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【第三章】刺客戦編

【第二十八話】護身術

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 ヘルベルトからの忠告を受け、僕は護身術を教わることにした。
 
 
 教えてくれるのは、ヘルベルトである。
 
 
 彼は修道院に居た頃から、独学で武術を鍛えたという。
 
 
 あの強靭な肉体から繰り出される突きは、さぞ強いことだろう。
 
 
 稽古は刑務労働の合間に、監視の目を抜けてすることになった。
 
 
「いつ刺客が送られてくるのか分かりません。武術はとても奥が深いのですが、最も基本的なことを、抜粋して教えます」
 
 
 まとまった時間は、無かった。
 
 
 監視の兵は、頻回に回ってくる。
 
 
 その都度中断し、刑務労働に戻った。
 
 
 牢に戻ってからは、体を鍛えることに専念した。
 
 
 敵を想像し、それを相手に戦うこともした。
 
 
 僕とヘルベルトが護身術の稽古をしている頃、ザイフェルトは引き続き文字を学んでいた。
 
 
 既に文字はほとんど覚え、算術などにも手を付けている。
 
 
 意外にも、彼は勉強を楽しんでいた。
 
 
 もっと若くに文字の勉強をしていれば、彼の人生は変わったものになっていただろう。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 僕が稽古に明け暮れていたある日、ヘルベルトが新たな情報を仕入れてきた。
 
 
「新しい牢役人が、就任したようです」
 
 
「そうなのか」
 
 
 ヘルベルトは、何か不安がっているようだった。
 
 
「それが、どうやらその牢役人は、王都から派遣された者のようです」
 
 
 王都から。
 
 
 とっさに、スタンナードのことが思い浮かんだ。
 
 
 おそらく、その人事にも何かしら手を加えているのかもしれない。
 
 
「どのような人物なのかは分かりませんが、警戒するに越したことはないと思います」
 
 
 ここは牢城で、しかも僕は囚人である。
 
 
 出来る対策は、かなり限られていた。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 ~王国暦七〇九年 十一月~
 
 
「ユキト殿、いきますよ」
 
 
 向かい合ったヘルベルトが、そう言って構えをとった。
 
 
 僕もそれに合わせ、構えた。
 
 
 あれから僕は稽古を重ね、ヘルベルトと実戦を想定した立ち合いもするようになっていた。
 
 
 ヘルベルトが言うには、僕の武術の成長スピードは恐るべきものだという。
 
 
 たったの数カ月で、並の大人以上に動けるようになっているらしい。
 
 
 しかし、ヘルベルトは更に上を言っていた。
 
 
 これまで、立ち会いで僕が勝ったことは、一度もない。
 
 
 ヘルベルト自身は自分をまだまだだと言っていたが、僕にはそうは思えなかった。
 
 
 それだけ、武術の道は果てしないということだろうか。
 
 
 ヘルベルトが、攻めてくる。
 
 
 僕はそれを、引くことなく受けた。
 
 
 さすがに、力では負ける。
 
 
 しかし、僕にはヘルベルトにはない、速度を持っていた。
 
 
 ヘルベルトが大きく突いてきたので、それをかわし、身体がすれ違った。
 
 
 立ち位置が、入れ替わる。
 
 
 一撃もくらわなかったのは、初めてだった。
 
 
 
 
 
 
「さすがです、ユキト殿」
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