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【第四章】

【第三十八話】吹雪の山中

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 馬が潰れ、雪の中に放り投げられた。
 
 
 不意のことだったので、僕は受け身をとれずに倒れ込んだ。
 
 
 いつの間にか、かなりの雪が積もっていた。
 
 
 どれだけの時間駆け続け、バーゲス監獄からどれくらい離れたのだろうか。
 
 
 幸いにも、足跡は降った雪が消してくれる。
 
 
 足跡を辿って追跡されることは、おそらく無いだろう。
 
 
 すぐ近くで、ザイフェルトが起き上がったのが見えた。
 ヘルベルトの姿も見える。
 
 
「おーい」
 
 
 ザイフェルトが、大きく手を振った。
 
 
 早く来い、ということだろう。
 
 
「日が暮れ始めている。まずいぞ」
 
 
 雲が厚くて太陽の位置は見えないが、確かに辺りが暗くなり始めている。
 
 
 明かりもないこんな山では、危険が大きい。
 
 
「しかし、落ち着ける所はない。もう少し進もう」
 
 
 僕とザイフェルトで、ヘルベルトを担いだ。
 
 
 彼の体格では、二人で担いでも大変だった。
 
 
 血の流れは、かなり抑えられている。
 
 
 処置したおかげなのか、それとも流れる血がもう残っていないのか、僕には分からない。
 
 
 上半身は裸で、死にそうになる寒さだったが、とにかく歩いた。
 
 
 意識は朦朧とし、時々倒れかける。
 
 
 その度に僕は歯を食いしばり、足を動かし続けた。
 
 
 ザイフェルトも同じように、死にものぐるいで歩いていた。
 
 
 雪も強くなり、風も強まった。
 
 
 辺りもだいぶ暗くなり、足元だけが何とか見える。
 
 
 凍死する直前は、身体が暑くてたまらなくなるという。
 
 
 しかし、今はまだ寒い。
 
 
 ということは、まだ凍死しないということだ。
 
 
 二人でヘルベルトを助け、この三人で生き延びるのだ。
 
 
 僕には、やらなければならない天命がある。
 
 
 それは、この三人のうち、誰かでも欠けたら叶わないことなのだ。
 
 
 絶対に、助ける。
 
 
 一瞬、横に引っ張られたと思ったら、身体が軽くなった。
 
 
 ザイフェルトが崖を踏み外したようで、三人まとめて落下したのだ。
 
 
 やばい。
 
 
 死ぬ。
 
 
 ドサッ。
 
 
 衝撃は凄まじかったが、死にはしなかったようだ。
 
 
 何とか、どこの骨も折れずに済んでいる。
 
 
「おい、ザイフェルト、ヘルベルト!」
 
 
 吹雪と暗闇で、姿が見えない。
 
 
 雪は腰の高さまで積もり、歩くのもままならなかった。
 
 
 手探りで何とか二人を見つけ出したが、ザイフェルトも気を失っている。
 
 
 ヘルベルトも瀕死で、もう命の余裕は無い。
 
 
 生存は、絶望的である。
 
 
 しかし、今までも、絶望だった。
 
 
 クラスメイトに指を刺され笑われる。
 
 
 何度学校を辞めようと思ったか。
 
 
 その辛さに比べれば。
 
 
 今は、仲間がいる。
 
 
 しかも、二人も。
 
 
 僕はどんな事があっても、必ず生きて、仲間を救うのだ。
 
 
 そして三人で反乱軍を立ち上げ、大軍を率いるという夢もある。
 
 
 必ず。
 
 
 必ず。
 
 
 
 
 
 
 
 僕はヘルベルトとザイフェルトを両肩に担ぎ、足を踏み出した。
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