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【第三章】刺客戦編

【第三十六話】刺客、死す

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 刺客の男は、倒れて動かなくなった。
 
 
 彼の目線は、もう一人の刺客の方に向けられている。
 
 
 二人の刺客がどういう関係だったのか、今はもう分からない。
 
 
 あえて彼の瞼は閉じず、僕はヘルベルトに駆け寄った。
 
 
「おいっ、ヘルベルト!」
 
 
 ヘルベルトは僕を庇って、刺客の短剣が脇腹に刺さっていた。
 
 
 まだ短剣は刺さったままで、血が流れ続けている。
 
 
 これを抜くと、出血はさらに多くなってしまう。
 
 
「うぐっ・・・」
 
 
 ヘルベルトは、苦しそうにしている。
 
 
 馬小屋に隠れていたザイフェルトが、駆け寄ってきた。
 
 
「ど、どうしたら」
 
 
 血を流しているヘルベルトを見ると、ザイフェルトは驚き、慌てふためいた。
 
 
「ユキト、殿・・・、ザイフェルト、お、お逃げくだ、さい」
 
 
 絞り出したような声で、ザイフェルトは言った。
 
 
 もう、顔に血の気があまりない。
 
 
「喋るな、出血が多くなるぞ」
 
 
「今なら、じ、城門を、潜れます。馬に、お乗り、くださいっ」
 
 
 周りに兵士は、誰もいない。
 
 
 これだけ時間が経って誰も巡回に来ないということは、やはり牢役人が関わっていると見て間違いないだろう。
 
 
 城門はここからも窺えるが、門番の姿は確かに無かった。
 
 
「二人なら、逃げられる、はずで、す・・・」
 
 
「僕たちが逃げたら、ヘルベルトは」
 
 
「仕方が、ありません・・・」
 
 
 身体が、急激に冷たくなっていくのが分かった。
 
 
 ザイフェルトが自分の服を破り、ヘルベルトの傷に巻き始める。
 
 
 それを見て僕も服を脱ぎ、身体に巻いた。
 
 
 少しでも、寒さからヘルベルトを守らなければならない。
 
 
「ユキト、俺は少しだけなら、馬を操れる」
 
 
 そう言うと、ザイフェルトは馬小屋に駆けていき、二頭の馬を引いてきた。
 
 
「ザイフェルト! ヘルベルトを置いていくというのか!」
 
 
 思わず、僕はザイフェルトに怒鳴った。
 
 
「何を言ってる。三人とも乗るんだ」
 
 
「馬鹿は、寄せ・・・」
 
 
 そう言うヘルベルトには一切耳を貸さず、ザイフェルトはヘルベルトを担ぎ上げる。
 
 
 僕もザイフェルトと共にヘルベルトを馬上に上げ、ヘルベルトの身体を鞍に固定した。
 
 
 二頭の馬は手綱で繋がれていた。
 
 
「ユキトは馬を操れないだろう、後ろの馬に乗ってろ! しがみついていればいい!」
 
 
 そう言って、ザイフェルトはヘルベルトを支えるように馬にまたがった。
 
 
 僕も言われるがまま、繋がれている方の馬に乗って、馬体にしがみついた。
 
 
「ここに居てもヘルベルトは助からん。だったら、三人で抜け出して可能性に掛ける!」
 
 
 ザイフェルトはそう言うと、馬を走らせた。
 
 
 僕が乗る馬も勢い良く駆け始め、僕は振り落とされないように何とかしがみついた。
 
 
 ヘルベルトの予想通り、門番は居なかった。
 
 
 
 
 
 
 
 すんなりと門を潜り、僕たち三人はとにかく遠くに向かって駆けた。
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