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【第二章】バーゲス監獄編

【第十七話】邂逅

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 新入りの囚人が誰かと喋っているところを見るのは、初めてだった。
 
 
 かといって、特に気にすることでもなかった。
 
 
 囚人たちの噂が本当なら、彼はかなりの暴れ者なのだ。
 
 
 仲良くしようとは、とても思えない。
 
 
 監視の兵も、彼とは距離を取っていた。
 
 
 いくら武器を持っているとは言え、あの巨体と腕力には太刀打ち出来ないと思ったのだろう。
 
 
 考えたのはそれくらいで、作業に戻ると僕はすぐにその事は忘れたのだった。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 その日の夜だった。
 
 
 僕はいつも通り、牢の中で深い眠りについていた。
 
 
 しかし、急に寝苦しくなって、目が覚めてしまった。
 
 
 普段なら日が昇るまで目覚めることは無い。
 
 
 起きたからといって特にやることも無いので、僕は寝相を変えて再び目を閉じた。
 
 
 しかし、何か落ち着かない。
 
 
 プレッシャーや、緊張感にも似たものが頭を冴えさせてくるのだ。
 
 
 これはすぐには眠れないと思い、僕は身体を起こした。
 
 
「やはり、感じたのですね」
 
 
 不意に、野太い男の声がした。
 
 
 驚いて声の主を探すと、向かいの牢からだった。
 
 
 新入りの囚人である。
 
 
 寝言か、独り言だろうか。
 
 
 しかし、声は続いた。
 
 
「あなたです、あなたに話しているのです。英雄殿」
 
 
 英雄と聞いて、僕は驚いた。
 
 
 間違いなく、彼は僕に話し掛けている。
 
 
 照明は消されていて、彼の顔はおろか、姿さえ見ることは出来なかった。
 
 
 他の囚人は眠っているし、巡回も来る気配は無い。
 
 
「僕、ですか」
 
 
 小さな声で、僕は言った。
 
 
「そうです。やはりあなたでしたか」
 
 
「な、何ですか?」
 
 
 どうして彼は、僕が召喚された人間だと知っているのか。
 
 
「気付くと信じて、私は気を放っていたのです」
 
 
「気、とは?」
 
 
 掴み所がない話をしている。
 一体何が目的なのだろう。
 
 
「気とは、言うなれば気配のようなものです。素質のある者にしか、それは感じ取れません」
 
 
 彼は意外にも、言葉遣いがきれいだった。
 
 
 姿は見えないが、僕を向いて正座しているのだと、不思議と分かった。
 
 
「あなたは、一体・・・」
 
 
「ヘルベルト・リーゲルと申します。何者であるかは、今は聞かないでください」
 
 
 ヘルベルト・リーゲル。
 
 
 僕はその名前を頭に入れた。
 
 
 何者かを教えられないような立場なのだろうか。
 逆を言えば、ただの荒くれ者ではないという事だ。
 
 
「それで、何の用ですか?」
 
 
「召喚された英雄の方々で、一人だけ捕縛されたと王都で噂になっておりました」
 
 
「そ、そうなのですね」
 
 
「それで、どうにかお会いしたいと思い、ここに収容されている事を突き止めたのです」
 
 
「会うためだけに、ですか?」
 
 
「その通りです。その為に、近くの街でわざと騒ぎを起こしたのです」
 
 
 僕に会うためだけに、そこまでしたというのか。
 
 
 監獄に入っているということは、罪人の烙印まで押されてしまうのだ。
 
 
 
 
 
 
 
「何が、狙いなのですか」
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