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【第三章】刺客戦編

【第三十五話】※刺客視点

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 息は乱れていないが、身体が寒かった。
 
 
 あらゆる状況でも任務がこなせるよう、寒いところには慣らしている。
 
 
 しかし、なぜか今、寒さを感じている。
 
 
 こんな感覚は、初めである。
 
 
 恐怖。
 
 
 最後にそれを感じたのは、いつだっただろうか。
 
 
 思い出している場合ではない。
 
 
 相手が、二人になった。
 
 
 殺すよう命じられているのは小柄の方だったが、そいつを護るように大男がいた。
 
 
 事前にそんな話は聞いていなかったが、暗殺任務に想定外は付き物である。
 
 
 この監獄に潜入して以来、何度か凄まじい気配を感じていた。
 
 
 背中を見られているような、妙な感じである。
 
 
 気にはなっていたが、ユキトからの気配ではなかったので、問題は無いと思い込んでいた。
 
 
 しかし、こう向き合ってみて、はっきりと分かった。
 
 
 あの大男が、気配を放っていたのだ。
 
 
 一番注意しなければならないのは、あの大男だ。
 
 
 何度か拳を打たれそうになったが、危うく骨を折られるところだった。
 
 
 ギリギリの所で威力を殺したが、そう何度も出来ることでもない。
 
 
 そもそも打ち込ませないように闘うのが、最善だった。
 
 
 二人が、立ち向かってくる。
 
 
 大男の方は迫力があるが、速度は無い。
 
 
 代わりに、ユキトの方は早かった。
 
 
 どちらの打撃もかわし、大男に短剣を突き立てる。
 
 
 しかしあと少しというところで、ユキトが邪魔をしてくる。
 
 
 お互いで護りあい、上手く連携していた。
 
 
 ユキトの身のこなしをみれば、あの大男に闘い方を教わったのだとすぐに分かった。
 
 
 動きに、共通する所が多かったからだ。
 
 
 しかし、動きに迷いが無く、鋭い。
 
 
 殺気や気配は薄いが、ときどき一瞬だけ突き刺すような気配を放つ。
 
 
 そういう標的は、あまり相手にした事が無かった。
 
 
 こちらから、今度は突っ込んだ。
 
 
 大男を狙えば、ユキトが邪魔する。
 
 
 逆にユキトを狙えば、大男が邪魔をする。
 
 
 ならば、大男をやると見せ掛けて、ユキトを斬れば良いだけだ。
 
 
 ザンッ。
 
 
 刺さった。
 
 
 しかし、ユキトにではなかった。
 
 
 大男が、かばったのだ。
 
 
 脇腹に刺さった短剣は、引いても抜けない。
 
 
 筋肉に力を入れて、短剣を抜けなくしたのだ。
 
 
 仕方なく、短剣を手放し、ユキトに向かった。
 
 
 大男は、もう動けまい。
 出血で死ぬのも、時間の問題だ。
 
 
「あとはお前だけ、死ね」
 
 
 武器が無くても、首を折るなり、殺し方はいくらでもある。
 ユキトも、丸腰なのだ。
 
 
 動揺しているユキトに接近し、手を伸ばした。
 
 
 あと少しで。
 
 
 首に手が届く瞬間、腹に衝撃が来た。
 
 
 ユキトと目が合い、時間差で痛みが来る。
 
 
 短剣が、自分の腹に刺さっている。
 ずっと、隠し持っていたというのか。
 
 
 
 
 
 
 
 その短剣は、自分が可愛がって育てていた部下が使っていた、見慣れた短剣だった。
 
 
 部下は、ユキトに倒されていた。
 
 
 部下との修行を思い出しながら、意識が遠のいていくのだった。
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