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ルベル王国編
ルベル王国滅亡ルート突入不可避
しおりを挟むトロールとの戦いが終わり、俺とアドルフはカルロスに別れを告げて、迎えに来てくれたロッコと共に、オリソンテに戻る。
平民の服から貴族の服に着替えた後。ヴェーラ、エヴァンとハル、ロッコにトロールを倒したことを報告すると、やはり驚かれた。
「ヒュドールのシー・サーペントの時に続いて……また戦ってきたのか!」
「僕達と一緒に見学した時は、そんなこと起きませんでしたよね……?」
「ニャオーン……」
「ほっほっほっ! やはりお前達は面白いのう!」
「笑わないでくれ、ロッコ爺……」
笑い事ではないぞ、本当に! 今度アドルフと二人で行動した時にまた魔物が出て来たら、アドルフが魔物を引き寄せていると考えよう。俺のせいではない……はずだ。
「プラシノスの見学はどうでした?」
「動物がたくさん」
「はい?」
「そうなんだよ。こいつの周りに、野生動物がぞろぞろと集まって来たんだ!」
と、ヴェーラ達に街を見学した感想を話している途中。あることを思い出した。
「あっ。領主様……じゃない。カルロスに伝え忘れたな……」
カルロスには帰り際に名前で呼んで欲しいと言われたため、そうしている。
「何を?」
「ほら。あのサルに帽子を取られる前に、話そうとしていたことだ」
「あぁ、あれか。……それで? 思い付いたことって何だ?」
「プラシノスの人間達が、カルロスに対して自由に意見を伝えられるような仕組みを整えたら、それがカルロスへの誤解を解くきっかけになるのではないか、と考えたんだ」
俺が言いたいことは、所謂目安箱だ。
街中に目安箱を設置して、そこに住民達が匿名で意見書を入れていく。意見書が集まったら住民達にその結果を伝えて、意見書に書かれた問題を解決したり、疑問に答えたりする。
それを繰り返すうちに、住民達がカルロスの本質に気づいてくれたら、誤解も徐々に解かれていくはず。
今日。人間達は、カルロスがプラシノスのために自ら戦場に出る領主であることを知った。あの木こり達の反応も悪くなかった。
この流れに乗って目安箱を利用し、カルロスと住民達の距離をさらに縮めるのだ。……そう話すと、アドルフの表情が明るくなった。
「それ、いいな! 匿名なら人間達も多少は安心するだろうし、カルロスに面と向かって言えねぇことも書面なら伝えやすい。それに、一般市民の意見が直接領主に届くのは良いことだ。領主の目に見えない問題を見つけることができるかもしれない。それをカルロスが解決すれば、あいつに住民達の信頼が集まるってことだな。……さすがユートだ」
やはりアドルフは頭の回転が早い。目安箱の利点を瞬時に読み取った。
「アドルフの言う通り、なかなか良いアイデアだな。……ユート殿。そのアイデアを他の街の領主達に伝えてもいいか?」
「俺の名前を出さないでくれるなら」
「むぅ……分かった。発案者は内密にしておこう」
危ない。ヴェーラの様子からして、何も言わなかったら俺の名前と一緒に広めるつもりだったのだろう。気恥ずかしいからやめてくれ。
……さて。そろそろ本題に入るとしよう。プラシノスに行く前に話していたことの続きだ。ネックレスに魔力を送り、元の姿へ戻った。
「ヴェーラ殿。そろそろ獣王陛下の直筆の書状について、教えていただけませんか?」
「……そうだな。レイモンド殿には時間も限られているし、本題に入ろう」
そう言って、ヴェーラが俺に渡したのは二枚の洋封筒だった。
一枚はどう見ても公式の文書が入っていると思われる、豪華な封筒。宛名はもちろん、ルベル王国の国王だ。
そしてもう一枚。……これが問題だった。見た目はシンプルだが――
(獣王陛下から俺に宛てた手紙?)
一国の国王が、わざわざ俺に手紙を……?
「獣王様から貴殿へ宛てた書状は、今日の帰りの馬車の中で必ず読んで欲しい。頼んだぞ」
「は、はい……」
「それから、そちらの公式文書の内容についてだが……我々は現在、フェルゼン砦とイルミナルに攻め込む準備が整っている状態だ。あとは私の号令があれば、すぐに仕掛けることができる」
「!」
息を呑む。そして血の気が引いた。
「フェルゼン砦のみ、ではないのですか?」
「いいや。イルミナルも、だ。フェルゼン砦を攻略した後は、例え降伏の申し出があったとしても、イルミナルに攻め込む」
「それは、決定事項ですか……?」
「そうなるかどうかは、そちらの回答次第だな。その公式文書には、今まで我々が要求した二点……奴隷となった同胞達を全員解放することと、我々の土地に二度と近づかないと誓うことに加え、要求に従わないようであれば交渉決裂。……二度と交渉に応じない、と記されている」
「要求に従った場合は?」
「もちろん、侵攻は取り止める。……そちらが本当に要求に応じるのであれば、だが」
ヴェーラは猜疑の目を向ける。王国側が要求に応じるとは思っていないらしい。
これが王国に残された最後のチャンスか。この機を逃せば――ルベル王国滅亡、待った無し。
それでも、あの馬鹿共が要求に応じる未来が見えない。あいつらは、漏れ無くエクレール狂信者だからな。
不浄な種族に頭を下げるぐらいなら死を選ぶだろう。ヴェーラと同じく、俺も奴らを信用していなかった。
そういえば、ファブリカはどうするつもりなのだろうか? あの街も王国の土地だ。ファブリカもいずれ占領するのか?
「ヴェーラ殿。ファブリカはどうするおつもりですか? あの街にも兵を?」
「いや、ファブリカはもう――」
「ボス!」
「あ。……す、すまない! それは言えない」
アドルフに呼ばれ、彼女は慌てて首を横に振った。ファブリカはもう? まさか――
「ファブリカは獣王国の味方になった、と?」
「!」
「あーあ……」
「ヴェーラ団長……」
「やってしまったのう……」
ヴェーラの耳と尻尾が突然ピンと跳ね上がり、忙しなく動く。目も泳いでいた。
それを見たアドルフ達が頭を抱えたりため息をついたり、それぞれ反応する。……ただの憶測だったが、当たってしまったか。
ファブリカは、一体いつ獣王国側に寝返ったんだ?
「あー、ゴホン! そんなことよりレイモンド殿。実は獣王様から貴殿へ、書状以外にもう一つ預かっている物がある。……ロッコさん」
「うむ」
ファブリカのことを追及しようとしたら、ヴェーラがあからさまに話を逸らした。……ファブリカよりも、それの方が気になるな。獣王様から預かっている物?
ロッコが時空魔法のスペイス・ウェアハウスを使用し、取り出した物を俺に渡した。小さな飴玉サイズの水晶玉だ。色は透明。
「これは……?」
「獣王国と魔王国の研究者の共同開発によって生み出されたマジック・アイテム――魔法玉じゃ」
「使い捨てのマジック・アイテムだが、その効果はすげぇぞ。魔法玉にはあらかじめ、一つだけ魔法が籠められている。その魔法玉を飲み込むと――」
「えっ。飲み込む物なんですか?」
「あぁ。最初は誰もが躊躇うが、飲み込んでも害は無いから心配すんな」
本当に大丈夫か……? 怪しげな麻薬では無いよな?
「で、魔法玉を飲み込むと……魔法玉に籠められた魔法を、魔力を消費せずに一度だけ使えるようになる。例え、その魔法を使えない奴でもな」
想像以上にとんでもない代物だった。手の中にあるそれを凝視する。
「その魔法玉には、テレポートの魔法が籠められておる。制作中に儂がテレポートの魔法を籠めたのじゃ。具体的にどうやって魔法を籠めたのかは、教えられん。……そもそも、魔法玉の存在自体が機密事項じゃからな」
「機密事項? 私にそんな物を渡してどうするのですか! お返しします!」
「駄目だ」
そう言って、アドルフは魔法玉を持っている俺の手を両手で包み、魔法玉を握らせた。
「受け取れ、レイモンド。もしも王都でお前の身に何かがあった時は、これを使って俺達の下へ逃げて来るんだ。いいな?」
「え――」
「約束しろ」
その有無を言わせない口調に、俺はつい頷いてしまった。
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