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【第一章】王都追放編

【第十話】城下町

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 王城から出るのは、これが初めてだった。
 
 
 そもそも地下牢に囚われていたので、王城すらほとんど知らない。
 
 
 檻車は馬に引かれ、御者と兵士が六人、牢役人が一人同伴していた。
 
 
 移送される囚人は僕を入れて十名で、それぞれ何の罪を犯したのかは分からない。
 
 
 誰もがぐったりとしていて、生気は無かった。
 
 
 檻車が、王城の門を潜った。
 
 
「お前たちが移送される先は、王都から東へ一ヶ月ほど進んだ先にある、【バーゲス監獄】というところだ」
 
 
 騎馬の兵士が檻車のそばに来て、そう言った。
 
 
 その言葉に耳を貸した囚人は、誰も居なかった。
 
 
 形式的なものなのだろう。
 
 
「監獄に着くまでの間、その檻車から出ることは許さん。抜け出した者は、その場で殺す」
 
 
 物騒な言い方である。
 
 
 囚人のことを、人間と思っていない目をしている。
 
 
「食事は一日一回、柵の隙間から渡す。糞尿は中のバケツに汲み、溜まったら外に捨てろ」
 
 
 言い終わると、騎馬は檻車から離れていった。
 
 
 よっぽど、僕たちの臭いが酷いようだ。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 城下町には、人と物が溢れていた。
 
 
 通り沿いには商店や露店が建ち並び、人の行き交いも活発である。
 
 
 これが、この異世界の日常なのだろうか。
 
 
 クラスメイトの人達も、すでに城下町にも出入りしているのかもしれない。
 
 
「・・・若いな」
 
 
 近くに居た囚人の一人が、ポツリと言った。
 
 
 バサバサの髭をはやした、初老の男だった。
 
 
「お前、いくつなんだ」
 
 
「十八、です」
 
 
 その囚人の目は、輝きを失っていた。
 
 
「とても罪を犯した人間の目じゃねぇ。えん罪か何かか?」
 
 
 なんと答えたらいいのか、つかの間迷った。
 
 
 自分が異世界から召喚されたという事を喋っても良いのか分からなかったからだ。
 
 
「ええまぁ、そんな所です」
 
 
「それは気の毒だな。けどまぁ、このご時世では珍しくない」
 
 
 この世界の現在は、そんなに治安が悪い世の中なのだろうか。
 
 
 城下町の様子を見るに、とてもそうだとは思えなかった。
 
 
「僕は、フユサキ・ユキト」
 
 
「ザイフェルト、苗字は無い」
 
 
「苗字が無いとかあるんですね」
 
 
 ザイフェルトは、初めて顔を僕に向けた。
 
 
「お前、この国の人間じゃないんだな。この国では、身分が低い者には苗字が無いんだよ。苗字があっても、罪人になれば剥奪される」
 
 
 国王が居る時点で予想はしていたが、この国には身分制度があるらしい。
 
 
 奴隷にあたる身分も、存在しているのだろう。
 
 
 城下町は思っていたよりも広大で、いくら通りを進んでも建物が途切れる事はなかった。
 
 
 檻車が近付くと、通行人は嫌がって距離を置いている。
 おかげで、檻車はスムーズに道を進んでいた。
 
 
 
 
 
「フユサキ君」
 
 
 何の気もなしに街並みを眺めていると、見知った顔を一つ見付けた。
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