような爪に――先程から感じている、頭と尻辺りの違和感。……今だけは後ろを見たくない。
「――おらぁっ!」
「!」
その時、俺の周りを囲んでいた人垣の一部が崩れた。そこから現れたのは、銀色のオーラを纏ったアドルフ。
「レイモンド! 無事――か……?」
俺を見た途端に固まり、口をあんぐりと開けた。その後ろから、敵が棍棒を振り下ろそうとしている。
俺は地面を蹴ってその敵に肉薄し、横面をぶん殴る。相手は周囲にいた敵を数名巻き込み、吹き飛んで行った。
「後ろ、がら空きだぞ。油断するな」
「あ、悪い――って、そうじゃねぇ! お前、その金色の耳と尻尾はどうした! いつからオオカミ族になったんだ!」
「知らねぇよ! そんなの俺の方が聞きたいわ!」
やっぱりケモミミと尻尾だったぁぁっ! しかも狼かよ!
道理で違和感はあるし、何かが動く感覚があるし、爪はあるし……今触ってみたら、人間の耳が無くなった代わりに、頭に生えた耳で音を拾ってるようだし!
(テッテレー! 人間から獣人にランクアップ!)
洒落にならねぇな。
……いやいやいや、マジで洒落になんねぇぞ! 何てこった。どうなってやがる!
これ、ちゃんと元に戻るんだろうな……? というかこれは、ランクアップじゃなくてジョブチェンジ――
「レイモンド・ベイリィィィッ! 貴様ぁぁっ!」
「!」
突然、教祖の叫び声が聞こえた。……いつの間にか処刑台の上に移動していた奴が、鬼の形相で俺を睨んでいる。
「エクレール様が生み出した人間の体を捨てたのか! 異教徒どころか、半獣にまで成り下がったのか! 人間として生まれておきながら、何てことを……!」
俺だって自分の意思でこの姿になったわけじゃねぇよ。不可抗力だ。
「今すぐに元に戻れ! 人間の姿に! エクレール様が生み出した人間が半獣に成り下がるなど、あってはならないことだ!」
「……てめぇ、言わせて置けばさっきから獣人を散々馬鹿にしやがって……! 何が半獣だクソ野郎!」
「アドルフ、落ち着け! 教祖を相手にしている場合じゃない。来るぞ!」
「ちっ……!」
背中合わせになり、互いに襲い掛かって来る敵を何度も倒す。
やはりというべきか、教祖の命令通り、俺が重点的に狙われている。魔力も回復してきたところだし、そろそろ補助魔法をもう一度掛けたいのだが……
「くっ……邪魔だ! これでは補助魔法に集中できない!」
杖は取り出せたが、魔法を発動させる暇がない! 鬱陶しい!
「アドルフ! 諜報部隊がこの場に来てくれる可能性は?」
「低い! あいつらも足止めされているから、この人垣を抜けてここに来るには、まだ時間が掛かるはずだ! 俺がギフトを発動させて、ようやくお前のもとまで辿り着けたぐらいだからな!」
第一旅団最強の男がそう言うってことは、諜報部隊の助けは望めないだろう。
どうする? 補助魔法のバフが消えたら、アドルフはともかく、諜報部隊の獣人達がどうなるか分からない!
「補助魔法で何がやりたいんだ?」
「マジック・エイド・スプレッドで、全員の攻撃力と防御力を上げたい! そろそろさっき掛けた魔法の効果が切れてしまう!」
「なるほどな……よし、レイモンド。少しの間でいい! 囮になってくれ!」
「はっ?」
「それから、杖を貸してくれ!」
「はぁ? お前が補助魔法を使う気か? そもそも使えないはずだろ! それに術式の書き換えだって――」
「今なら使えるんだよ! 魔法の使い方が頭に浮かんできた!」
「何だって?」
それは、もしや……今の俺の頭の中に獣人の戦い方がインプットされていることと、同じか? だが、本当にそうなのか――
(いや。アドルフが言っていることは本当だ!)
何故か、俺にはアドルフが嘘をついていないことが分かった。
「頼む! 俺を信じて杖を貸してくれ!」
「……あぁ、もう! 分かったよ、ほら!」
「ありがとな!」
「さっさと済ませろ! ずっと囮になるのはご免だからな!」
結局。アドルフの懇願に負けて杖を渡し、彼の前に出た。そして、わざと大きな声を出して敵の注目を集める。
「そぉら、狂った信者共! 俺を殺せるものなら殺してみやがれ!」
その瞬間。奴らは一斉に俺に攻撃を仕掛ける。それらを無理に受けようとはせず、回避に集中した。
奴らの動きは単調で、ギフトを発動している今の俺なら回避も容易い。
魔法や弓矢でも攻撃されるが、獣人の優れた聴覚のおかげで、魔法を詠唱する声や、弓矢の矢が飛来する音などが聞こえるため、直撃する前に対処することができる。
やがて、待ちわびていた声が聞こえた。
「我が魔力よ、勇敢なる戦士達へ、大いなる力と強靭な肉体を与えたまえ――マジック・エイド・スプレッド!」
――刹那。今まで以上に力が漲るのを感じ、思わず雄叫びを上げていた。
その高揚感に引きずられ、周囲にいる狂戦士共を殴り、蹴り、そして爪を振り下ろし……ふと、背中に気配を感じた。頼れる心の友の気配だ。
「ありがとう、アドルフ!」
「おう! 杖返すぜ」
「ん……そうだ。お前にも掛けないとな」
一人だけなら、術式の展開も詠唱も必要ない。隙を見てアドルフに補助魔法を掛け直した。
「おぉ! やっぱりお前がやると、効果が段違いだな!」
「いや……お前の補助魔法も、普通の補助魔法とは違う! いつも以上に肉体が強化されている!」
「何……?」
そう。アドルフが掛けた補助魔法の効果は、予想以上だった。明らかに普通の補助魔法とは異なっている。いろいろと謎が増えたな……
「とりあえず、考えるのは後回しだな。ところで相棒!」
「どうした相棒!」
「教祖、だったか? ――あいつに一泡吹かせてやりたい! 協力してくれ!」
「アドルフ! レイモン――ド……?」
「ご無事で――えっ?」
「おいおいおいレイモンドさん? その耳と尻尾は……! なんか金色に輝いてるし!」
「悪いが説明している暇はない。というか説明できない!」
するとそこへ、ミュースを始めとした諜報部隊が、それぞれ敵を打ち倒しながらやって来た。足止めを振り切って来たらしい。
俺の姿を見た彼らは驚いていたが、この獣耳と尻尾については説明の仕様がない。
最初より敵の数は減っているが……全員、疲労の色が濃い。そろそろ決着を着けないとな。
「ちょうどいい時に来たな! てめぇらも力を貸せ!」
「一泡吹かせてやりたいって言ってたな? 俺達は何をすればいい?」
「時間を稼いでくれ! ――もう一度、俺の奥の手を使う」
アドルフの、奥の手。
俺は今までその存在を知らなかったが、急に奥の手の内容が頭に浮かんできた。なんとなく、このギフトの効果が分かってきたぞ。しかし……
(アドルフは獣人……の、はずだ。それが何故――)
魔族の力を……?
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる