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【第一章】新生活編

【第四話】散策

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 神殿から追い出された僕は、仕方なく王都の大通りを歩きながら、いくつかの商店を回った。
 
 
 この世界の物価の相場などを確かめるためである。
 
 
 我ながら冷静だった。
 
 
 不安がない訳ではもちろんないが、だからと言って何もしない訳にはいかない。
 
 
 店を回るついでに、旅に必要になるであろう道具なども買った。
 
 
「リンゴが一個で五十デナリオンか・・・・・・」
 
 
 日本より、物価は安いようだ。
 
 
 午前のうちに、着替えやクツ、カバンなどを購入し、お腹が減ったので食べ物を買う事にした。
 
 
 幸いにも賑わいのある街だったため、通り沿いには食べ物を売る屋台がいたる所にある。
 
 
 安ければ何でも良いと思ったので、適当に屋台を見繕い、ホットドッグや肉を挟んだサンドイッチを買った。
 
 
「よし、言葉も通じるし文字も読める。挨拶や礼儀なども日本とほとんど変わらないな」
 
 
 以外にも、苦労することは無かった。
 
 
 今頃、僕以外の召喚者たちはどうしているのだろうか。
 
 
 きっと、僕よりも優秀なスキルを授かっていることだろう。
 
 
「・・・・・・」
 
 
 噴水がある広場のベンチに腰を下ろし、空を見上げた。
 
 
 日本で見る空と、何ら変わらない。
 
 
 しかし、ここは確かに異世界なのだ。
 
 
 スキルの概念があるし、魔法や魔物も存在する。
 逆に、科学技術は皆無だった。
 
 
 日本でも上手に生きてこれなかった僕が、はたしてこの世界でも生きていけるのだろうか。
 
 
 そう考えていると、一瞬だけ不安が強くなった。
 
 
「お兄ちゃん」
 
 
「え?」
 
 
 不意に声を掛けられたので視線を落とすと、目の前に小さな幼女が立っていた。
 
 
 四~五歳くらいだろうか。
 多分、僕の腰くらいまでしか身長はない。
 
 
「ど、どうしたのかな?」
 
 
 幼い子供と触れ合うのは苦手だった。
 
 
 どう接してあげれば良いのか分からず、ついキョドキョドしてしまう。
 
 
「それ、ちょうだい」
 
 
 そう言って幼女が指をさしたのは、僕がこれから食べようとしていたホットドッグとサンドイッチだった。
 
 
 物乞い、だろうか。
 
 
 言われてみれば、幼女の服装は薄汚れていて、手足は痩せ細っているように見える。
 
 
 こんな栄えた王都でも、こういった貧困層は存在しているらしい。
 
 
「えっと・・・・・・、お腹が空いているのかな?」
 
 
 幼女は食べ物から視線をずらさず、こくりとうなずいた。
 
 
 たとえ子供でも、物乞いには食べ物やお金を与えてはいけないと聞いたことがある。
 
 
 簡単にあげてしまうと、それで味をしめてしまうらしい。
 
 
 しかし、こうやって面と向かって言われると、きっぱりと断るのは相当に気が引ける。
 
 
 僕は周囲を見回して、通行人に見られていない事を確認してから、サンドイッチを一つだけ幼女に渡した。
 
 
 
 
 
 サンドイッチを受け取った幼女は、礼も言わずに走り去っていった。
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