24 / 50
【第二章】バーゲス監獄編
【第二十四話】とある情報
しおりを挟む
~王国暦七〇九年 七月~
脱獄騒動があってから、ひと月が経った。
相変わらず兵の監視は厳しく、囚人たちも萎縮している。
ヘルベルトやザイフェルトと会話する機会も、かなり減ってしまっていた。
今のままでは、脱獄は不可能だろう。
そんな中、偶然にも三人が同じ刑務労働に配された。
「相変わらず、監視が厳しいね」
「ええ、私が撒いた銭も、もう効かなくなりました。こうやって三人が揃うのも、次はいつになるのか」
すでに、雨季は過ぎている。
これからは暑い時期が続き、さらに刑務労働が過酷になるだろう。
「再び監視の目が緩むまで待つしかないだろうね・・・」
二人にはまだ話していなかったが、雪が積もれば脱獄出来るかもしれないと考えていた。
いずれにせよ、それは何か月も先の事である。
◇◇◇◇◇
その日の深夜だった。
寝ていた僕は、気配を感じて目が覚めた。
気配を感じて起きるのは、これが二度目である。
今回も、ヘルベルトだった。
「どうしたの?」
「起こしてしまって、申し訳ありません」
ヘルベルトは、地面に正座していた。
思い返せば、彼が横になって眠っているのを、僕は見たことがなかった。
いつも、僕が寝る時も座っているし、起床する時には彼もすでに起きているのだ。
「今日、とある兵士から聞きました。どうやら近日中に、このバーゲス監獄に王都からの視察団がやって来るそうです」
脱獄事件が起きてこの方、ヘルベルトが事前に撒いた銭は効かなくなっていた。
刑務労働の配属を操作する事はもう出来なくなったはずだが、どうやら情報を提供してくれる人物はいるようだ。
「視察団って、つまりは?」
「おそらく、脱獄事件が発生した事が王国軍の中央に発覚し、締め付けの意味も込めて視察団を派遣したのでしょう」
「それってもしかしたら、更に囚人への締め付けが厳しくなるかもしれないってこと?」
脱獄するチャンスが、ますます遠ざかってしまうかもしれない。
「おそらくは、そうなるでしょう。それに、ここの牢役人は不正や改ざんをする事で有名です。もしかしたら、それについての調査も兼ねているのかもしれませんが」
牢役人が替わる可能性も、あるということだろう。
「教えてくれてありがとう、ヘルベルト。もしかしたら、何か変化が起きて事態が変わるのかもしれない」
いい方向に変わるとは言い切れない。
もっと悪くなる可能性の方が、大きいのかもしれない。
しかし、それを口にするのはやめた。
◇◇◇◇◇
七月も終わろうとしていた頃、例の視察団が到着した。
そして、その視察団を束ねていたのは、あのスタンナードだった・・・。
脱獄騒動があってから、ひと月が経った。
相変わらず兵の監視は厳しく、囚人たちも萎縮している。
ヘルベルトやザイフェルトと会話する機会も、かなり減ってしまっていた。
今のままでは、脱獄は不可能だろう。
そんな中、偶然にも三人が同じ刑務労働に配された。
「相変わらず、監視が厳しいね」
「ええ、私が撒いた銭も、もう効かなくなりました。こうやって三人が揃うのも、次はいつになるのか」
すでに、雨季は過ぎている。
これからは暑い時期が続き、さらに刑務労働が過酷になるだろう。
「再び監視の目が緩むまで待つしかないだろうね・・・」
二人にはまだ話していなかったが、雪が積もれば脱獄出来るかもしれないと考えていた。
いずれにせよ、それは何か月も先の事である。
◇◇◇◇◇
その日の深夜だった。
寝ていた僕は、気配を感じて目が覚めた。
気配を感じて起きるのは、これが二度目である。
今回も、ヘルベルトだった。
「どうしたの?」
「起こしてしまって、申し訳ありません」
ヘルベルトは、地面に正座していた。
思い返せば、彼が横になって眠っているのを、僕は見たことがなかった。
いつも、僕が寝る時も座っているし、起床する時には彼もすでに起きているのだ。
「今日、とある兵士から聞きました。どうやら近日中に、このバーゲス監獄に王都からの視察団がやって来るそうです」
脱獄事件が起きてこの方、ヘルベルトが事前に撒いた銭は効かなくなっていた。
刑務労働の配属を操作する事はもう出来なくなったはずだが、どうやら情報を提供してくれる人物はいるようだ。
「視察団って、つまりは?」
「おそらく、脱獄事件が発生した事が王国軍の中央に発覚し、締め付けの意味も込めて視察団を派遣したのでしょう」
「それってもしかしたら、更に囚人への締め付けが厳しくなるかもしれないってこと?」
脱獄するチャンスが、ますます遠ざかってしまうかもしれない。
「おそらくは、そうなるでしょう。それに、ここの牢役人は不正や改ざんをする事で有名です。もしかしたら、それについての調査も兼ねているのかもしれませんが」
牢役人が替わる可能性も、あるということだろう。
「教えてくれてありがとう、ヘルベルト。もしかしたら、何か変化が起きて事態が変わるのかもしれない」
いい方向に変わるとは言い切れない。
もっと悪くなる可能性の方が、大きいのかもしれない。
しかし、それを口にするのはやめた。
◇◇◇◇◇
七月も終わろうとしていた頃、例の視察団が到着した。
そして、その視察団を束ねていたのは、あのスタンナードだった・・・。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる