上 下
30 / 50
【第三章】刺客戦編

【第三十話】※ヘルベルト視点

しおりを挟む
 ユキトの武術においての成長は、目を見張るものがあった。
 
 
 常人なら三年から五年は掛かるところを、たったの数カ月で使いこなすようになった。
 
 
 ユキトとの出会いは、天命だったのだと、自分は考えている。
 
 
 彼に仕え、彼に尽くすことで、自分は生きる意味を持てるのだ。
 
 
 そう考えると、監獄での生活も、全く苦ではなかった。
 
 
 自分では、この腐敗した王国は変えられない。
 
 
 修道院から出て王国内を旅して、それは骨身に沁みて分かっていた。
 
 
 この国は、大きい。
 
 
 大きいからこそ、一度腐れば、立ち治ることはない。
 
 
 同じく大きな勢力によって滅ぼされない限り、腐ったまましぶとく続くのだ。
 
 
 その大きな勢力になりそうなのが、ユキトだった。
 
 
 彼には【レジスタンス】のジョブが宿っており、国家を転覆させるのに、最も大切な人物なのだ。
 
 
 それゆえに罪人として追放され、暗殺の危機さえ迫っている。
 
 
 まだこの世界の事について知らないことが多いが、それは今後自分が教えればいいことなのだ。
 
 
 彼は護身術だけでなく、文字を覚えるのも早かった。
 
 
 ユキトを導き、護り、支えるのは、自分の役割なのだ。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 十一月も終わろうとしている頃、数人の囚人が新たにやって来た。
 
 
 息のかかった兵士によれば、王都から移送されてきた囚人らしい。
 
 
 それぞれどんな罪を犯したのかは、その兵士には分からないようだった。
 
 
 王都からの囚人と聞いて、自分は妙な感じを覚えた。
 
 
 スタンナードという役人が、ユキトの命を狙っているのは、確実だった。
 
 
 新たに就任した牢役人も、王都から派遣されている。
 
 
 何かがユキトに迫っているのは、間違いがないだろう。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 後日、刑務労働中に新顔の囚人を見掛けた。
 
 
 ぱっと見は、他と変わらないただの囚人だった。
 
 
 しかし、胸騒ぎは消えなかった。
 
 
 自分だと分からないように、わずかに気を放ってみる。
 
 
 その囚人は、一瞬立ち止まり、またすぐに歩き出した。
 
 
 自分の気に、確かに気付いた反応だった。
 
 
 ある程度は武術の心得がないと、さっきの気は分からないはずだ。
 
 
 つまりあの囚人は、何かしらの武術を遣える可能性がある。
 
 
 顔を覚え、その日一日、その囚人をよく監視した。
 
 
 他に怪しい所は無かったが、何度か気を放つと、確かに気付いていた。
 
 
 あの囚人が、王都から派遣された刺客なのだろうと、自分は確信した。
 
 
 しかし、始末するのは今すぐじゃない方が良い。
 
 
 刺客が一人とは限らないし、すぐに始末したことで、新しく就任した牢役人にも勘づかれる可能性があるからだ。
 
 
 
 
 
 
 
 今はじっと耐え、期を待つのだと、自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...