7 / 10
【第六話】軍営にて
しおりを挟む
軍営の本棟の前で馬車は停められ、俺と忠翔は下車した。
軍営の本棟は、見上げる程大きかった。
「わたくしは軍営に用事を済ませに行きますので、雪斗様はご自由に見学なさって下さい」
忠翔はそう言って、一人で本棟に向かっていってしまった。
「自由にって言ったって・・・」
見掛ける人はほとんどが兵士で、皆屈強で強面の男達ばかりだ。
なんだか場違いな気がしてならなかった。
「とりあえず、道場にでも行ってみようかな」
周りの兵士の目を気にしながら、俺は近くにある道場に行った。
敷地の中に道場はいくつもあって、そのどれもが広かった。
忠翔が言うには、一番小さな道場でも三百人、大きな道場なら六百人が一度に稽古出来るほどの広さがあるらしい。
道場の中からは、兵達の気合いや掛け声が盛んに聞こえた。
出入り口は開け放たれていたため、俺は勝手に上がり、中をうかがった。
「確かに広いな・・・」
道場には、二~三百人の兵士が掛け声に合わせて棒を振っていた。
何百人が一斉に踏み込んだりする度に、床だけでなく空気そのものが揺れるようだった。
その様子に思わず見入っていると、背後から声を掛けられた。
「おや、見学か」
驚いて振り返ると、軍袍を来た男だった。
背は高く、体付きは立派で、立ち姿は芯が通っている印象である。
「驚かせてすまない、珍しい服装だったから、ついな」
口調は笑っているように聞こえたが、表情は全く変わらなかった。
服装から見るに、兵士であることは間違いない。
他の兵とは多少違いがあるので、将校かもしれない。
「あ、お邪魔しています。こんな大きな道場、初めてなもので・・・」
つまみ出されるのかと覚悟していたが、男はそんなつもりは無いようである。
俺の横に並び、兵達を眺めている。
「確かに、ここほど大きな道場は地方には無いだろうな」
「あ、あなたは?」
俺は恐る恐る、名前をうかがった。
「近衛軍の将校で、名を舵難と言う」
すんなりと名前を教えてくれた舵難は、真っ直ぐと俺を見つめた。
「あっ、こちらから名乗りもせずにっ、申し訳ありません! 俺は雪斗って言います!」
「雪斗どのか」
舵難はそれだけ言い、視線を兵に戻した。
不思議な男だと思った。
近衛軍の兵士は、こんな人ばかりなのだろうか。
「俺は明日、地方軍に異動になるのだ。だから正確には近衛軍の将校だった、だな」
舵難はポツリと言った。
「将校でも、異動とかあるんですね」
「あまり多くは無いな。異動されるのは、俺のような者ばかりだ」
「それってどんな人のことです?」
「まぁ、それは言わないでおく」
彼のその言葉の意味が分かるのは、しばらく先のことだった。
軍営の本棟は、見上げる程大きかった。
「わたくしは軍営に用事を済ませに行きますので、雪斗様はご自由に見学なさって下さい」
忠翔はそう言って、一人で本棟に向かっていってしまった。
「自由にって言ったって・・・」
見掛ける人はほとんどが兵士で、皆屈強で強面の男達ばかりだ。
なんだか場違いな気がしてならなかった。
「とりあえず、道場にでも行ってみようかな」
周りの兵士の目を気にしながら、俺は近くにある道場に行った。
敷地の中に道場はいくつもあって、そのどれもが広かった。
忠翔が言うには、一番小さな道場でも三百人、大きな道場なら六百人が一度に稽古出来るほどの広さがあるらしい。
道場の中からは、兵達の気合いや掛け声が盛んに聞こえた。
出入り口は開け放たれていたため、俺は勝手に上がり、中をうかがった。
「確かに広いな・・・」
道場には、二~三百人の兵士が掛け声に合わせて棒を振っていた。
何百人が一斉に踏み込んだりする度に、床だけでなく空気そのものが揺れるようだった。
その様子に思わず見入っていると、背後から声を掛けられた。
「おや、見学か」
驚いて振り返ると、軍袍を来た男だった。
背は高く、体付きは立派で、立ち姿は芯が通っている印象である。
「驚かせてすまない、珍しい服装だったから、ついな」
口調は笑っているように聞こえたが、表情は全く変わらなかった。
服装から見るに、兵士であることは間違いない。
他の兵とは多少違いがあるので、将校かもしれない。
「あ、お邪魔しています。こんな大きな道場、初めてなもので・・・」
つまみ出されるのかと覚悟していたが、男はそんなつもりは無いようである。
俺の横に並び、兵達を眺めている。
「確かに、ここほど大きな道場は地方には無いだろうな」
「あ、あなたは?」
俺は恐る恐る、名前をうかがった。
「近衛軍の将校で、名を舵難と言う」
すんなりと名前を教えてくれた舵難は、真っ直ぐと俺を見つめた。
「あっ、こちらから名乗りもせずにっ、申し訳ありません! 俺は雪斗って言います!」
「雪斗どのか」
舵難はそれだけ言い、視線を兵に戻した。
不思議な男だと思った。
近衛軍の兵士は、こんな人ばかりなのだろうか。
「俺は明日、地方軍に異動になるのだ。だから正確には近衛軍の将校だった、だな」
舵難はポツリと言った。
「将校でも、異動とかあるんですね」
「あまり多くは無いな。異動されるのは、俺のような者ばかりだ」
「それってどんな人のことです?」
「まぁ、それは言わないでおく」
彼のその言葉の意味が分かるのは、しばらく先のことだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる