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ルベル王国編

エクレール狂信者=狂戦士

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「殺セ……不浄ナ種族ト、異教徒ヲ殺セ……!」
「殺ス……」
「殺スゥ……ッ!」


 兵士達の目は虚ろで、俺と獣人達への殺意を言葉にしている。その言葉も片言で、どう見ても正常ではない。そして、攻撃がより苛烈になっていた。

 さらに、一般市民達にも変化が現れた。奴らも兵士達と同様に様子がおかしくなり、獣人に攻撃している。
 獣人達は反撃しているが、兵士も一般市民も全く怯まない。……まるで、痛みを感じていないかのような態度だ。

 それに奴らは皆、味方に攻撃が当たってもお構い無しだ。ただただ、獣人に攻撃し続ける。……よく見たら父親に長男、次男、義母。国王と側近達まで、様子がおかしい。

 魔法が使える者も、無差別に攻撃しているようだ。何なんだ、これは!


「くふ……っ、はははははっ! 素晴らしい。素晴らしいぞ……! さすがはエクレール様から授かったの力……!」
「どういうことだ、教祖! てめぇは奴らに何をした!」
「異教徒に教えてやる謂われは無い! ……だが、少しは教えてやろう。エクレール様の熱心な信奉者達は、生まれ変わった。彼らは痛みを感じない。死を恐れない。ギフトによって底上げされた力を用いて、貴様と半獣共を殺すという目的を果たすまで戦い続ける、強力な戦士になったのだ!」
「ちっ……! バーサーカーってことか。厄介な……!」


 狂ったように笑う教祖が、この状況を作り上げたらしい。一体どんなギフトなんだ? 狂戦士を生み出すなんて……!

 いや。今はそれよりも、現在の状況だ! 獣人達は奮闘しているが、相手は痛みを感じないし、死も恐れない狂戦士……分が悪いな。このままでは、獣人側の被害者が増える。

 何としてでもそれを食い止めるために、俺の補助魔法で援護してやりたい。
 しかし、今の俺には杖が無い。父親にボコボコにされて気絶していた時に、没収されてしまったらしい。

 それでも補助魔法は使えるが、杖が無ければこの人数を一斉に援護することは難しい。


「杖さえあれば……!」
「あります。レイモンドさんの杖」
「えっ?」
「別の隊の者が見つけて回収したものを、預かっていました。……どうぞ」
「ありがたい!」


 ローガン隊の一人が懐から俺の杖を取り出し、それを俺に渡してくれた。おかえり、俺の杖。これで存分にサポートすることができる! ……しかし、その前に。


「アドルフ。俺も共に戦いたいと言ったら……どうする?」
「本当ならそれを却下して、お前を安全な場所に運んでやりたいところだが……現状を見るに、お前の補助魔法による援護が必要だ」
「アドルフ! レイモンドを戦わせるの? 彼も狙われているのに!」
「落ち着け、ミュース。……そんなもん、俺達が全力で守ればいいだけだ。お前だって、同じようなミスはもう二度とやらないだろ?」
「……当然!」
「よし。じゃあ、ジジイとの合流は後回しだ。まずはあいつらを片付ける」
「……待って、アドルフ」
「何だ? まだ迷ってんのか?」
「そうじゃない」


 ミュースが、俺を見る。……赤褐色の瞳が揺れていた。


「……あなたの父親も、母親も、兄弟も狂ってしまった。……場合によっては、あなたの家族を殺すことになると思う……それでも、いいの?」
「!」


 はっと、アドルフが俺を見た。その目を見て、分かった。アドルフは迷っている。俺の家族を殺してもいいのだろうか……そんな迷いが生じているのだ。

 その迷いを断ち切らせるために、俺ははっきりと答える。


「あぁ、構わない。今の俺にとっては血の繋がった家族よりも、獣人達の方が……アドルフ達の命の方が大切だ。俺のことは気にするな。自分達の身の安全を第一に考えろ!」


 俺に対する態度は悪かったが、それでも相手は今世の家族。いろいろと複雑な心境ではある。……しかし、それよりも大切なのはアドルフ達の命だ。


「アドルフ。俺の大切なものと、お前の大切ものは同じだ。何を迷う必要がある?」
「…………すまねぇ、レイモンド」
「謝るぐらいなら、早く指示を出せよ」
「……分かった」


 一度目を閉じたアドルフが、再び目を開けた時……その目から迷いが消えていた。


「ミュース、ローガン隊、下りるぞ!」
「分かった……」
「了解です」
「え、ちょ、うわあぁぁっ!」


 俺を再び担いだアドルフが、屋根から飛び下りる。思わず、みっともなく悲鳴を上げてしまった。

 ミュースとローガン隊も、それぞれ建物の壁を蹴りながら上手く下りて来る。
 俺は突然飛び下りたアドルフに抗議しようとするが、それよりも先に俺を地面に下ろし、彼は口を開いた。


「――諜報部隊、総員に告ぐ!」


 獣王軍第一旅団副団長は、威厳に満ちた声で部下に命じる。


「目標はエクレール教の狂信者共と教祖の打倒! 抵抗する者は殺害しても構わん! そして――我々の新たな同胞、レイモンド・ベイリーを死守せよ!」


 俺が同胞になることは確定なのか? 俺の意思は無視か? ……まぁ、別にいいけどな。獣王国には、行けるものなら行ってみたいし。


「ローガン隊は引き続き、レイモンドを守れ!」
「はっ!」
「レイモンド! 補助魔法を!」
「了解、副団長」


 杖を構え、術式を展開。その書き換えを行い……詠唱に入る。


「我が魔力よ、勇敢なる戦士達へ、大いなる力と強靭な肉体を与えたまえ――マジック・エイド・スプレッド!」


 アドルフ達が雄叫びを上げ、奴らに向かって飛び掛かる。――戦いの火蓋が切られた。



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