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【第四章】
【第五十話】久しぶりの対峙
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三月になり、例年よりも早い雪解けとなった。
ハンス老人によると、いつもは四月に雪解けするらしい。
「今日は、下山してふもとの集落に行く」
朝、ハンス老人がそう言うと、ザイフェルトは嬉しそうにしていた。
僕は顔をさらす事が出来ないので留守番することになった。
ヘルベルトも、まだ下山する体力が無いので留守番である。
荷物持ちとして、ザイフェルトだけが同行していく。
「夕刻には帰る。今日の修行は自由にやりなさい」
ハンス老人はそう言って、ザイフェルトを伴って下山していった。
修行は、いつも通り行った。
雪解けが始まったといっても、息が白くなるほど寒い。
汗をかくくらい身体が温まると、身体からも湯気がたつ。
この所、ヘルベルトの元気が無いようだった。
自分の身体が思うように動かないからなのか、それを紛らわすように替天行道を書き写していた。
ガチャ。
小屋の扉が開く音がしたので振り向くと、ヘルベルトが外に出て来ていた。
薄着で、動きやすいような格好である。
僕が言うのもなんだが、とても雪の中で過ごす服装ではない。
「ヘルベルト、どうした」
僕は、このところ口調を変えるように意識していた。
「いや、久しぶりに調子が良かったので」
ヘルベルトはそう言うと、僕の前に立ち、体術の構えをとった。
「激しい動きをしても大丈夫なのか」
ヘルベルトは、こくりと頷いた。
「分かった」
彼に合わせて僕も体術の構えをとった。
気合いを放つ。
ヘルベルトからも、気が放たれている。
監獄で修行していた時と、強さは変わらない。
ヘルベルトが、先に動いた。
基本的な突きだが、鋭い。
片手で払い、逆の手で脇腹を突く。
手応えはあったが、ヘルベルトの顔は動かなかった。
しばらく、体術の組み合いをした。
次第に、ヘルベルトからも湯気がたつ。
至近に間合いを詰めてきたので、僕はヘルベルトの腕を担ぎ、雪の上に身体を投げた。
彼の巨体は綺麗に宙を浮き、大の字で寝そべった。
「強く、なられた」
息を弾ませながら、ヘルベルトが言った。
「初めて、ヘルベルト相手に手応えを感じたよ」
監獄での修行以来、初めてヘルベルトに勝った瞬間だった。
「ユキト殿、私はこれまで、あなたの護衛として付き従うつもりでした」
「でした? これからは違うのか?」
「私よりも強い方を護衛しても、仕方ありません。それに、そんな体力も今は残っていない」
「何か、思い定めたことがあるようだな」
「はい」
ヘルベルトが、身体を起こした。
「私は替天行道の志を広めるために、旅をしようと思います。有望な仲間を集め、反乱に協力します」
そう言ったヘルベルトの目は、輝いていた。
ハンス老人によると、いつもは四月に雪解けするらしい。
「今日は、下山してふもとの集落に行く」
朝、ハンス老人がそう言うと、ザイフェルトは嬉しそうにしていた。
僕は顔をさらす事が出来ないので留守番することになった。
ヘルベルトも、まだ下山する体力が無いので留守番である。
荷物持ちとして、ザイフェルトだけが同行していく。
「夕刻には帰る。今日の修行は自由にやりなさい」
ハンス老人はそう言って、ザイフェルトを伴って下山していった。
修行は、いつも通り行った。
雪解けが始まったといっても、息が白くなるほど寒い。
汗をかくくらい身体が温まると、身体からも湯気がたつ。
この所、ヘルベルトの元気が無いようだった。
自分の身体が思うように動かないからなのか、それを紛らわすように替天行道を書き写していた。
ガチャ。
小屋の扉が開く音がしたので振り向くと、ヘルベルトが外に出て来ていた。
薄着で、動きやすいような格好である。
僕が言うのもなんだが、とても雪の中で過ごす服装ではない。
「ヘルベルト、どうした」
僕は、このところ口調を変えるように意識していた。
「いや、久しぶりに調子が良かったので」
ヘルベルトはそう言うと、僕の前に立ち、体術の構えをとった。
「激しい動きをしても大丈夫なのか」
ヘルベルトは、こくりと頷いた。
「分かった」
彼に合わせて僕も体術の構えをとった。
気合いを放つ。
ヘルベルトからも、気が放たれている。
監獄で修行していた時と、強さは変わらない。
ヘルベルトが、先に動いた。
基本的な突きだが、鋭い。
片手で払い、逆の手で脇腹を突く。
手応えはあったが、ヘルベルトの顔は動かなかった。
しばらく、体術の組み合いをした。
次第に、ヘルベルトからも湯気がたつ。
至近に間合いを詰めてきたので、僕はヘルベルトの腕を担ぎ、雪の上に身体を投げた。
彼の巨体は綺麗に宙を浮き、大の字で寝そべった。
「強く、なられた」
息を弾ませながら、ヘルベルトが言った。
「初めて、ヘルベルト相手に手応えを感じたよ」
監獄での修行以来、初めてヘルベルトに勝った瞬間だった。
「ユキト殿、私はこれまで、あなたの護衛として付き従うつもりでした」
「でした? これからは違うのか?」
「私よりも強い方を護衛しても、仕方ありません。それに、そんな体力も今は残っていない」
「何か、思い定めたことがあるようだな」
「はい」
ヘルベルトが、身体を起こした。
「私は替天行道の志を広めるために、旅をしようと思います。有望な仲間を集め、反乱に協力します」
そう言ったヘルベルトの目は、輝いていた。
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