魔王を倒すために召喚されたけど、人間社会があまりにも腐敗していたので、反乱軍を立ち上げることにしました。

尾関 天魁星

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【第六話】軍営にて

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 軍営の本棟の前で馬車は停められ、俺と忠翔ちゅうしょうは下車した。
 
 
 軍営の本棟は、見上げる程大きかった。
 
 
「わたくしは軍営に用事を済ませに行きますので、雪斗様はご自由に見学なさって下さい」
 
 
 忠翔ちゅうしょうはそう言って、一人で本棟に向かっていってしまった。
 
 
「自由にって言ったって・・・」
 
 
 見掛ける人はほとんどが兵士で、皆屈強で強面の男達ばかりだ。
 
 
 なんだか場違いな気がしてならなかった。
 
 
「とりあえず、道場にでも行ってみようかな」
 
 
 周りの兵士の目を気にしながら、俺は近くにある道場に行った。
 
 
 敷地の中に道場はいくつもあって、そのどれもが広かった。
 
 
 忠翔ちゅうしょうが言うには、一番小さな道場でも三百人、大きな道場なら六百人が一度に稽古出来るほどの広さがあるらしい。
 
 
 道場の中からは、兵達の気合いや掛け声が盛んに聞こえた。
 
 
 出入り口は開け放たれていたため、俺は勝手に上がり、中をうかがった。
 
 
「確かに広いな・・・」
 
 
 道場には、二~三百人の兵士が掛け声に合わせて棒を振っていた。
 
 
 何百人が一斉に踏み込んだりする度に、床だけでなく空気そのものが揺れるようだった。
 
 
 その様子に思わず見入っていると、背後から声を掛けられた。
 
 
「おや、見学か」
 
 
 驚いて振り返ると、軍袍ぐんぽうを来た男だった。
 
 
 背は高く、体付きは立派で、立ち姿は芯が通っている印象である。
 
 
「驚かせてすまない、珍しい服装だったから、ついな」
 
 
 口調は笑っているように聞こえたが、表情は全く変わらなかった。
 
 
 服装から見るに、兵士であることは間違いない。
 他の兵とは多少違いがあるので、将校かもしれない。
 
 
「あ、お邪魔しています。こんな大きな道場、初めてなもので・・・」
 
 
 つまみ出されるのかと覚悟していたが、男はそんなつもりは無いようである。
 
 
 俺の横に並び、兵達を眺めている。
 
 
「確かに、ここほど大きな道場は地方には無いだろうな」
 
 
「あ、あなたは?」
 
 
 俺は恐る恐る、名前をうかがった。
 
 
「近衛軍の将校で、名を舵難かじだと言う」
 
 
 すんなりと名前を教えてくれた舵難かじだは、真っ直ぐと俺を見つめた。
 
 
「あっ、こちらから名乗りもせずにっ、申し訳ありません! 俺は雪斗って言います!」
 
 
「雪斗どのか」
 
 
 舵難かじだはそれだけ言い、視線を兵に戻した。
 
 
 不思議な男だと思った。
 
 
 近衛軍の兵士は、こんな人ばかりなのだろうか。
 
 
「俺は明日、地方軍に異動になるのだ。だから正確には近衛軍の将校だった、だな」
 
 
 舵難かじだはポツリと言った。
 
 
「将校でも、異動とかあるんですね」
 
 
「あまり多くは無いな。異動されるのは、俺のような者ばかりだ」
 
 
「それってどんな人のことです?」
 
 
「まぁ、それは言わないでおく」
 
 
 
 
 
 彼のその言葉の意味が分かるのは、しばらく先のことだった。
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