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【第二章】バーゲス監獄編

【第十八話】ヘルベルト

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 ヘルベルトは、不思議な男だった。
 
 
 見た目は暴れ者なのに、口調は丁寧なのだ。
 
 
 それに僕に会うために、わざわざ街で騒ぎを起こして監獄に入ったりする。
 
 
 目的を聞くと、彼は全てではないにしろ、色々と話してくれた。
 
 
「ユキト殿は、この国についてどう思われますか?」
 
 
 単刀直入な問いである。
 色々と思うことはあったが、下手なことは言わない方が良いと思った。
 
 
「どうって聞かれても、僕はほとんど牢か檻車に居ましたし・・・」
 
 
「それでも、移送中に他の街や集落を見てこられた」
 
 
 そう言われて、僕は移送中のことを思い返した。
 
 
 貧富の格差。
 
 
 まずはそれだった。
 
 
 大きな街では商人や貴族、軍人などが良い顔をして、小さな農村では皆が苦しそうだった。
 
 
「街は、栄えていました・・・」
 
 
「それだけですか?」
 
 
「・・・」
 
 
 問いに釣られて喋りそうになるのを、僕はなんとか堪えた。
 
 
「この国は、牢から見ても分かるくらい、腐っています」
 
 
 ヘルベルトは、はっきりとした口調で言った。
 
 
「今日、ザイフェルトとという囚人と、話しをしました。彼もまた、この国に恨みを持っている」
 
 
 昼間の労働中に何か喋っていたのは、その事だったのだろう。
 
 
「ザイフェルトが」
 
 
「ユキト殿の顔は分からなかったので、同じ王都から移送された彼に、あなたの事を聞いたのです」
 
 
 そうか、だから僕が召喚された人間だという事を知っているのか。
 
 
「ザイフェルトには、自分が異世界から召喚された事は話していないのですね」
 
 
「言わない方が、良いと思ったので・・・」
 
 
 巡回の兵は、なかなか来る気配が無かった。
 
 
「英雄として召喚された方が、罪人として捕縛されるなど、とても考えられません。もしかして、王国にとって都合の悪いジョブでも持っていたのではないでしょうか?」
 
 
 核心を突いた質問に、僕はぎくりとした。
 
 
「あなたに、それを話してどうなるのですか」
 
 
 おいそれと、僕の事を話す訳にはいかない。
 
 
 まだヘルベルトの目的も、分からないのだ。
 
 
「ユキト殿、私は、あなたを救いたいと思っているのです」
 
 
 この異世界に来て、初めて言われたセリフである。
 
 
 王都を出る時に、クラスメイトの一野あまりからも言葉をかけてもらったが、ヘルベルトほど直接的な言葉ではなかった。
 
 
「救うって、何から救うんですか・・・?」
 
 
「この国の、不条理からです」
 
 
「・・・不条理」
 
 
 なぜか、不条理という言葉が引っかかっていた。
 
 
 言われなき理由で奴隷身分に落とされたザイフェルトに、ジョブがたまたまレジスタンスというだけで罪人にさせられた僕。
 
 
 どちらも、この世界の不条理によって、苦しい思いをしてきたのだ。
 
 
 
 
 
 僕の中で、何かが動いた。
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